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昭和の匂いは死の香り その1

「結婚式って、たっけえなあ……」


 俺は自宅のノートPCで結婚式場のHPを見ながら深いため息をつく。

 下限は100万前後から、上限だと500万はいってしまう。しかし、すまないがそこまでの貯金はない。いや、なくもないのだが、支払うと貯金が尽きる。これから物入りになるかもしれないのに貯蓄ゼロは非常にまずい。しかし、ミリアルに満足のいく結婚式をプロデュースしたい気持ちは当然ある。金に糸目は付けない、とは言えないが、最低限――いや、少なくとも彼女の満足は最大限にしないといけないと思うのだ。


「――もっと貯金しとくんだったなあ……」


 民泊を始める前はもっとカツカツだった。理由の大半は『外食』だ。俺の生活費のほぼ半分が外食費に消えていたと言ってもいい。新しい店を開拓したり、贅沢な飯を率先して食い歩いたりしたこともある。その都度交通費と飯代が俺の財布を直撃し、散財していた。

 さらにいうなら副業がまったく当たらなかったのもある。小説家としては最初に刷った印税分以外ほぼ貰っていない。コスト的に考えてもハッキリ言ってなんかバイトしてたほうが時給は良かっただろう。それでも好きなことで金が貰えるのだからそこに関しては感謝している。


「何見ているの?」


「え……うん、その結婚式どうするか、と思って」


 自宅の居間でHPとにらめっこしていたら後ろからミリアルが覗き込んできた。


「ねえ、私も手伝ったほうが良い?」


「え、でも悪くない? こっちのこと何も――」


「二人の式でしょ? お互いが協力したほうが楽だと思うけど?」


「……確かにそうだけど」


 男の甲斐性としてその、何というか。


「変に安いプライドを持つべきではありませんよ、ご主人様」


 居間のテーブルの上にそう言ってレイがお茶を置く。


「や、安いって……」


「失礼ですがご予算もまともに確保なされていらっしゃらないのですから、偉そうなことを言うべきではないかと?」


「ちょ――レイさん、ミリアルの毒舌うつってないですかね?」


「あら、事実でしょ?」


 おほほ、と女性二人して俺を笑う。くそう、その通りだよ!


「でも、別に豪華さなんて望んでいないから。希望はあるけど」


「希望?」


「出来ればそうね――こっち伝統の結婚式、がいいかな。こっちの世界に受け入れられたって感じがするから。そのあと簡単な会食でもすればいいでしょう? ちなみに費用は半分私も受け持つから」


「え、いや、ミリアル働き口なんてあるの?」


「ないわよ? でも式まで時間があるんだから見つけてくるわよ」


「そ、そう? いや無理しなくてもミリアル食べさせる分ぐらいは稼いでるよ?」


「でもそれじゃ式の費用足りないでしょ? 自分の分は自分で稼ぐわよ。おんぶでだっこなんてまっぴらごめんよ。こっちに来た以上、私は頼りすぎたりしないわ、貴方にも」


 そう言ってミリアルは不敵な笑みを浮かべる。


「お互いが支え合うからこその、夫婦。素晴らしいご決断です」


 レイがそれに賛同し、俺もそれの気持ちを受け止めた。最初に会った時とは完全に印象が変わったな、と思う。もはや俺の方が、頼りない。


「それでは式場は早めに見つけましょう。半年待ちなどざらですので。と、言うわけで後はお任せします、ご主人様」


 そう言うとレイはミリアルを連れ立って外に連れ出してしまった。二人で式場選びか……仲良く末永く幸せに――いや、結婚するの俺なんだけどな?


     ◆


「はて、上手いこと今日の民泊のお客様のお出迎えを任された感があるんだが」


 別にそこに不満はないが、体よく追い出された感が若干気に掛かった。なんというか、蚊帳の外、みたいな気分である。女性同士でキャッキャうふふとお出かけする


「ま、いいか。気を取り直して――」


 俺が屋敷の門を潜った瞬間、異界の門の方に反応があった。やべ、もう来てるじゃん。


「はいはい――お待たせしま……」


 しかし――光輝いた扉からは誰も出てこなかった。


「あれ? おっかしいなあ……」


 俺は周囲を警戒する。最近は魔力も得たので変な種族に不意打ちされることもない。ふはは、強いぞ俺(鼻ほじ)。


 ――果たして、そうかな?


「え?」


 あれ――、あれれ?


 地面が揺れる。視界が――滲む。気持ち――悪い。


『――魔力がいかに強かろうが関係ないのう。お主とワシはリンクし過ぎる。せっかくだから、楽しませて貰おうではないか』


 まずい。意識が『乗っ取られていく』。

 謎の声が耳に反響し、そのたびに平衡感覚が失われ――う、があああああああああああああ!


『無駄じゃよ。×××よ』


 俺の意識は、そこでぶつりと途絶えた。


 ※※※※※


 板の床に倒れた身体が再び、ゆっくりと起き上がる。己の身体の動きを確かめるように、男は右手の指をゆっくりと握り、開く。


「ふむ、馴染むのう」


 男は笑う。この世を堪能するかのように。そのために奪ったこの身体を最大限に利用する――。


「さて、まずは――」


 男は屋敷の外へ踏み出す。


「飯でも食うかのう」



結婚式、最近はしない人も増えてますよね。正直めっちゃコスト悪いですし、ぼったくりかなと思うこともあります。それでもまあ、やりたい人たちにとっては大事なことなのです。ちなみに私の披露宴会場は既にこの世にありません(笑)。いやあこの業界厳しいですねえ。

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