辞退の申し出
ルシアは私のそばに立っていたが、カナン様が話しかけた。
「君はエミリーの従者だね?」
「ルシアと申します」
主人として、私が答える。
「君も部屋から出るように」
「ルシアは居てもよいですよ?」
むしろ居てほしい。
「例外はないよ、エミリー。 私の従者も部屋には入れない」
この部屋の主が決めたのならば、絶対だ。
そう言われれば、ルシアは退室させるしかない。
家に帰って、悲しんでいたら慰めてあげよう。
「これでいいかな、エミリー」
私は小さく頷く。
うまく交渉できるか、大事な時だ。
「少し、、昔話を聞いてくださいますか」
「エミリーの声音は、いつまでも聞いていられるよ」
「私の8歳の誕生日の頃のお話です。
いつからか、その日は私とカナン様の婚約披露の日となっていましたね。 しかし、私が高熱を出したため、婚約披露パーティは行われず、婚約は成立しなかった」
「そうだね、そして私の方は、すぐに遠くの学校へ追いやられたんだ」
「あの頃から今日まで、カナン様の婚約者候補という立場につかせていただき、サレニー家への恩恵は計り知れないと思います。 しかし、それも今日限りの事とさせてもらえないでしょうか?」
言った!
「それじゃあ!」
カナン様の声が興奮気味だ。
「エミリー、ありがとう!ようやく了承してくれたんだね!」
面倒な婚約者候補が一人減って、喜んでいるのだろうか?
「嬉しいよ!そうなれば、早く報告とお披露目の場を設けなければ」
「いえ、目立つのは好まないので、ひっそりと行っていただければ」
芸能人だって、婚約解消や離婚で記者会見を開くのは少数だろう。
「そうはいかないよ、王弟の血筋とはいえ、ユグドラシル家とサレニー家の婚約だ。 盛大にしないと。 それに、いっそ早く婚姻の儀を開きたい」