緊張の対面
この玄関ホールだけで、昔住んでたアパートの一室25平米6万2千円全部入る、絶対。
ユグドラシル家お宅訪問の、最初の感想だった。
ここは、王宮の中の住まいではなく、街の屋敷だ。それでも十分でっかい。
カナンは、春休みでこっちに帰ってきている間は、この屋敷で過ごしているらしい。
髪をきっちりと結い、普段は着ないよそ行きを着て化粧を施し、臨戦態勢だ。
緊張しすぎて、今朝の朝食はほとんど喉を通らなかった。
ルシアも心なしか、表情が硬い。
重厚な玄関ドアが開くと、洗練された佇まいの執事が迎え入れてくれた。
「お待ちしておりました」
「本日はお招きありがとうございます」
「では、ご案内致します」
そう言うと執事さんは、階段の方へと歩き出した。
「あの、応接の間へ向かうのでは?」
思わず話しかけてしまう。
お茶会といえば、応接の間で開かれる。
応接の間やダンスホールは、玄関から向かって左の棟に、2階はゲストルームというのが、よくある作りだ。
ユグドラシル家に入るのは初めてだが、この屋敷も、貴族たちの他の家と作りはよく似ているように思えた。
「カナン様はこの屋敷に滞在中、2階の一室を使用されています。 本日のお茶会はサレニー様だけを招待した私的なもののため、お部屋で開きたいとのご希望です」
マジすか。
「そうでしたの。 そのようなお茶会に呼んでいただき、光栄です」
他に招待されたお客様いると思ってた。。
「エミリーが到着したと!!」
軽やかに階段を降りる音とともに、カナン様が現れた。
「客人の前ですよ」
執事さんがたしなめる。
「お前が早く連れてこないからだっ」
口が減らない。
カナン様と目が合う。
初めましてな気分だけど、エミリーとしては8歳以前に会っているし、沙耶としてはゲームでなら何度もデートをした仲だ。変な感じ。
「ああ、エミリー待っていたよ。 ようやく会えた。 堅苦しい挨拶はいらないから、とりあえず部屋へ行こう?」
爽やかな王子様スマイルの少年に手を伸ばされたら、こちらも手を差し出すしかない。
壊れ物を扱うかのように、そっと添えられると、恭しく手の甲にキスを落とされた。
さすが、王家の人だ。キザな動作も様になる。
そのまま手を握られ、カナン様の自室へと案内される。
チラリとルシアを盗み見ると、不機嫌オーラを隠そうとしてるのがよく分かった。
カナン様や執事さんには、バレていないと思うけど。