24時間おっぱい ~エロは恥丘(ちきゅう)を救う~ 後編
「はっ!?」
見慣れた天井――俺が次に目を覚ますと、屋敷に戻っていた。
「あるぇー?」
戻った時の記憶がない。確か俺はサキュバスのエロリン嬢と一緒に吉祥寺でメンチカツを食べていたはずである。
「……う~ん、思い出せん」
そもそも暫く身体と心が乖離していたような気がする。もしかして、丸メンチを食べていたのも夢だったのだろうか? しかし、俺は自分の服に付いた茶色い揚げ物のカスを見てそれが夢じゃないと悟る。て、ことは……やっぱり。
ぷにょん。
「ん?」
俺の右手に当たる感触。めっちゃ柔らかい――。
「んヴぃがhhるhヴhvるふrccrmxrvっふrmhm!」
畳にひかれた布団、その上に寝そべる『素っ裸のサキュバス』その巨大な凶器に俺の手が触れている。
「――んあぁぁん……」
OH……ちょっと待ってクダサーイ?
艶めかしい寝息を立て、彼女が身体をくねらせる。ちょっと――いやかなり描写に困る風景である。そもそもこのシチュエーション、よくあるその――「事後」ってやつでは?
「いやいやいや、やってない。やってない――はず」
しかしあまり自信がない。というか、割とその『スッキリ』してしまっているのだ。
「ええ……ちょっと、まずくねえ?」
しょんぼりした息子。横で寝そべる裸のサキュバス。これでミリアルにでも現場を見られようものならもう完全に――。
「あら、お邪魔だったかしら?」
「え」
薄暗い屋敷の居間――俺の目の前にはミリアルが美しい笑顔で、立っていた。
◆
「ち、違うんです違うんですごめんなさいごめんなさい!」
俺は畳に頭を擦り付け、ひたすら謝る。
「何でもします! 絶対違います! 誤解です!」
「――あら、五回もなされたのですか?」
「いえいえいえいえ! 絶対そんなにしていません!」
「あら、じゃあやはり――したのでは?」
「誤解デース!」
怖くてミリアルの顔が見れない。しかし――急にその、ミリアルがくぐもったような笑い声を上げたので俺は顔を上げた。
「ミリアル……さん?」
「申し訳ございません、ご主人様。私です」
そう言うと彼女は『仮面』を脱ぎ捨てた。
「あ――レ、レイ!?」
異相の仮面を取り変装を解いたメイドのレイがそこにいた。
「ちょ、レイ。びっくりさせんなよ! 心臓止まるかと思ったぞ?」
「いえ、ですがこの状況でどう言い訳をなさるのかと思いましてお灸を据えようかと。ご婚約中だという意識はおありで?」
「いやいや――うん、まあ確かに、はい。ごもっともです」
「……まあですが未遂のようですので今回はご報告はしないでおきましょう。要らぬ火種を持ち込んでも仕方ありませんし」
「え、してないの!?」
「してませんよ。一応お帰りになってからこっそり様子を伺っておりましたし」
「ああよかった……って見てたんならなんかしてよ!?」
「いえ、近づけなかったのですよ。その、欲を魔力として発散させておりましたから。追加で買っていらしたメンチカツや、ほかにも沢山買い込んだ持ち帰りのご飯を大量に食べて、その間ずっと周囲に魔力を放っていたのです。近づけば巻き込まれ、ほら、そのように」
そう言うとレイは俺の横で寝るサキュバスを示す。
「ご主人様に何があったのかわかりませんが、魔力に変質が認められます。欲をみたすため――ご主人様の場合、食欲、でしょうか? それが満たされるまで周囲を魅了、もしくは束縛出来る力、なのでしょう」
「なるほど――それで、か」
このサキュバスの自由を奪って、吉祥寺くんだりまで連れていき、己の飯欲を買い食いで満たして帰ってきた、というわけだ。吉祥寺は特に買い食いに向いている。一日あそこを周回して飯を選んでいくのはかなり楽しい。存分に楽しんだことだろう。
「しかし、使い過ぎは禁物ですね。記憶障害、人格変異、色々副作用もありそうですから……そのように」
「――ですね、気を付けます」
俺は隣に眠るサキュバスの身体にそっとタオルケットを被せた。そして、その傍らにある、紙袋を見つけ、中を確認する。
「後、頼んでいい?」
「――はい、どうぞお任せください」
俺はレイにあとを頼み屋敷を出ると紙袋を持って自宅へ向かう。ミリアルにいま、すごく会いたかった。
◆
「ただいま!」
俺が1Fの居間に飛び込むと――。
「お帰りなさい」
白いエプロン姿のミリアルが俺を出迎えてくれる。
その眩しい笑顔を見ていると――つい。
ぎゅ。
「な、なによ。急に抱き着いたりして……」
「いや、なんかこうしたくて」
「もう――。そんなに、私のこと好きなの?」
「ああ、そうだよ」
俺はミリアルの豊かな尻に手を廻す。罪悪感からか、それとも愛情の確認か。俺は今、再確認していた。やっぱり俺はミリアルが愛しくてたまらな――
「で、何で他の女の匂いがついてるのかしら?」
「――え?」
「何をご冗談を、みたいな台詞は止めてね? 私、鼻は良いのよ」
思わずミリアルの顔を見ると、笑顔は作っているが、目は笑っていない。腰に回した俺のてはいつの間にか、強めにつねられている。
「ええ――っと、その、今日一日、その、お客様について回ってまして――」
「ふうん。で、随分とおっぱいの大きなお客様、だったのよね?」
あるぇー、バレてねー?
「私ね、調べなくてもちゃあんと教えてくれる精霊がついてるのよ?」
「あー、あの、ミリアルさんそれはですね」
「言い訳は結構、実家に帰ってもいいかしら?」
「す、すんません!」
土下座である。
「何もやましいことなど――いやその迫られたりして危なかったですがミリアルを裏切るような真似はしておりません! その、ちょっと裸をみたり、ちょっとだけ触ったりとかありましたが本意ではありません! 俺が――その、僕が見たいのも触りたいのも貴方の身体だけですし!」
ミリアルからの声はかからない。
「本当に申し訳ございませんでした! あの、こちらお土産の丸メンチです! お納めください!」
紙袋を取り出し俺は床に置く。
「――いやよ」
短いが、端的で、絶望的な返事だった。
「ごめんなさい。ミリアル――俺は何があっても君のことを愛して――」
「今度、その店に連れてって」
「へ?」
「私ね、貴方がそのお客と色々したこと、どれもそれほど腹が立たなかったの。ちゃんと、一線も守ったみたいだし?」
「そ、そうなんだ」
「でもね、どうしても許せないの。『その丸メンチの一番美味しい時間を他の女と共有したこと』が」
「――え」
ミリアルは悪戯っぽそうに笑みを浮かべる。
「お土産にそれを持ってきたのが一番むかついたわ。同じものじゃなければ腹も立たなかったでしょうに。最愛のパートナーなんでしょう?」
「――返す言葉もございません」
彼女はつまり、嫉妬したのだ。俺と彼女が美味しい時間を共有したことが。それが、自分にとっては少し味の落ちるお土産で手渡されたことに我慢がならなかったのだろう。
「明日、一緒に行こう? これは俺が一人で食べるから――」
ミリアルは怒ったような顔で俺を一睨みしたあと――。
「いい。これで」
そう言って包みを両手でそっと受け取って、笑顔を見せた。
「え? だってさっき……」
「いいのよ、ちょっと困らせたかっただけだから。それにこれ、美味しいんでしょう?」
「う、うん」
「じゃあ、食べるわ。温め直せばいいんでしょう?」
「えっと、実家には――」
ふふ。と彼女が笑う。
「帰らないわよ、安心して?」
「そ、そっか」
「ええ、こんな程度じゃね」
そう言って彼女は俺の首根っこを掴んだ。
「たとえ貴方の愛情が冷めても、絶対温め直して見せるから」
――我儘なのよ、私。
そう言うと――彼女の熱い唇が、俺のそれに重なった。
というわけで浮気騒動終了。基本的にラブラブな二人ですがまだまだ一波乱あるかな?
このお話自体は二人がゴールインするまでは続く予定。
書きたい店のストック自体はまだあるので開拓しつつ頑張ります。




