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ひとりぼっちのラーメン戦争~深淵より来るもの~

ラーメンが食べたい。 

今、どうしてもラーメンが食べたい。

しかし、今は深夜の0時だ。店などどこもやっていない。――そういえば幡ヶ谷駅前に一軒あったが、今すぐ自転車を飛ばして行くにしても腹の欲求は『今すぐ』だ。仕方ない、こんな時はコンビニしかない。

 俺は家のすぐ近くのセブンに駆け込み、カップ麺のでか〇とエビマヨのおにぎり、そしておでんの卵と大根だけを購入する。ラーメンが食べたい、というのに他の物を購入するのはなぜかといえば、そっちのほうが美味いし、足りないからだ。大体成人男性がカップ麺一つで足りるわけもない。家に帰り、でか〇に熱湯を注ぎ、おでんの器を乗せて蓋をする。

 その間にパリパリの海苔をエビマヨおにぎりに巻き付け、完成を待つ。3分待たずに俺は蓋を開け、投入してあったもやしやらかやく、そして追加で入れたみそソースを混ぜる。

 ――そして、一口。

 

 ずるっ。


 ――そこに、一口おにぎり。


 パリッ。


 ――最後におでんの卵を齧り。


 もにゅ。


 はふはふ。


うめえ! 俺はジャンクなこのローテーションを繰り返す。間に大根、もやしを食いながら口を休めることも欠かさない。しゃくしゃく。エビマヨのプリっとした食感とマヨの味わいがみそと絡み、どんどん俺好みの味になる。そこに海苔の風味が抜けていき、最後に卵で締める。学生時代からの俺の飯屋が開いてない時によくやる伝統のローテーションだ。ただし、太る。

 満足感とでっぷりとした腹をさすりながら俺は布団に潜り込む。味噌の匂いがいつまでも部屋に充満していた。そんな幸せな気持ちで布団に入った俺だったが、何か大事なことを忘れている気がしていた。そう、とても大事な何かを。


「ううん……」


 あーよく寝た。目が覚めてすぐに俺は起き上がることはせず、未だ布団の中で惰眠を貪る。

 布団は良い。仕事がないならいくらでも籠っていたい。それにベッドはあまり好きじゃない。なぜなら俺の寝相が悪いからよく転げ落ちるからだ。その点布団は完璧な理想郷だ。ここがエデンだ。大体人間死ぬときは布団の上である。だからここが天国エデンで間違いない。


 もにん。


「――ん?」


 もにん。ぷにん。


 布団の中で何か俺に当たるものがある。ぷにぷにもにもに……なんだこれ?

 何かがおかしいと思い俺が布団を捲ると――。


「!??!!!!??????」


 黒髪ぱっつんの、裸の幼女が横で寝ていた。


「え、ちょっと待って?」


 お巡りさん、こいつです。

 俺がラーメンを食って寝て起きたら俺は性犯罪者になっていた。何をいたしてしまったかはわからねーが頭がふっとーしそうだよぅ。

いやいやいや、ちょっと待てや、そんな記憶はないぞ!? 大体そんな夢のような状況があったら覚えて……いやいやいや犯罪だから! してないから!

混乱する思考をまとめ――らんねーよ! 何だよこの状況!


 ぱちくり。


「――お」


 俺が戸惑いのさなかに置かれているその時、幼女の瞳が開いた。


「お、おはよう……ございます」


 今この瞬間、悲鳴を上げられたら俺の人生は終わる。さようなら幡ヶ谷、こんにちは堀の中。

 幼女はゆっくりと起き上がり――その口を開け――。


「ふしゅー」


 火を噴いた。


     ◆


 火事にはならなかった。火事には。幸いにして俺のお気に入りの本棚がまるっと消失しただけだ。そう、まるっと。

 その息吹はまるで何事もなかったかのように吹きかけた物を消し去った。なにこれ怖い。

 火というより、何か特性を持ったブレス――なのだろうか?

 しかし分かっていることが一つだけある。この子は、異世界の何かだと。しかし――。


「俺、扉開けた覚えねえぞ……」


 そう、いまの時期、民泊業は休んでいるのだ。民泊は日本の法律できちんと営業日数を制限されている。それは俺の異世界民泊も同様だ。ちゃんと日本の法律を守って営業しているのだ。偉いだろう……っていうか、普通か。

 だから俺は異世界の扉をここのところ触ってもいない。それなのに――どうして?


「ド、ドリスコルに連絡してみよう」


 あいつはこっちに来ているなら電話が通じるし、異世界通話用の道具も預かっている。連絡は取れる――のだが。


『現在この電話は――』『――――――』どちらに掛けても、反応はなかった。どういうことだ? 特に異世界通話の方はTVの砂嵐の様な音が混じり、完全に通話自体が届いていないような印象を受ける。


「……まじか」


 その時、俺のTシャツの端がくいッと引っ張られた。

 見ると幼女が俺の服をひっぱりながら口を開けて、チロチロと火のようなものが見え隠れしている。


「あ、あの――」


『喰う』


 それは声ではなく、イメージとして直接俺の脳に響いてきた言葉だった。


『喰う、食う、喰らう』


 深淵から語り掛けるような言葉。そして彼女の昏く黒い漆黒の瞳からもそれは伝わってくる。すべてを喰らいつくしてやるという、強い意志が。


『く――』


「た、食べさせてあげます! だから、だからちょっとお待ちを! その間これでもお食べ下さい!」


 俺はそう言って家にあった菓子の箱をすべて彼女に投げ渡した。そして這う這うの体で部屋を抜け出し急いで近所のコルモ〇アに駆け込み、子供服をひっつかんで購入しすぐに家にとって帰す。

 戻るさなか、あの幼女の姿をした何かの正体を必死に考える。可能性として俺は二つまで絞り込んだ。


 ――どっちかだ。でも。


 どっちでも恐ろしい。関わり合いになんてなりたくない。絶対に俺が勝てない種族であることは間違いないし、放っておいてもきっとやばいことになる。幡ヶ谷――いや世界の危機である。今、こんな世界の片隅で第三次世界大戦が始まりそうだと言っても誰も信じてくれないだろう。俺の日常は常にコメディかと思ったらホラーでありサスペンスである。まじで止めて欲しい。俺はただ、平和に飯を食いたいだけなのだ。

 ふと、藤子不二雄短編にあったひとりぼっちで異星人の作ったロボットと戦う話を思い出した。子供のころ読んだときはピンとこなかったが、大人になって読むとまた違った目線で楽しめる。さすが藤子先生だ、こんな時でも俺の気持ちを代弁してくれる。思わず俺は乾いた笑いが零れた。


 ――そして、俺の孤独な闘いが始まった。世界を守るための。ラーメン戦争である。


ホラー回。


……嘘です。まあきっと世界の危機はラーメンがすくいます。主にレンゲで。


土日更新はないので次は来週です。


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