新宿ダンジョンその4
外伝です。新宿ダンジョンその1からお読みください。この話は不定期更新です。
「――なんだ、ここは?」
隣にいる黒髪長髪の袴っ子お嬢さんが俺にそう訊ねる。
「何って……新宿っすよ?」
エチゴ=キヨノ、そう呼ばれる侍美女は目を白黒させている。ちなみに武器の刀は見つかるとまずいので魔法でカモフラージュされている。持ち運ぶのもどうかと思っておいて来てもらうことも検討したのだが『地竜様にこれを持てと言われている』と断られてしまった。仕方ない、何か危ないことになったら全力で止めよう。
「――いや、しかしこのどこに『迷宮』があるというのだ?」
キヨノさんはそう言って小田急と京王百貨店の立ち並ぶロータリーを眺める。
「そりゃあ、下ですよ」
ロータリーに降り立つとすぐ地下に降りる階段がある。東大付属前のバスから乗車し着いた先のバス停を降りると小田急百貨店を目の前に臨む。ロータリーから信号で渡ればすぐだが、半数以上はそのまま地下に降りる。降りて真っすぐ進めばJR新宿駅西口、右へ行けば小田急や地下鉄、逆に左にいけば丸ノ内線だ。しかし、最も厄介で分かりづらい場所にあるのが大江戸線だ。初見の外国人はまず間違いなく西口で降りたら迷うと思う。
「それで――俺は何を探せば?」
「うむ――人、だ」
「人?」
「ああ、地竜様のダンジョンに入った不届き者、彼らが取り込まれたはずなのだ。彷徨い、何処かにいる。それをすべて見つけ出す。それがまず第一だ」
「なるほど、次は?」
「見つけ出したら簡単だ、この刀でその繋がりを――断つ」
「いやいやいや、殺しちゃ駄目ですよ?」
「違う。取り込まれた者が起点になり、そこから世界の融合が始まるのだ。その繋がりを絶つ。殺すわけではない」
ああ、安心した。新宿で刀を振り回し殺傷事件なんておきたらどうしようかと思ったところだ。間違いなくトップニュースになり、きっと俺の名前と顔も共犯として全国デビューである。
「で、無作為に探すんですか?」
「いや、それぞれ――予言の詩がある」
「予言の詩?」
「ああ、取り込まれた場所を特定するために地竜様が占って下さったのだ。これがそうだ」
そう言って彼女は俺に一枚の羊皮紙のスクロールを取り出した。それを開くと一片の詩が俺にも見える。異世界の言葉は(マジックアイテムにより)俺には翻訳して読めるため、問題はない。そこには、こう書かれてあった。
『――連なる蛇の上に冠する馬の王。その王の元――地の宴集いし場所』
「――わかるか、伸介殿?」
「わかるかこんなもん」
そもそも謎解き(リドル)は苦手だ。
「これ、一個だけなの?」
「いや、一文ずつ表示されるらしい。見つかれば、次だ」
効率悪いなあ。ただでさえ新宿は広いというのに。
「解けぬなら、やはり私がしらみつぶしに探すことにする。すまなかった!」
「ちょ、ちょっと待って!」
言うが早いか、彼女は俺の静止を聞かずに飛び出してしまった。いや、待ってそれは非常にまずい――。
暫くして――というか一時間後、彼女は無事発見された。迷子として。
「――ひ、ひっぐ」
「はいはい、よかったですね~保護者の方が来てくれましたよ~」
駅の交番で俺は初めて泣きじゃくる大人を見た。
「ず、ずびばぜん、あの、あ、あばりにぼその……人が」
話を聞くとどうやら彼女は新宿東口地下で道に迷い、路頭に迷っている間に色んな外国人に『OH! サムラーイ!』と声を掛けられ続け、応対している間に今度は写真撮影会になり、怖くなって逃げ出そうとするも今度はナンパに合い――。
「――そ、そんなまだ結婚前の乙女に対し……あ、あのように親し気に……それでつい、その投げ飛ばしてしまって……」
ようやく落ち着きを取り戻したのか彼女は顔を赤らめ、触られたと思しきキュッと引き締まった袴の上からでもわかる形の良いお尻を摩る。
「彼らのほうもね、やりすぎたということで訴えないそうなので帰って頂いて結構ですよ」
優しそうな婦人警官さんにそう言われ、彼女は肩を叩かれる。
「は、はい……申し訳なく」
「あと貴方、彼女外国籍の方ですか? ここは迷いますので、必ずご一緒に行動してくださいね?」
「あ、はい。目を離さないようにします」
勝手に飛び出したのは彼女だが、そんなこと説明してもどうしようもないだろう。彼女もこれに懲りて勝手に行動しようなどとはもう考えまい。
「――本当に、言い訳のしようもございません……」
交番から出た俺に彼女は頭を下げた。
「いいですよ別に、というか、ここ初見で迷わない人の方が珍しいですから」
「……今後は、指示に従わせて頂きます……」
急にしおらしくなってしまった。
「あの、辛かったらどこかその辺の喫茶店で待っていて頂いて構いませんよ? 見つけたらプリペイド携帯に連絡いれますから」
「――いや、これは私の、家族の責任でもある。それだけは成し遂げさせてくれ」
真っすぐな瞳を俺に向け、彼女はそう訴えかけた。
「――はあ、わかりましたよ。でも二度と離れないでくださいね?」
「心得た」
よかった、分かってもらえたようだ。そう、分かって――。
「あの……」
「な、なんだ?」
彼女は――俺のTシャツを後ろから掴んで離さない。顔を赤らめて、Tシャツの後ろ部分を右の指でつまむようにして、俺についてくるのだ。乙女やんけ!
「――いや、うん、まあ、ごちそうさま」
「……何のことだ?」
漫画のようなシチュエーションに若干憧れがなかったわけではない。というか、袴履いた日本風美女が顔を真っ赤にしてすぐ後をついてくる姿に萌えないわけがあろうか? いや、ない。(この間、わずか0コンマ2秒)
「ああ、それとですけど、ずっと考えていたんですけど、この場所、あそこかなあってのはなんとなくわかりました」
「ま、まことか!?」
嘘を吐いてもっとこの萌え武士っ子を連れまわしてもいいのだろうが、流石にそんなことで新宿を崩壊させるのは忍びない。
「ええ、じゃ、行きましょうか」
俺と彼女の萌え萌え武士ロードは始まったばかりである。
来週頭はこの続き、もしくは本編更新、所により新作(まあ、間に合わないでしょうね)を頑張ります。
週末は更新しないのでノベルデイズで書いている「ライスシャワーの懺悔室」のほうを読んで暇をつぶしていただければ幸いです。(いたって真面目な作品なのでギャグはないです)




