嵐の前の徹夜の夜 ~エピローグ・予告~
「あ~食った食った」
俺は程よくこなれた腹を摩り、新宿小田急デパート前を歩く。
「……いや、でもなんか悪いです」
「え? 誕生祝ですから、別に気にしなくていいですよ?」
かしこまるビスケット君に俺はそう言う。
「いえ、アメにです。俺だけこんな美味しいもの食べて……」
「ああ……まあ、その埋め合わせはしましょうか。せっかく新宿にいるし……まだ、ちょっと時間あるから待たないといけませんけど」
まだレイからの連絡はない。アメちゃんが目覚めたのならすぐに向かった方がいいかもしれないが、出来ればある程度の不公平感は取り除いてあげたい。
「ま、すぐに開きますから」
俺たちは新宿の地下が開くのを待った。
◆
「おはよう」
「あ……」
目覚めると彼女の目の前には優しく微笑む赤毛の最愛の夫、そしてその傍らにある煌くクリスタルの中で安らかに眠る我が子が瞳に映る。
彼女は今、居間の用意された大きめのベッドの上に寝かされている。
「ああ、あなた……」
「お疲れ様。……ありがとう、アメ。無事に、産んでくれて」
彼はそう言って彼女の手を握る。彼女はその手がいつにもまして、熱いと感じた。
「あなた……少し、変わった?」
「え? いや、いつも通りだよ?」
そう言って彼ははにかむ。
――変わった、けれど――嫌じゃない。
きっと、夫の変化は喜ばしいことだと彼女は察知する。責任感というか、安心感のようなものがいつにもましてある気がするのだ。
「……ごめんよ、アメ」
「……どうして、謝るの?」
謝られるようなことをしたのは私だ、と彼女は思う。急に体調を崩し、そのまま倒れ、旅先で迷惑を掛けたのだと。彼は異世界に来たことを後悔しているのだろうか? それならば、私は何て愚かな……。
「プレゼント、贈ろうと思ってたんだ。すっごい、綺麗な宝石を。でも贈れなくなっちゃったから」
「……私の、せい?」
きっと、こんなことになって沢山お金を請求されたのだろう。やっぱり、私が……、そう彼女が感じた時。
「違う。治療費の出どころなんてすぐにわかることだから、嘘つかないで言うことにしたんだ。君に後ろめたく思われたいわけじゃないよ」
そんな彼の顔に後悔の色が無いことを彼女はすぐに察する。
「だから、代わりにこれを。喜んでくれるかは、分からないけど」
そう言って彼は後ろ手に用意されていたであろう白布を被らせた盆を彼女の前に置いた。
「こんなものしか用意できなかったけど……」
「わあ……っ!」
彼女はそこに置いてあった色とりどりの、宝石のような『お団子』を見て声を上げたのだった。
◆
「お土産に、お団子を買っていらしたのですね」
「ん? ああ、新宿行ったついでにね」
俺は小田急デパートの地下メトロ食堂街が開くのを待って彼と一緒に中二階のようになっている団子屋でこれを買い求めた。今俺は自宅でちゃぶ台の上に置いた団子をレイと一緒に眺めている。
「食べて見なよ。見た目はなじみがないかもしれないけど、美味しいよ」
俺は色を重視したラインナップを彼女の前に晒した。
鮮やかな翠の抹茶餡、こし餡の上に酸味の効いた苺の乗せられた団子、粉っぽくなく、きな粉を練り込んだきな粉餡団子、スタンダードな、しょうゆの飴色が美しいみたらし団子、見た目だけで食欲をそそる色の競演を俺たちは楽しむ。そう、見ていても美味しい、それがここの団子だと俺は思う。
「勿論食べても美味いけど、俺は味は外の和菓子屋のが好みなんだよな。でも、一見や、旅行客にはこういうの喜ばれると思う」
見た目が味に影響することはあると思う。俺は近所の和菓子屋を利用することが多いが、こちらも立派に美味しい。
「でも、よい選択だったと思います。喜ばれたでしょう」
「そう思う? なら良かったけど」
俺たちは笑い合い、そして団子を一本ずつ取る。
「産まれた命に」
俺たちは団子で乾杯した。
※※※※※※※※※
……この時、俺は間違ったことはしなかった。しかし、まさかこの時の行動が、あんなことに繋がるとは、その時の俺にはわからなかったのだ。
新宿で団子を買って渡した。それだけのことだったのに、どうしてあんなことになったのだろうと俺は頭を傾げることになるのだが、それはまたの機会に語ろう。恐らく、とっても長い話になるのだから。
――大長編『新宿大迷宮編』へ続く。
というわけで大長編予告です。ですがこの話、きっと長くなるので特別編チックに分けて更新するかもしれません。すぐに大長編になるというよりはあるていど本編の横で書き溜めてから更新すると思います。(忘れられないうちに更新したいところです)




