仁義なきミリアル ~ツンデレエルフのりんご飴風・口づけを添えて~
ミリアルはバスタオルで顔を隠したまま動かない。
レイが出て行ってからも暫くその状態で蹲ったままだ。
「……誰もいないから、話しようぜ」
熊柄のプリントがされたバスタオルに隠された頭がブンブンと揺れる。対話拒否である。
「……やだ」
「うるさいツンデレ箱入り娘! ほら、出てこい!」
「やだやだやだやだ!」
ミリアルは逃げ出した、そして押し入れに閉じこもってしまった。
「……あのなあ」
「やだもん! 話すことなんてないもん!」
声の調子からしてどんな顔をして閉じこもっているのか大体の想像がつく。間違いなく、焼けた鉄のような顔をして丸くなっているに違いない。
「やだやだやだのやだもんちゃんよ。そのままでいいから、とりあえず、要点纏めるぞ?」
埒が明かなくても、話をしないと終わらない。
「ミリアルは、えーと、俺が好き、という前提で話をする」
押し入れの中からのたうつような音が聞こえてきたが、まるっと無視する。
「俺は……一応お前の前では、というか基本的に客の前では敬語だ。普段通りなのはくそなまいきなガキに説教したときぐらいだ。だから、その、素の俺は結構ぶっきらぼうで、野蛮だ。んで、ああもう隠しても何も始まらないから、俺はこれから『普通に』喋るからな」
本性を隠しても仕方ない。ここからは、本音でぶつからないと駄目な話だ。
「そのうえで幻滅したなら勝手に幻滅してくれ。俺は、こういう人間だって」
襖の奥から小さく、トン、という音がする。了承、という意味に俺は取った。
「まずだな、嘘は嫌いだ。騙すようなことも嫌いだ。お前が俺を騙して鼻を明かそうとしたその根性は好きになれん。俺を騙そうとして、失敗して、そして嫉妬して正体がバレ、気持ちもバレて、恥ずかしさといらんプライドの高さから自己防衛に走っている――そんなとこだろ?」
襖の向こう側は怖いぐらい静かだ。俺は続ける。
「だけどな張り合った結果、分かったこともある。お前のあの偽りの姿、エリアルさんのことだ」
誰もいないのに、どこかからか、誰かの視線を感じる。ああ、わかったよ。ちゃんと言うよ!
「あっちは好きだ」
ガタン! とひと際大きな音が襖の奥から響く。
「にゃにゃにゃにゃなななななな……」
襖の奥から変な声が漏れてくる。
「あくまでも、偽りの姿のほうだ……その、はずなんだよ、な。でもさ、俺思ったんだよ。あれも、お前の素だろ?」
息を呑んだような音がした。
「少なくとも新宿御苑で食ったビストロの飯食ってる時のお前の笑顔と、帰り際の満足そうな笑顔は嘘じゃないだろ? 姿が変わってようが、お前は心の底から楽しんだ、と俺は思ってる。違うなら……俺の見る目が無かっただけだ」
「――」
荒い息遣いが襖から漏れる。
「それで、少なくともお前が今日来たのは、俺を騙そうとか何か仕掛けてやろうとか、そういう邪なことじゃないんだ。俺が送った手紙の返事を寄こしに来てくれただけなんだろ? で、俺が勘違いさせるような状況や言動しちまったわけだ。……それに関しては、謝る。すまなかった」
暫く、沈黙が続いた。俺は辛抱強く、返事を待った。
「……ごめん。私も、悪かった、わ」
漸く沈黙を破ったのは、彼女のその言葉だった。
「……最初は、ちゃんと謝って、正体を明かすつもりだった。でも、駄目ね、私。下手に意地張って、結局余計なことばかり、貴方から告白して貰うんだって、意気込んでこのざまよ」
どこか投げやりに、彼女はそう言う。
「幻滅したでしょ? 全部嘘っぱちで、薄っぺらくて、見透かされて、本当に、情けない……」
啜り泣くような音が襖から聞こえる。
「……もう、帰るわ」
「え?」
「私、貴方に相応しくない。……ううん、誰にも、好きだなんて伝えるような資格なんてないのよ。だって、私自身が、偽りだもの」
「ミリアル……」
「偽りの仮面をずっと被って皆を振り回して……沢山、迷惑かけた。だから、私帰るわ。迷惑かけた分、少しでも皆の期待にそえるように……」
「おい、ミリアル……」
「ありがとう、偽りの私でも好きだって言ってくれて、嬉しかった。ねえ、もう、帰って――」
「ミリアル!」
俺は強引に、襖を開け放った。
「え!?」
俺は彼女の手を取り、襖から引きずりだす。
「ちょ、ちょっと!」
「嘘なのか?」
「え?」
「俺を好きなの、嘘なのか?」
俺は彼女の手を強く握る。
「嘘……じゃないけど、私には――」
「それでいいだろ!」
「!」
「それがお前の気持ちなら、それでいいだろ! 報われようが、報われまいが、偽りの姿時だろうが関係ない! 俺にそれをちゃんとぶつけろ! 逃げるんじゃねえ!」
――それでいいよ、伸介よ。
「お前は、本当のお前はもっとずっと、欲張りな奴だろ!? 飯で勝ちたい、俺に告白して欲しい、レイよりも好きでいて欲しい、誰よりも愛されたい!」
「わた、私は――」
「俺が、俺がそばにいて欲しいのは、いや、傍にいたいのは、本音で寄り添える、語り合える――」
――あらやだ、私のことみたいだねえ。
ばあちゃんよ、幻聴でも、頼むから茶々はこれぐらいにしてくれ。
――はいはい。後は、うまくやりな。
ばあちゃんの声が脳内から消え、代わりに飛び込んできたのは――。
バチコーン!
「ぶっ!?」
ミリアルの、平手打ちだった。
「んな、ななななな!?」
乙女ポーズで俺は固まる。彼女は力強く拳を握り、決意を込めるようにぶんぶんと振り回す。
「……言いたい放題言ってくれて」
「あのう……」
「……人がせっかく、上手く気持ちを整理しようとしたのに、ひっかきまわしてくれちゃって」
「ミ、ミリアルさ~ん?」
もう一度、彼女は手を振りかぶる。俺は身構え、目を瞑ると――。
ぶちゅう。
「!?」
口を、口で、塞がれた。 彼女の熱い手が、俺の頭の後ろに回る。暫くして、彼女の口がゆっくりと離れる。
「……大好き」
顔が近い。甘い吐息が、俺の唇に触れる。
「……う、うん」
「何よ? これで、満足?」
「う、うん、あ、いや……」
「何よ! 気に食わなかったならハッキリ言いなさいよ、この豚!」
「ぶ、ぶひ……い、いや大変、美味しゅうございました……」
俺はあまりの混乱からか岸朝子みたいな台詞を言ってしまう。
「……ば、馬鹿!」
バチコーン!
真っ赤な――りんご飴よりも真っ赤な顔の彼女から放たれた、今日一番の大きな平手打ちの音が、屋敷に響き渡った。
またしても飯が無い。おかしい。次回はあります。ありますが、明日はなんと更新をお休みします!(仕事のため)
世の中の理不尽に耐えつつお待ちください。




