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仁義なきミリアル ~幡ヶ谷・昔ながらの洋食レストランへ~

「あ、あれ? どうしてここに?」


「私がお連れしました。ご迷惑でしたでしょうか?」


 俺を抱きしめていたレイと離れ、話を聞くと、彼女俺と話がしたいから、ということでここに連れてきた、らしい。


「これは……お久しぶりです。遠いところをわざわざ、ご足労を……あ、どうぞ、中へ」


 しかし、玄関先で彼女は強張った『笑顔』のまま立ってこちらを見ている。ちょっと、怖い。


「私、席を外しましょうか?」


「ああ、レイ、そうして貰える?」


「……いえ、いて下さって構いませんわ」


 そう言うと彼女は玄関で靴を脱ぎ、俺の右手側に座るレイの真逆にドカッと座り陣取った。


「……」


 しかし、何も彼女は喋らない。はてどうしたものかと思っていると、先に沈黙に耐えかねたのは彼女だった。


「何か、仰ることはございませんの?」


「仰ること……ああ」


 今、俺が一番人に伝えたいことと言えば……。


「何か、気がかりなことでもあるんですの? 先ほどから随分と上の空のような……」


「ああ、すいません……」


 そう、実は俺はかなり上の空だった。本来もうちょっとちゃんと彼女と楽しく話すべきなのだがそれが出来ていない。なぜなら、大好きな作家の訃報を受けて、凹んでいたのだ。彼の作品を棚から取り出し、一日読みふけり、一人追悼していたのだ。

 しかし、そんなことを彼女に伝えたところで困るだけだろう。言い辛いことは言い辛い。


「個人的な問題ですから、お気になさらずに」


「……私には、言えないような?」


「え? ええ……」


 その返答をした彼女の顔はどんどん不機嫌になっていくように見える。何故だろう?


「……なによ、私に言えないことって……レイさんとのこと? もう……」


「え? 何か言いました?」


「な、なんでもないわよ! じゃなくて……何でもないです、ええ……そういう問題じゃなくて……ああ、もう、貴方は私のことを……」


 彼女の声は段々と小さく尻すぼみになっていき、何を言っているのかわからなくなる。


「あのう……言いにくいこと、何でしょうか?」


「――私から言わせないで」


 彼女はそれだけをハッキリと言った。


「ううむ……とはいっても」


 何を言ったらいいのかさっぱり回答が思いつかない。察してちゃんの相手は昔から苦手である。


「ご主人様」


 その時、レイが俺に耳打ちしてきた。


「ん?」


「……女性の言い辛いことなど、一つしかないではないですか」


「……わかるのか?」


「私も女性ですからわかります。彼女は、とても切羽詰まっているということが」


「……うむ、それは俺もわかるぞ。しかし、具体的にどうすればいいのか……」


「良いですか? ごにょごにょ……」


「ふむ、うむ、うん? ああ、なるほど」


「何を二人でコソコソ話しているんですの!?」


「ああ、ごめんなさい! 気が付きませんでした、エリアルさん」


 俺は彼女の方へ向き直り、朗らかな笑顔を見せた。


     ◆


「……あの、ここは?」


「え? 飯屋ですけど?」


 俺たち三人は今、幡ヶ谷商店街の最奥、駅前に近い位置にある南欧料理のレストランに来ている。俺はこの店をたまに利用しているが、何よりも店名が好きだった。ジョジョ第四部で出てきた俺の最も好きなスタンド、町中のお金をかき集められる夢のようなスタンドと同じ名前なのだ。

 店内は木目調でシックな落ち着きある空間で、年季の入った安心感がある。席数もそれなりで、奥には個室利用できそうなスペースもある。昔ながらの洋食レストラン、その言葉がぴったりの場所だ。

俺たちは三人で手前の席に着き、にこやかに会話を……するつもりだったのだが。


「あれ? お腹空いていたんじゃないんですか? さ、注文して食べましょう!」


「あなた、ほかに言うことがないんですの!?」


 めっちゃ怒られた。あれ? 俺、何か間違ったかな? 


「た、確かに俺から飯食うことを取り上げたら何も残りませんけど……あの、もしかして、言いたいこと違いましたか?」


 俺は、人が絶望的な顔になるのを初めて見た。なにか、とても失礼なことをしたのかもしれない。


「おい、レイ。なんか違うみたいだぞ?」


「いえ、合ってます。栄太郎様の奥方、ふじ子様もこうして食卓を囲み合いたい方でした。女性と言えば、美味しいごはんと、団らんです。間違いございません」


 真顔でそう答えられては俺も否定しづらい。しづらいのだが、恐らく、間違っている。猫の時の経験だけで、しかも狭い藤間家の習慣でしか判断してないのは明白である。しまった、信用してはいけなかったようだ。


「……あの、なんかすいません。でも、その、入っちゃいましたし、注文、しましょうか」


 申し訳なさそうにそう訊ねると、彼女は苦虫を噛み潰したような顔で「何でもいいから、勝手にして」と答えた。


「じゃあ、本日の盛り合わせを3つで」


「……あの、ご主人様」


「ん?」


「私、こちらのほうが気になります」


 そう言ってレイが指さしたのはメニューボードの牛肉のスタミナ焼きだ。実は俺も好きなメニューなのだが、今日はお客様もいるので遠慮した。スタンダードな日替わりのほうが合うかと思ったのだ。


「いいけど、じゃあスタミナ焼きと、盛り合わせ2つで」


 せっかくだし、後でシェアして分けてもらうかと思い、店員のひげのお兄ちゃんにそう注文した。

 注文してから料理が来るまでの間ずっと、俺たちは無言で待つことになった。明らかに不機嫌をまき散らしている約一名のせい……いや、人のせいにするのはよそう。俺にもきっと、何か原因があることなのだ。


「お待たせしました~」


 そう言って店員のお兄ちゃんが運んできたのはスタミナ焼きにつくサラダとスープだ。俺達盛り合わせ組にはサラダはない。


「――どうして、私たちはスープだけですの?」


 そう言ってエリアルさんはちょっと口を尖らせる。


「ああ、盛り合わせにはワンプレートでサラダものせられてるんです。スタミナ焼きは鉄板皿で出てくるので、サラダは別盛りなんですね」


 俺の説明に彼女は少し安堵した様子だった。


「そう……彼女だけ特別扱いじゃないのね」


「え?」


「……何でもないですわ!」


 やはり、彼女の様子がちょっとおかしい。何だろう? そう言えば妙にレイと張り合っているような気がする。


「とりあえず、スープを頂きましょうか」


 俺はテーブルに置かれている銀色のスプーンを取り白いカップに入ったスープを掬う。

 カップの中には薄い卵の膜が大量に浮かぶ。スープは日に寄って内容が違う。今日は卵とコーンのスープだ。味はこってりとしたようでいて、サラッとした舌触りを卵が与える。そして隠し味に仄かに香るカレーの風味が舌に伝わる。締めにコーンのプチ、っとした食感が楽しい。ああ、美味いなやっぱり。


「どうですか?」


「え? ええ、お、美味しいわ」


 一口飲んだエリアルさんも僅かに口元を綻ばせている。気に入ってくれたようだ。


「あの、エリアルさ――」


「どうぞ! 今日の盛り合わせのミートボールと野菜のトマト煮と、チキンの黄金焼きです!」

 

出来れば、何かわかれば――そう思った時にメインが運ばれてきてしまったのだった。

更新遅れました。

いやあ、今日は全く筆が進みませんでした。それでも週5更新出来たことだけは満足です。

内容はもっと頑張ります。ブクマ、評価、感想など宜しくお願いいたします。

それではまた来週。

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