藤間伸介の嫁取紀行~異世界出発~
「さて、行くか」
俺にとって初めての異世界への旅である。同行者はカミル、そして――。
「レイ、大丈夫か?」
「問題ありません」
レイは異相の仮面を被り、ミリアルに変装している。黒髪は染めて金髪に、問題は――。
「ミリアルの妹、か」
彼女には悪いが、今はカミルの魔法で彼女を拘束している。『風霊の戒め』というらしい。彼女の周囲にシルフが集い、その風域から逃れようとすると押し戻される仕組みだそうだ。
「風霊は君が移動すればそれについてくる。勝手に逃げようと試みなければこの術は君を傷つけることはない」
カミルは彼女にそう説明する。
「そういえば、君の名前は?」
三葉か四葉って名前だったらシチュエーション的にドンピシャなんだが。
「――シンディ、です」
全然違った。ちょっとだけ期待したんだが。
「シンディ、君はえーと、エルフの里の近くで君は置いとくことになるけど……あとでまあ、全部終わったらちゃんと解放するから」
「――わかってます」
シンディは大人しく俺の言葉に従う。従っている振りかと一瞬疑ってもみたが、それはカミルに見破られてしまうだろうから、一応信じて問題ないだろう。
で、問題の俺の装備なのだが――。
「お似合いです。ご主人様」
「そ、そお?」
カミルの持ってきた緑色の衣装を借りた。頭も一応カミルのつば広の帽子を被り誤魔化している。問題は面構えがエルフでも何でもないからよく見られたらすぐばれることだが。
「まず私がミリアルさんの居場所を特定しますので、そうしたらすぐにご主人様かカミル様が救出、里を出てすぐに門へ、これで問題ないですか?」
「いいけど――ばれないでいける?」
「九尾族の本領を見せて差し上げます」
一応前回吸血鬼に一蹴されていたレイだったが、今回は汚名返上の機会をうかがっているようだ。
「時間はかけてられないからな。サッと行って、気付かれないうちに離脱。電撃戦以外の道はないしな」
時間は掛ければかけただけバレる公算が大きくなる。とっととミリアルを見つけてあばよとっつぁ~んを決め込むのがルパンの流儀である。
「さ、コードネーム『奴は大事なものを盗んでいきました』を始めるぞ」
「――意味が分からん」「商業作家としてパクリはどうかと思われますが」
そこ、二人同時に否定されるとちょっと傷つくぞ?
「――じゃあ『平成嫁取合戦・ぽんぽこ腹の藤間伸介with E』でいこうか」
しらけ顔のレイをしり目に俺は異界の門を開いた。さあ、行こう。ミリアルの元へ――。
◆
「どうしてこうなった」
俺達は――まあ有体に言おう。今ミリアルのいるグラノラ氏族の里――その中の……。
「大人しくしろ、この人間め」
牢獄に居た。つまり、もう捕まってしまったのだ。あまりにも展開が早く驚いた方もいるだろう。うん、俺も驚いたわ。だって、門からでたらもう囲まれているんですもの。逃げる間もなく俺達は捕縛されてしまったのだ。
ちょっと顔のいかついエルフの兄ちゃんが俺を縛り上げ牢獄へと連れて行った。レイとカミルは別の場所へ連れていかれ、俺一人でこの牢に入っている。見張りは一人、エルフの若造(?)がいるのみだ。
牢獄は――うん、なんかこう、草の牢というか、竹で編んだような、割と原初的な造りではあった。無茶すりゃ壊れるかな? 俺が手を伸ばして確認しようとすると――。
「壁や柵にはあまり触らぬ方がよいぞ? 棘が飛び出す魔法が掛かっているからな」
慌てて俺は手を引っ込めた。エルフの若者はそんな俺の様子を見て嗤っている。
「ご苦労様」
「あ、どうもシンディ様!」
そんなやり取りをしていると、シンディが俺の牢の傍にやってきた。
「このお方と少し話したいから、あちらへ――」
「はっ! 何かありましたらすぐにお呼び下さい!」
そう言うと顔を赤らめたエルフの若者が通路の向こう側へと去っていく。
改めてシンディを見ると、若干だがミリアルの面影を感じる。顔立ちはミリアルがクール系だとすれば、この子はキュートよりだと思う。少し可愛らしい、小悪魔のような――。
「はん、屑が」
「はい?」
「ったくめんどくさいこと画策してくれちゃってさ、何様のつもりよお前」
――えーと、もしかしなくてもこいつ……。
「性格悪いね?」
「うっさいわね! この豚!」
罵り方がそっくりである。あ、こいつ間違いねえや、ミリアルの妹だわ。口が悪いのは家系だったのか。
「猫被ってたのか? てか、いや……よくその本性カミルに見破られなかったな」
「だからあんたは豚なのよ。嘘を見抜ける精霊がいるなら、己を隠し通せる精霊だっているのよ?」
「なるほど、つまり君の精霊はそう言う厚化粧を隠せるスタンド……じゃないや精霊ってことか」
「誰が厚化粧よ! ……ったくあの馬鹿女はどうしてこんな豚がいいのかしらね?」
「豚だって三匹合わされば狼だって撃退出来るぞ」
二匹は全くの役立たずだということは彼らの名誉の為に伏せておく。
「でもご愁傷様ね。豚頭だからすぐに計画が破綻してしまって、オホホ!」
お蝶夫人かお前は、と突っ込みたくなるようなポーズで彼女は高笑いをする。
「もしかして、お前が連絡したのか?」
「ええそうよ! 魔法で私を束縛出来て問題ないと思ってたのでしょうけど、私の精霊は諜報用、遠隔操作可能、自立行動可、そして簡易的なメッセージも飛ばせるのよ。門を開けた時点であちらへ連絡に飛ばし、すぐに囲わせたわけ。ふん、どう? すごいでしょう?」
「へーすごいねー」
出来るだけ感情の籠らない声で返してみる。案の定――。
「何よ! もっと悔しそうにしなさいよ! あんたは姉の顔も見ることなくここで露と消えるんだから!」
「う~ん。ちょっとわからんので教えてくれる?」
「ふん、豚如きに答えて上げるわけないでしょう?」
「ぶひっ 教えてください女王様!」
「ふふん! いいでしょう、答えて上げてもよくってよ?」
こいつちょろいわ。性能面はかなり怖いが、ミリアル以上に性格に難がある様子だ。
「別に卑しいわたくしめがお姉さまと駆け落ちする分には貴方様的には歓迎すべきことなのでは? 家督も含め色々ついてくるのでしょう?」
「いやよそんなの」
「ほう? と、申しますと?」
「私はこんな小さな里で収まる気はないの、もっと大きな――そう海の向こうにあるという理想郷を目指して旅に出たいのよ。だからあのバカ女に出ていかれたら困るの。私のやりたいことが出来ないでしょう?」
現状に満足せずに高みを目指す、なるほど意識高い系だったか。ある意味姉より現実が見えてない可能性も高い。
「じゃあ姉妹そろって外に出ればよくないですかね?」
「……それは嫌」
一瞬、あ、それもあったかみたいな顔をした後、彼女はそれを否定した。
「いい? あのバカ女が先に家を出てみなさいよ! どっちにしろ私の監視が厳しくなって外になんか出れなくなるわ! それに、あいつが先に私のやりたかったことをするなんて……」
無駄に対抗心燃やしているわけか。
「別にどっちだって構わないでしょうに。ミリアルと俺だって、ちゃんと説明して祝福して貰えるならそうしますし。でも状況が許さないわけでしょう? 貴方の場合、単に目の前にある姉のロマンスに嫉妬しているようにしか見えないんですが」
んぐ、と彼女はついに言葉に詰まった。どうやら図星だ。
「こうなった以上俺はちゃんとミリアルのご両親に説明して、真正面から連れていきますよ。応援して頂けませんかね?」
「――姉の、どこがいいのよ? あんな面倒くさい女の」
「そういうところですよ。可愛いと思いますよ? 意地っ張りで、口が悪くて、でも、純粋で。あ、あとおっぱいがいい感じに柔い」
彼女は俺の言葉に顔を真っ赤にして一歩後ずさった。
「と、言うわけでね。絶対に連れて帰る。協力して貰えませんかね?」
「……へ、変態! ほ、ほんと姉にピッタリの馬鹿ね!」
「そうですよ? お似合いだからあきらめも悪いんですよ。――こんなふうに」
「え」
俺はエリザさんに教わった『不可視の領域』を発動させる。この発動中はエリザさん以上の魔力を持たない者からは姿を認識できなくなる。つまり、ほぼ誰からも見えないのと同じだ。俺の姿は掻き消え、彼女の視界に映らなくなったはずだ。
「ちょ――ちょっと、誰か来て!」
彼女が焦って衛兵であるエルフの若者を呼び戻す。二人が焦り、牢の鍵を開け中を確かめに来たところで俺は横をすり抜ける。
「さて――当初の予定とは変わったけど行きますか」
異世界タグつけてもいいですよね?(しつこい)
本当に始まった異世界編ですけど流石にそんなに長くはならない――はず。
飯がないかと思われそうですが飯は出ます。ちゃんと、現代の。




