世界一愛おしい「ばーか」。
ここにあげる二作目の小説となります。
文を書くのもまだまだ未熟で、内容もありがちなものかもしれませんが、よろしければ最後までお付き合いください。
毎日毎日、頭の悪い俺に勉強を教えてくれる彼女は俺の中では大切な人、という部類に入る。
ああ、もちろん、勉強を教えてくれるからだけではない。そこは勘違いしないでほしい。
俺が問題を間違えるたびに「ばーか」と笑いながら言う彼女は美しく、惚れない人などいるのだろうかと度々思う。俺が100人いたとして、彼女が道を歩いて居たら例え100人別々の性格だろうと100%、全員が振り向くだろう。
彼女が大切な人、という理由はつまり、俺が惚れているからだ。
なのに、今俺は病院で、一体何をしているのだろうか。
何も、できやしないんだ。
事変わって数時間前。
いつも通りに勉強をすませ、いつも通りに共に帰宅する…はずだったんだ。
帰り道、雨の中車が此方に突っ込んでくるまでは。
もう目と鼻の先にある車は、好きな人の前ではカッコつけたいという阿保みたいな理由でいつもの様に車道側を歩いている俺に当たる、と思っていたんだ。
衝撃に備えて目を瞑った。だが、いつまで経っても痛みなど来ない。その時、脳裏で想像してしまった。ドラマや物語ではありがちなこと。彼女が俺を庇ったところを。
恐る恐る目を開けてみると周りの人みんなが、飛ばされたのかここから少し離れているところに倒れている彼女に駆け寄っていて、車の運転手はバツが悪そうに運転席で顔を下げているのが窓ガラス越しにうっすらと見えた。
それからはもう周りなんか見えなくて、ただ彼女の元にがむしゃらに走った。気が付けば救急車の中にいて、眠っている彼女を見つめていた。
病院に着いてからは慌ただしく、彼女がどうなったのか聞ける状態ではなかった。手術室に運ばれた彼女。そして今俺は、手術室のすぐそばの椅子に座って"死なないで"と何度も願う。
けれども彼女は一向に出てこなくって、不安が募るばかり。ただただ何もできない自分に腹が立つ。彼女を怪我させたのは、まぎれもなく俺自身なのに。
もし俺が目を瞑っていなければ。もし俺が勉強するのをやめていれば。もし俺が少しでも長く勉強していれば。もし彼女と一緒に帰らなければ。
今更悔やんだって仕方がないのに、ただただ後悔の言葉しか出てこなくって「ごめん、ごめん」と泣いた。
「もういっそのこと、彼女と出会わなければ…」
静かに呟いたその言葉は、扉を開く音によって掻き消された。素早く手術室の方を向くと、お医者さんらしき人が立っていて、嫌なくらいに冷静に言った。
「彼女はもう、助からないかもしれない。」
これ程までに恐怖を感じた言葉はかつてあったか。そう聞かれれば俺は瞬時に答えるだろう。無い、と。
「今から彼女を部屋に移すから、着いて来てくれないか?」
気が付けば俺は、お医者さんに掴みかかっていた。
「巫山戯んな!なんだよそれ!彼女を見捨てるのかよ?!」
「すまない。言葉が足りなかった。もう、手は尽くした。後は彼女次第なんだ。覚まさなければそのまま…
それに覚ましたとしても、助かる可能性は少ない。
あとな、まだ此れだけじゃないんだ。他の人だっているんだ。助かる人だってまだいっぱいいるんだよ。助かるかどうかもわからない彼女ばかりに特別扱いなどできないよ。」
足の力が抜けて、座り込む。
ガラガラと音を立てて、眠る彼女を乗せた台車が運ばれていく。その顔には普段の笑顔の面影など全くなくて、けれどもやはり綺麗だった。
涙に濡れた中、気のせいかもしれないが彼女の手が動いたように見えた。
"此処で行かなきゃ、また後悔する"
そう悟った俺は彼女を追いかける。病室について色々な機会が繋がれていく。
一段落ついて、病院の人がみんな部屋から出ていくとベット側の椅子に座り、俺は寝ている彼女に話しかける。でも、罪悪感からか彼女を見ながら喋ることはできなくて、俯いたまま。
「なぁ、知ってるか?俺さ、お前のこと好きだったんだよ。
卒業式に想いを伝えようかな、なんて思ってたりもしてさ。お前と同じ学校に進学する為に柄にもなく勉強も頑張っちゃったり。
…目ぇ覚ましてくれよ、なぁ。なんで俺なんか庇ったんだよ。いつも馬鹿馬鹿言われてるけどさ、馬鹿はどっちだよ。お前の方がよっぽど馬鹿じゃねぇか!
なぁ。お願いだからさ…いつもみたく、笑ってよ。」
下を向いてるからか余計に涙が溢れて来て、ズボンを少しずつ濡らしていった。
「ばーか。」
彼女がいつも言ってるように少し笑って言ってみる。きっと涙でぐちゃぐちゃだろうけども。
ふと、暖かいものが頰に触れた。
少し固まった。でも、ゆっくり前を向くと、彼女が俺に手をのばしていた。
「ば、か」
掠れた声で、けれどもはっきり聞こえた彼女の声。急いでお医者さんを呼ぶ。
「彼女は?!助かりますよね?!!」
叫ぶに等しい感じで聞く。
お医者さんは忙しいようで返事をしてくれない。機械の音や道具が擦れ合う音。様々な音で騒がしかった。けれどもその音は虚しくも、妙にはっきりと、聞こえた。今までとは違う音。
ピー、という機械の音。
医療に詳しくない俺だってわかった。
彼女の心臓が止まったってことが。
「う、そだろ、」
さっきよりももっと涙が溢れて来て、ただただ泣いて泣いて泣いて。周りの音なんかまるで聞こえない。そのまま薄れて来た意識を手放した。
***
眩しい日差しで目が覚めた。天井は全く見覚えがない為、その格好のままボーッとしているとどんどん思い出して来た。
もう、彼女はここにはいないのか。俺はこれから、彼女がいない世界で生きていけるのだろうか。どうやって生きていけというのだろうか。
なんでこの世の中はこうも、残酷なのだろう。
ゆっくりと体を起こし涙に濡れた目で、視野を広げた。
「あれ?起きたんだ。」
ずっと聞いて来た声。絶対に間違えるはずがない声。
涙のせいでよく見えなかったけれど、愛しい愛しい彼女が俺に微笑んでいるのがぼやけて見えた気がした。
「ばーか。」
-fin-
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
結局、最後はどうなったんだ、と疑問になられる方も多いと思いますが(といっても読んでくれる方自体少ないのですが)読者様の解釈にお任せします。
本当に彼女は生きていたのかもしれない。俺が眠っている間にまた心臓が動き出したのかもしれない。そうすればきっと、彼女と俺は幸せに暮らしていく喜劇の小説なのでしょう。
もしくは最後に俺が聞いた・見たのは、幻聴・幻覚で、彼女は死んでいたのかもしれない。はたまた夢だったのかもしれない。その場合はきっと、少しずつ頑張って立ち直っていく悲劇の小説なのでしょう。
曖昧なエンドですみません。ですが、私はこういうジャンルの小説を、最後は読者様の解釈に任せて喜劇か悲劇かで読んでいただけるような小説を書きたいです。そうするとやはり最後は結局どうだったんだ、となると思います。
ですから、今の私の目標は、もし読者様が喜劇だと感じたのなら100%喜劇だと思うような、悲劇だと感じたのなら100%悲劇だと思うような小説を書くことです。解釈の分岐を悟らせないような、そんな小説を書く。
なんだか語彙力のせいで意味のわからない話になってしまい申し訳ありません。
ここまで、後書きも含めて読んでくださった方々、本当にありがとうございました。