5話『クラスメイトと私。それとそのクラスメイトの幼馴染』
「……眠い」
次の日、学校へと到着して、席につくと真っ先に昨日の疲れがドッとやって来た。昨夜、一人でまた髪をいじり続けた結果、眠りに入った時間がかなり遅くなったためである。自業自得と言われると、何も言い返せないというのがなんともやるせない。
しかし、このウトウトした状態で授業を受けるのはよくないだろう。だから私はとりあえず、机の上に突っ伏して、ホームルームの時間になるまで一眠りすることにした。
――瑞穂ちゃん
「……ん」
完全な眠りに入るまでの、目を閉じた瞬間、ふと名前を呼ばれた気がして、目を開けた。そこには、昨日、ちゃんとした友達になった上、遊ぶ約束まで結ばせてくれた一条さんが立っていた。
「瑞穂ちゃん、おはよう。寝不足?」
「一条さん、おはよう……ちょっとね」
「そっか~、やっぱりか~。昨日私のことは『美咲』でいいって言ったのに、『一条さん』なんて呼んじゃうくらいだから寝不足って感じかな?」
「あっ……」
「なーんて、本当に大丈夫?」
「うん、ちょっと寝たら大丈夫だと思う。普段あんまり夜更かししないから慣れていなくて」
「瑞穂ちゃんって見るからに清楚だし、優等生っぽいから夜更かしなんてしないと思ってた。何か訳あり?」
「ん~……ちょっと、考え事をしてただけかな」
最終的には自分に似合いそうな髪型を考えてしまっていたのだから、嘘は言っていないはずである。少なくとも、まだ、美咲には小葵さんのことは言わない方がいい気がした。と言うより、私の本能がそうさせたのかもしれない。
美咲は、「怪しい……」と言わんばかりに私の顔を覗き込むようにして、こちらをじーっと見つめていた。私は、精一杯の作り笑顔を見せて本当に大丈夫であることをアピールした。
「じゃあ、ちょっと聞きたいことあったんだけど今は置いといた方がいいね。別に急ぐことでもないから、あとで聞くよ。それまで寝ておいたほうがいいよ」
「ありがとう。お言葉に甘えてそうさせてもらう……」
そう言って、もう一度机の上に突っ伏した。
そして、ホームルームの時間になり目が覚めた。寝起きということで、少しボーッとしたが、担任からは特にお咎めもなく無事やり過ごした。ホームルームに続いて始まる一限目の授業も同様に乗りきり、授業が終わる頃にはいつもの感じに戻っていた。
休み時間になり、立ち上がって美咲の席へと歩いて行き、先ほど何が聞きたかったのかを尋ねた。
「あ、それね。おーい、達樹ー」
聞くからにして男の子の名前を美咲さんが呼んだ。すると教室の別の場所で話をしていた男子グループの中から一人の男子が抜けてきてこちらへとやって来た。
「おう。どうした、美咲」
「あ、瑞穂ちゃん。こいつ、私の幼馴染の雨宮達樹。瑞穂ちゃんと私だけで遊びに行くのもなんだし、荷物持ちみたいな感覚でこいつも連れて行こうと思ってるんだけど、瑞穂ちゃん大丈夫かな~って聞きたかったの」
「ど、どうも。磯崎瑞穂です……」
美咲が紹介をしてくれたので、こちらも自己紹介をする。当の幼馴染さんは、美咲の「荷物持ち」発言に対してめちゃくちゃ言い返していた。
「お前、人のことを勝手に荷物持ちにすんなよな」
「別にいいじゃん、それに、今瑞穂ちゃんが自己紹介してくれたのに無視してんだけど?」
「はぁ……ったく。……えっと、磯崎だっけ……。何か、邪魔した感じで悪いな」
「い、いや別に迷惑なんてことは……」
「美咲のやつが何でも勝手に決めやがるから……磯崎も言い返していいからな?」
「あ、あはは。度が過ぎたら言おうと思います……」
「で、瑞穂ちゃん、別についてくることには問題ないよね?」
「うん。大丈夫だよ」
「よーっし、決まり! では、ゴールデンウィークまでにゆっくり話あって何するか決めよう!」
そんな感じで美咲さんは、気づけば私を含めたこの三人の仲を取り持つ感じになっていた。それに対して、雨宮君はどうやら不満げなところがあるのかよく言い返していた。だが、その言い返しはどちらかと言うと、長年付き合いがあるからこそできる言い返しなのだろうと、すぐに理解できた。私も仮に、小葵さんと幼馴染とかだったら――。
「何考えてんだろ。私」
「ん? 瑞穂ちゃん何か言った?」
「い、いやなんでもない」
小葵さんのことをなぜ一番先に思いついたのかはわからないが、ゴールデンウィークは楽しく過ごせそうである。