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新宿ダンジョンその2

本編ではありません。独立したものとしてお楽しみください。なお今日は2回更新です。21時に予約投稿済みです。次話が本編です。

「あっつい~」


 外を歩くだけで汗が飛び出る。この夏は本当に暑い、いや『熱い』。

 幡ヶ谷六号通りの坂を登っているのだが、まだ日も高くない午前中だというのに最早拷問に近い。額から汗が噴き出て、俺の顔を濡らしていく。ああ、どこか涼しいところを歩きたい――。地上にそんな楽園のような場所はない。


「――いや、あるにはある、か」


 たまには、一日どっぷりと『あそこ』を堪能するのも悪くない。うーん、採用!

 俺は今日の客を迎えたらとっとと移動しようと決意する。


「さあて、着きましたっよ……」


 屋敷の玄関を抜け――俺は中に入ろうと――。


「――動くな」


「――」


 ひんやりとしたナイフが、背後から俺の喉元に突き付けられた。


「――どちら、様?」


「動くな、と言っただろう? こっちへこい」


 確かに涼は望んでいたが、こういうのは要らない。


「――ええと、異世界の人、ですよね?」


「うるさい! 口をきくな、私が良いというまで――」


 ビリリリリリリリリリ!


 きゃうん、という声がして、俺の後ろで倒れ込む音がした。


「――だから言ったのに」


 この屋敷についている防衛機能が働いて、後ろの人物に電撃を浴びせたのだ。

 やりすぎなのでは? と思ったがこの機能をつけてくれたドワーフの職人に感謝せねばなるまい。


「で、どんなご尊顔なんですかね?」


 俺が振り向くと、そこにいたのは赤いショートの巻き髪の、レザーアーマーを着込んだ女性だった。わりとまあ、可愛い。暴漢だという一点を除いては。


「……うう」


「レイ呼ぶか? いや、まあ今日は休暇を言いつけているからやめとくか」


 メイドゴーレムであるレイを呼んで処理して貰おうかと思ったが、彼女には今日は休暇を言い渡してある。お盆であり、彼女には行きたいところがあったのだ。そう、元の飼い主、栄太郎爺ちゃんの墓参りである。流石にそれを邪魔するのも躊躇われるので俺はやめておいた。ちなみに俺はばあちゃんの遺言で『墓参りなんてくるな』と言われているので行かないことにしていた。『私の魂はずっとあんたの傍にいるんだし』と怖いことも言っていた。早く成仏してくれ。


「と、言うわけで」


 誰に説明するわけでもないのだが、俺はそう前置きしてから彼女の装備を外してしまうことにした。他意はない。ただ己の安全確保の為である。


「物騒な装備しているなあ……盗賊、かな?」


 使い込まれた短剣にレザーアーマーはどれも歴戦のそれに見える。彼女自身の体躯もなかなかのものだ。二の腕も細いがバネのような筋肉が詰まっているように見える。

 装備をすべて外し終え、彼女が下着姿になったところで――裏手の木戸、異界の門が光始めた。


「あれ? そう言えばこいつどうやってここに入ったんだ?」


 異界の門はこちら側で出迎えないと、基本的に客は入れない。なのにこの暴漢はここにいる。これは、どういうことだろう?


「出迎えないと――ってこれ、どうすんだ?」


 まあいいか、今から言い訳してもどうにもならない、とりあえず今は布団でも被せておこう。


「――お待たせしました!」


 俺が木戸の所に立つと、光が零れ――現れたのは……。


「初めまして、異界の御仁」


「あ、ど、どうも」


 入ってきたのは――袴を履き、見覚えのある大小の刀を腰に差した――侍だった。しかも――女性だ。長い黒髪を後ろ手に縛り、ポニーテールのようにまとめている。切れ長の瞳に長いまつ毛、細長い手足はまるでモデルのようで――その美しい立ち姿に俺は思わずため息が零れた。


「あ、あの。どうも、藤間、伸介と申します」


「エチゴ=キヨノと申す。キヨノ、と呼んでくれ。……すまないが、何かおかしいところでもあるか?」


 俺があまりにもじろじろ見過ぎていたからか、彼女は俺にそう質問を返してきた。


「あ、いえ逆でして。その、貴方の出で立ちが割とこちらの民族衣装的な物に酷似しているというか」


「ああなるほどな。しかし、私の出で立ちも異世界むこうではかなり少なくなってきたがな」


「そうなんですか?」


「ああ、外貨の流入に始まり、自国の文化が廃り、我が国は今岐路に立たされている。そして、愚かにもわが父は――」


 瞼を閉じ何事か考えていた彼女だったが、不意にカッと目を見開き――。


「御免――」


 俺の横を抜け、彼女は俺が布団を掛けて隠していた――。


「あ、そ、それは――」


「見つけたぞ、鼠め」


 彼女は下着姿の異世界人を見るなり、そう吐き捨てるように言った。


「あ、あのう……お知り合いで?」


「ああ、父の子飼いの冒険者だ。やはり……ここに来ていたのだな」


 彼女の瞳は厳しい光を放っている。そして何かを決意したようにこちらに振り返ると――。


「説明せねばならんな。私は……そう『国を救いに来た』のだ」


 黒い瞳に、情熱の炎を燃やし、そう言った。

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