異世界バチェラー始めました。その1
「やあ! 親友!」
「久々だなあ、カミル」
本日異界の門を潜ったお客様、エルフのカミルを俺はお出迎えしていた。
現在の俺のパートナー、ミリアルの元婚約者であり、エルフ一の里の後継ぎである。
「今日は何だ? 観光か?」
「ははは! 親友に会いに来たに決まっているだろう? ……と、言いたいところなんだがな」
そう言うとカミルの顔が曇った。
「何だ? 相談に乗れそうなことなら乗るぞ……」
次の瞬間、もう一度門が輝く。そして、出てきたのは――。
「え」
出てきたのは、総勢4名のエルフの美女達――なんだこれ?
「ラズリーと申します。本日は宜しくお願い申し上げますわ」
一歩前に出てそう宣言したのはウェーブの掛ったブロンド髪のお嬢さんだ。口元にある大きなほくろが特徴的で、ぷっくりしたピンク色の唇が色香を漂わせる。
「チェリッシュだ。よろしく頼む」
次に前にでてきのたは美しい白い短髪の女性だった。差し出された手を見ると整った顔とは裏腹に小さな傷が目立つ。
「ああ、狩人をしていてね。生傷が絶えないんだ」
活発な印象を受けるボーイッシュな顔立ちから狩人だと聞いて得心が行く。
「あ……バ、バナールです」
おずおずと、二人の間から現れたその子は一瞬ハーフリングかと見紛う小さな手を俺に差し出した。まるでお人形さんみたいだな、と思う。おめかしされ、ドレスを着た人形――、そう言えば皆ドレスアップしていることに気が付いた。ラズリーが赤、チェリッシュが青、バナールが黄色、そして――。
「なんでてめーがいる」
「うるさい豚!」
ミリアルの妹シンディが緑のドレスを着こみそこに居た。
「義兄になろうという者に豚呼ばわりは感心しないぞ?」
「そうですわ、はしたなくてよシンディさん」
シンディはそうラズリーに窘められる。シンディは歯をむいて彼女を威嚇する。おしとやかさの欠片もない。
「そうだぞシンディ、もう少し貞淑に振る舞え。嫌なのはわかるが、態度に出すのはよくない」
カミルにまでそう言われたシンディは顔を真っ赤にして外へ飛び出してしまった。何なんだあいつ……。
「なあ、これ……一体何なんだ?」
「……何だと思う?」
質問に質問で返されるのは感心しないぞ? ……しかし、なんとなくこの構成、疲れ果てた顔のカミル。ありえそうなのは……。
「もしかして、これ、見合いか?」
「正解だ、友よ」
疲れた顔でカミルはため息を吐きながら肯定した。
「ミリアルとの婚約が破綻しただろう? その影響で新たな婚姻関係を結ぼうと各氏族が私に言い寄って来ていてな。私も選べぬ、まだその気はない、とかわしていたが、どうにもできない状況になってきた。それで……」
「私が、提案させて頂いたのですわ」
そうラズリーが補足してきた。
「お話に割って入ってしまい申し訳ございません」
「いや、その、それで?」
「ええ、聞けばカミル様はこちらの世界がいたく気に入っておられるご様子。ならば候補者皆で旅行をし、親睦を深め、候補を絞って頂いては、と。こちらの世界との相性も見れますし、きっとカミル様にピッタリの候補が見つかるでしょう、と」
なるほど、趣味の合う、話の合う者を選ばせるには普段と違う空間にお互いをぶちこんでしまう、というのは悪い話ではない。TV番組のお見合い企画でもよくあるやつだ。あいがのったりとかバチュラったりとか。
「……だから彼女たちには一つ、課題を課した」
「ほう?」
カミルは彼女に続けて口を開く。
「一日、調べる期間を与える。次の日から二名ずつ、私を彼女たちの選んだ店に食事に連れていき、それを気に入った者を暫定的だが、婚約者と認める、と」
なるほどランチとディナーで2回彼は誰かと食事をし、2日間のそれで勝敗を決めようという腹か。
「いいのか?」
「……いいもなにも、どうにもならん。族長を継ぐには元々結婚はしなければならない。なら、出来るだけえり好みはさせて貰いたいところだな」
自嘲気味にカミルは答える。彼は別に候補者を貶めているつもりはないのだろう。ただ、好きになった人と結婚したかったという想いは俺に伝わってくる。
「――カミル」
「謝るなよ、伸介」
言おうとしたことの機先を制されてしまった。
「すまん――これは、言い掛けたことに対してな」
「ああ、それが、友という者だ」
俺とカミルは握手をし、もう一度肩を抱き合った。終わったことはほじくり返さない。それが、礼儀であると思われた。
「それではカミル様、出かけましょう?」
ラズリーはそう言うとカミルの手を取った。
「――いいのか? 調べにいかなくても」
「それも大事ですが、せっかくの異世界来訪ですもの、楽しみましょう?」
そう言うとはちきれんばかりの笑顔を見せ彼女はカミルを引っ張っていく。それをチェリッシュは鋭い眼光で見送り、バナールはオドオドとその場で足踏みしどちらへ向かうべきか戸惑っているように見えた。
「いいの? 行かなくて」
「良い。獲物は最後に射止めればいいのだ」
クールに返し、フッと口元だけ笑う。やだ、この子カッコいい。
「あ、あたしも行ってきます!」
そう言ってようやく決めたとばかりにドタドタとバナールは彼らの後を追った。俺はそのまま玄関を抜け、通りに出て空を仰ぐ。
「……ふう、頑張れ、カミル」
「何言ってんの原因作った豚が」
「おわ!?」
すぐ隣にいたのはシンディだ。
「何してんだ? お前は行かなくても……」
「いいわよ、別に結婚する気なんてないんだから」
そう言ってシンディは口を尖らす。
「あの馬鹿親父に無理やりねじ込まれて来ただけ、元々やる気なんてないの」
「そっか、じゃあ……」
「お姉ちゃんは?」
「ミリアルか? 俺の自宅だけど……会いたいのか?」
「違う、そういうことじゃなくて……」
なんとなく彼女の言いたいことを察する。
――幸せか?
「そう言うことは自分の口で聞け。住所はここだから」
そう言って俺は彼女に仕事用の名刺の裏に住所を書付け渡す。
受け取らないかと思ったが彼女は素直に手を出し、そのまま蹲り、動かなくなる。俺は彼女を置いてその場を去った。出来れば、仲直りして欲しいなと思いながら。
なんかすげーなろうにありそうなサブタイトル。というかアイデアとして悪くなさそう。案外そのうちだれか描くかもしれない。なお明日の更新は仕事と家庭の都合で割と怪しい感じ。




