母・襲来~短いエピローグ、××まではまだ長い~
収まりきらなかった分を追加。本日中に新宿ダンジョン追加予定です。なお明日は(書ければ)本編追加予定。
「さて、伸ちゃん」
母がウィークリーマンションに上がり込み、俺とミリアルは母に向き合って座っている。
「一緒になることに反対はもうしないわ」
「ええ、ありがとうございます――」
「でもね」
話を区切り、母は俺をジロりと睨む。
「だったら、早く引っ越しなさいな。流石に火事になったアパートに戻るのも、あそこに彼女を住まわせるのも反対するわ」
「う」
もっともな意見すぎて、返す言葉もなかった。会えば理不尽要求ばかりの母だが、割と常識的なことには目ざとい。
「でも――そうそう簡単に見つかるわけじゃ」
「それに関しては、あてがあるから」
「え?」
そう言って母は目の前の床に一枚の地図を置く。
「――あの、これは?」
「使いなさい。もっとも、私からじゃないけどね。おばあちゃん――いや、お義母様からあんたによ」
◆
「――え」
地図の場所に行って驚いた。なんと、中古の土地つき一軒家である。家は小綺麗で、まだ築十年と経ってないと思う。裏手になんと、中庭もある。庭つき一戸建て都内とか、豪勢な。
「え――いいの? これ、使って?」
「いいわよ。これはふじ子さんが他人に貸してたんだけど、海外に移住したから空き家になったものなの。元々私――藤間公子がお義母様から相続させらたもの――ってことにはなってるけど、これあんた用に渡されたのよ。『伸介が結婚する際に渡してくれ』って」
「まじか――」
祖母である藤間ふじ子は俺に幡ヶ谷の屋敷を相続させている。それだけで十分貰っていると思っていたのに、まだこんなものがあったとは……。
「あの、いいの? こんなの貰ったら悪いだろ?」
「いいわよ、元々私は自分で稼いでるもの。相続だって要らないって言おうと思ったのに押し付けられたの。『伸介は絶対金も稼げないし、持て余すだろうけど、嫁には苦労させられない』って。これは伸介じゃなくて、嫁のための投資だってさ」
見抜かれとる……。俺は自分の給与明細と貯金額を思い返し、背筋を冷たい物が伝う。
「ミリアル、あの――」
「ありがたく、使わせて頂きます」
そう言うとミリアルは深々と母にお辞儀した。
「私たちのことを考えて下さって助かります。他にあてもないですし」
「そうよね~。こんな時にも情けないこんな子だけど、是非、見捨てないであげてね?」
母とミリアルは仲良さそうに微笑み合う。逆に俺は妙な居心地の悪さというか、これから――そう、尻にひかれる未来しか想像出来ないでいた。ミリアルさん……結構(精神的に)太いよね?
◆
「と、言うわけでこれから私たちはここに住みます」
「にゃあ」
「レイ――その反応は、何?」
「いえ、戸建てですし飼い猫っぽく振舞ったほうがいいのかなと」
「いつも通りで、よろしく。レイは二階の奥ね、で、俺達は――」
「同じ部屋でいいわ。一階の奥で」
ミリアルさん、わかってるぅ! これで気兼ねなく、げへへ。
「ああでも、キスもハグもいいけど、結婚までは『しない』わよ?」
「え」
「――なにこの世の終わりみたいな顔しているの?」
「え、でもほら、もう結婚するし、いつでも、よくない?」
「だめよ。お腹の大きいまま結婚式したくないわ」
「いや、ほらそこは、避妊具という手もございまして――」
「――それが、嫌なのよ?」
ミリアルさん、ちょっと顔が怖い。
「いいこと? 初めての瞬間も場所も、私が選びますから」
「――は、はい」
そう言われてしまっては、男は引き下がらざるを得ない。お預けかよこんちくしょう!
「ほら、そんな顔、しないの」
ちゅ。
「……はい。了解、です」
「よろしい」
顔が離れ――彼女は美しく、優雅に微笑む。
俺の下心は、こうして彼女の笑顔とキスに見事封じ込められたのであった。
あまりなろうむけじゃない小説をノベルデイズのほうにためしに投下してみました。そのうちこちらにも上げなおすかもしれませんが、読んで頂けると嬉しいです。




