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池袋の帝王 その7

 ――世話になった。


 そう言い残して彼女はこの地を去った。――眷属たる魔法生命体ゴーレムと共に。

 屋敷に残った俺は――。


「で、話を聞かせて貰おうじゃないか、ニャルラトホテプ様?」


 問いかけた虚空から、無貌の神は、にゅ、と現れる。


「――僕の答えより、まずは君の見解を聞かせて貰いたいところだけどね?」


「めんどくせえ」


「でもほら、手続きって、大事だよ?」


 ケラケラと、人を喰った様な顔で奴は嗤う。


「――推察するに、お前が彼女に今まで『政治的に』介入、協力しなかったのは、しなかったわけじゃなくて出来なかっただけ――違うか?」


「ふふ、続けて?」


「……お前は介入したいが、何か条件的な縛り、もしくは邪魔があった。だからそれを俺を介してどうにかしたかった。『自分じゃ動けない縛りの為に』。だから俺にこんなまどろっこしいことをさせたんだ。自分の依り代を作り、それを介してアドバイスをする――なあ、なんでこんなことした? 何があった?」


「いやあ、ご慧眼ですなあ」


「お道化るなよ、で、正解か?」


「うん、大正解だよ。ただちょっと違うのは、動こうと思えば動けた、でも、それじゃ腹立たしいから、かな?」


「なんだそりゃ?」


「人の歴史の裏で暗躍しているのが僕ら名もなき混沌の神々だけど、最も嫌うのはなんだかわかるかい?」


「直接介入?」


「そう、それだよ。最も興ざめする、一番やっては駄目な例だね」


「……それ、お前俺の時やりかけたよな?」


「あれは冗談だって。本当に宇宙を潰す気はなかったし許してよ~。基本的に僕はからかうだけ、さ」


 全く信用できない言い分だが、一応、何億年分かわからぬほど目上であるため顔を立てることにする。


「しかし、ルールを破るやつもいるのさ」


 急に、奴の視線は鋭さを増した。


「僕らの間に明確なルールなんてないけれど、それでも、やりすぎは目に余るのさ。今回のように、自ら疫病を振りまくような」


「――あれは、神の仕業なのか?」


 奴は頷く。


「僕らトリックスター同士は『やりすぎない』ことで人間で遊んでいる。それは手駒であったり、時には愛玩する対象だったり、色々さ。でも、神自ら駒になって盤上に立つのは――興が冷める」


 冷める――その部分に言いようのない、不穏な風を感じる。


「だから僕もどうにかして関わりたい。でもそれを跳ね返すのはあくまでも、人の力であるべきだ、と僕は思うんだ」


「神に立ち向かうことも?」


「そうだね。あのゴーレムに宿した僕の分体には僕ほどの力は勿論ない。人の力で粉砕することも叶うだろう。でも、知識も、これからやるべき道筋も、彼女に与えることは出来る」


「それは――」


 酷く、困難な、茨過ぎる道である。彼女自身を鍛え上げ、神に挑ませる行為に他ならないからだ。


「――大丈夫だよ。僕がついている」


 俺の不安を察したかのように奴は無邪気に笑った。


「皇帝――すべての頂点に立つ英雄、彼女をそう育て、僕の楽しみを邪魔する奴を必ず排除する。さあ、楽しみだね」


 ああ、おっそろしい。


「任せた……心から応援しているよ、ノビ様を」


 神のたくらみなんかにこれ以上関わりたくない。俺に出来ることは――これからの彼女の幸福を祈ることだけである。


     ◆


「どこ行ってたの? もうドリスコル叔父様たち帰ったわよ?」


 家に戻るとミリアルが居間のテーブルについて、俺の帰りを待っていた。


「ああすまん。ちょっと話し込んでて……で、大体決まった?」


「ええ、仲人とか、式場とか、引き出物とか、後は一番大事な招待客のリスト作成ね」


「助かるよ。……にしても結構な数になったなあ」


 俺はテーブルの上に置いてあるA4数枚のリストを見て思わず眉をひそめた。


「しょうがないでしょう? 私の親族関係は少ないけど、来たいっていう民泊のお客様たちがこんなにいるんだから」


 俺達の結婚をドリスコルを介して知らせた結果、随分とまあ、来たいという物好きが多かった。出費に関しては……考えないようにしよう。


「暫くは民泊業も休みの期間に入るから、結婚式に関しては諸々進めちゃおう。ええと、招待状も送らないと……」


「ああ、招待状それで思い出したわ。これ貴方宛てに届いていたんだけど……」


 そう言うとミリアルは俺に一通の封書を手渡した。


「――え」


「これ、封筒の文章の意味調べたからわかったんだけど……貴方、何か悪いことでもしたの? それとも、私関係で何かまずいことでも……」


 少しだけ不安そうな顔を彼女は見せる。


「いや、違うよ。……そうかあ、きちゃったかあ」


 俺は封筒に書かれた文字を改めて見つめる。数か月前、リストに載ったとお知らせがあった、あれだ。


『東京地方裁判所――刑事部××部』


「これはね――俺が『裁判員』に選ばれたってことなんだ」


 裁判員制度――。刑事事件の被告人の審理に一般市民が参加する制度。その一人に、俺は選ばれようとしていたのである。



祝、100話目投稿しました! いやあ、あきっぽい私がこれだけ続けられるとは思いませんでしたね。

なお、あまりにも反応が悪いのでホッケーマスクは多分削除して新しくなんか書きます(笑)


そして最後に書きましたが次は『裁判員』編です。そう、実は私、この間、裁判員やってきたのです。その経験を活かしフィクションとして仕立て上げた話が次になります。実際の事件を茶化す意図も被告を貶める意図もないので、感想や、意見、そしてなによりこの作品の根幹として存在する『飯』を描きたいと思っております。なお、広くいろんな方に読んでもらえた方がいいかなと思うのでこのシリーズ単体で読めるようにうまく描こうと模索中です。

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