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小葵さんと私。  作者: ライン
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1話『小葵さんと私。それと大学食堂』

 私が、高校に入学してから、半月が経とうとしていた。それと同時に、ある話題が少しずつ増え始め、嫌でも耳に入ってしまうようになった。そう、ゴールデンウィークの話題である。やはりこの時期になると、ある程度みんなが打ち解けてきて、クラス内でのグループというものも出来上がる。ゴールデンウィークに遊ぶことは、その出来上がって間もないグループの仲を深めるにはちょうどよい機会となるのだろう。

 一方、私の方はと言うと、ゴールデンウィークにどこかに遊びに行くなどということよりも、今晩の晩ごはんの材料がないことに気づいてしまったので、買い出しで何を買うのかを頭の中で考えながら下校していた。

 そして、下宿先であるアパートに到着しかかった時、タイミングよくスマホの音が鳴る。通知の画面を見ると小葵さんからのメッセージだった。

『今日金曜日だから、この機会に大学に遊びに来てみない?

 このメッセージが、アパートに到着するかなり前の段階で届いていたとしたら、おそらく買い出しに行かなければならないことを理由に断っていたのかもしれない。だけど、今こうして考えてみると、今日、買い出しに行って疲れた結果、明日は休みだからと言う理由でそのまま寝てしまう未来も見える。さすがに体調にもよくないだろうし、大学には食堂もあるはずだ。せっかくの機会だ。遊びに行かせてもらおう。

 本当は、小葵さんが大学ではどのように過ごしているか気になっていたというのも理由にあるのだが。


 さてしばらく歩くと、小葵さんの通う大学へとたどり着いた。校門の近くで、いかつい顔をした守衛のおじさんが立っていた。

 さすがに、こんな高校生な制服をした私が大学に入ろうとすると止められてしまうだろうか。少し不安に感じた私は小葵さんにメッセージを送ってみる。

『なんか守衛さん立っているんですけど、そのまま入って大丈夫ですか?』

 しばらく待つとメッセージが返ってきた。

『見学しに来ましたって言えば何とかなるよ!』

「ええ……」

 思わず、困惑のこもった声を出してしまった。しかし、このまま校門の付近でスマホの画面を見ながら立ち往生していたら、それでこそ不審者に間違えられかねないだろう。私は、少しだけ勇気を出して、校門へと近づいた。

「あ、あの……」

「ん? 何か大学に用でもあるんですか?」

「は、はい。見学しに来たんですけど……大丈夫ですかね?」

「あぁ、どうぞどうぞ。ゆっくり見ていってくださいね」

 守衛さんは見かけによらず愛想よく対応してくれた。

 私は大学に入ると、その敷地の広さと建物の大きさに圧倒されていた。建物に関しては、大きさもすごいのだが、高校と比べると何だか品のようなものがある気がした。

「……すごい」

 自分でも気づかないうちに言葉が漏れてしまっている。しかし、私は今、制服のままでいたことに気づく。それと同時に、周囲の大学生の人たちから何だか温かい視線を向けられていることにも気づき、少々恥ずかしくなった。早く、小葵さんに会いに行こう。


 そして、小葵さんとメッセージのやり取りをしながら大学のさらに内部へと進み、ようやく食堂へとたどり着いた。食堂はうちの高校にもあるのだが、大学の食堂は、それと比べてかなりオシャレに見えるというのが感想である

「あ! 瑞穂ちゃーん! こっちだよ~」

「小葵さん……」

 小葵さんは先に食堂にやって来ていて席取りをしていてくれた。夕方なので、そこまで人はいないので席取りをする必要はなさそうにも思えたが、お昼にはもっと混んでいるのだろうと考えると小葵さんが席取りをしているのも当然のことなのだろうと思う。

「すいません、お待たせしました」

「いいのいいの。さ、何か食べよ?」

 そして、お互い食べたいものを選んで改めて席へと着いた。自分で食べたい量もうまく調節できる上に、メニューも豊富で、ちょっとしたスイーツも備わっている大学食堂は私にとって非常に魅力的だった。

「じゃあ、食べよっか。いただきまーす」

「いただきます」


「そう言えば、瑞穂ちゃんは、ゴールデンウィークに誰かと遊びに行ったりするの?」

「え? あ……えぇと」

 小葵さんからそんな質問が投げられてきた。急なことだったので、私は驚き返答に困ってしまう。

「もしかして、まだ決まってないのかな?」

「ま、まぁ……」

「自分から誘ったりは?」

「してないです」

「誘われたりは?」

「してないです」

「じゃあ、誰かが誘われてるの見て、それに乗っかったりしようとも?」

「……してないです」

「……瑞穂ちゃん、ダメだよ、そんなんじゃ。せっかくの連休なんだし誰かと遊びに行きなよ」

「……」

「瑞穂ちゃんは大人しくて、美人さんだし、みんな誘いづらいのかなぁ?」

「なんで、そんな話になるんですか……美人かどうかはあんまり関係ないと思いますけど」

 私の顔立ちがどうかはさておき、私は高校では大人しくしている……つもりなのだが、それが災いして話しかけづらい雰囲気になってしまっているのだろうか。一応、話しかけられたらしっかりと返事もしている。考えれば考えるほど、何だかわからなくなってきたので、私は小葵さんに同じ質問を返してみることにした。

「小葵さんの方はどうなんですか? 誰かと遊びに行ったりは……」

「私? 私は、入ってるサークルの関係で新入生歓迎会やるつもりだよ~。カラオケか、飲み会か、遊園地か……今みんなで考え中なんだ~」

「そ、そうなんですか」

 少しだけ、ほんの少しだけなのだが、「私もまだ全然決まってないよ」と返してくれると期待していた私がいた。もちろん、小葵さんの大学生活についてはある程度聞いていたし、映画観賞サークルに所属していて、そちらの方々とも普段から交流しているのも知っている。だけど、それでも、マイペースな小葵さんだからこそ、まだ決まっていないと信じたかった。もちろん、私には私の高校生活があるように、小葵さんにだって、小葵さんなりの大学生活がある。私以外の誰かと交流がないわけではない。きっと、小葵さんの友人さんたちは私が普段知らない小葵さんを知っているのだろう。何だか少し、悔しい。

「そうだ! 瑞穂ちゃん、写真部に入ってるんでしょ? 写真部の人たちと遊びに行きなよ!」

「あ……でも……1年生、今のところ私しか入部していないですし……」

 小葵さんの言うとおり、写真部に所属はしているが、クラス内ですらうまく溶け込めているかどうかわからない私が写真部の、それも先輩たちにうまくゴールデンウィーク遊びに行こうという提案ができるのだろうか。もちろん、1年生が私だけという状況のおかげでよくしてくれてはいるのだが……。

「そういうのは聞いてみないとわからないんだから、積極的に行かなきゃ」

「……そう、ですね」

「よし、じゃあ約束。来週中には頑張って誰かと遊ぶ約束をしてみること」

 スッと自然に小指を私の前に出してきた小葵さん。私も少し気恥ずかしく思いながら小指を出し、小葵さんの小指と絡め合わせる。本当は、この程度のことの約束ははっきりと言えば、面倒くさいと思える。だけど、小葵さんに言われると、どうしても断れなくなってしまう。小葵さんの独特なふわふわした雰囲気がそうさせるのか、それとも私の性格みたいなものがそうさせているのかは定かではない。でも、少し、自分の方から誰かに声掛けをしてみようかとは思った。

「指切りげんまん。ね?」

「はい……」

「瑞穂ちゃんの指、ちっさくて可愛い~」

「そ、そうやってからかわないでください……」

「……瑞穂ちゃんは、いい子だから、きっと、大丈夫。そんな気がする」

「……」

 小葵さんが、優しく微笑みながら、こちらを見つめてきた。こんな顔で見つめられたら世の男の人は大変だろうなあと勝手に思いつつも、私自身、少しドキっとしてしまった。

「……ふふ。もし、瑞穂ちゃんが誰とも遊ぶ予定をたてられなかったら、約束を破った罰として私と遊んでもらおうかな?」

「……」

「あれ? どうしたの?」

「私は……そういう、約束とか罰とか関係なく……小葵さんと……遊びたい……です」

「……」

 小葵さんがポカンとした表情を浮かべていた。もしかして、変なことを言ってしまったのだろうか? どうしよう。すごく気まずい。小葵さんは「えー」「あー」と何か次の言葉を探しているようだった。私も自分の言ったことに何か間違ったことがあったのだろうかと必死に考え直す。

「……そ、そうだよ! それだよ、瑞穂ちゃん。そんな感じで遊びたいって言えばいいの! その調子で頑張ってね!」

「は、はい……」

「……私と遊ぶのは、もちろん、オッケーだからね。ふふ。楽しみだなぁ。ぜーんぶ、瑞穂ちゃんに任せちゃおっと」

「え、そ、そんな。2人で決めましょうよ……せっかくなんですから」

「えへへ。焦る瑞穂ちゃんも可愛いね~」

「だからからかわないでください……!」


 そうこうしているうちに、気づけばかなりの時間が経っていた。とりあえず、私と小葵さんが遊ぶのは確定的にはなったし、私も私で別の日に学校の誰かと遊んでみようかという気になれた。

あとは実行に移すだけであるが、どうしたものか……。


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