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霊感0!  作者: えんぴつ堂
まぁまぁ、よくあること
4/25

まあまあ、よくあること①

**************


 いや…まあまあ、よくある事っすよ。


 初恋の相手が、10年前に教師と無理心中した女生徒の霊であったり。

 身内だと信じていた爺ちゃんが、実は全然違う名前で尋ね人としてラミネートされてたり。

 虫唾は走るくらい大嫌いな『命の恩人』から愛の告白を受けるなんてのはね…。


 つかさぁ。


 退院してからと言うもの、家の居心地が悪くてしょうがない。


 普段通りの家族団らん。


 いつもと変わらぬ日常。


 『見知らぬ婆ちゃん』の漬物はいつも通りよく漬かっていて、『見知らぬ爺ちゃん』はいつも通り耳が遠い。


 弟も外道シスターズも母さんも叔父さん達もポルターガイストも変わりない。



 俺だけが違和感を感じている。


**************





 ブツン!




 壁際に追い詰められた俺の肩に、コンパスの針が突き立てられる


 「っ…!」


 いや…避けたから肩で済んだ、コイツは今確実に心臓を狙ってた!


 学校帰り。


 俺は爺ちゃんの『尋ね人』のポスターが他にも無いか捜索すべく、バスには乗らず傷の癒えない足を引きづり松葉杖を突きながらあの路地の周辺を歩いていると突然そいつは現れた。



 背後からの殺気に思わず胸が高鳴ったが、振り向けばそこにいたのは俺と同じ学ランの男__。


 いや、同じと言えば同じだが学ランの左胸に刺繍された校章の色が少し違う。


 俺の学ランの獅子を象った校章の刺繍は『真紅』だが、目の前にいるコイツの刺繍は『紅』微妙な色の違いだがこの色の刺繍が施されていると言う事は…中等部か?



 マイスイートかと思ったじゃん!


 俺のトキメキ返せや中坊(死語)!


 平均よりかなり背のある俺からしたら、かなり華奢で頼りない体格の少年がおもむろに口を開く。



 「旧姓: 小山田 おやまだけい 、現在は 玉城 たまきけいさんで間違いないでしょうか?」


 声変わり特有のハスキーな声が、俺の旧姓と新姓を確認する。


 「は?」


 余りに唐突な質問に俺は混乱した。


 「間違いないですか?」


  沈黙する俺に少年はかくんと小首を傾げる。


 伸びすぎた前髪で表情は読み取れないし、何故か身の危険を感じるのに嘘はつけない雰囲気だ…。


 「…ああ、確かにソレは俺の名前だけど___」

 「始まして___」


 少年の言葉が、被る。



 「____そして、さようなら」




 スパンと、子気味良い音と右足に走る激痛。



 「てんめぇ…っ!」


 少年の左足が俺の右足脹脛を捕らえ、薄っすら笑った顔が俺の怪我を知っていてワザと狙ったのを物語っている。


 普段なら、コレくらい避けれたし食らってもどうと言う事は無かっただろう…だが今は…!


 俺の体は、あっさりバランスを崩す。


 ソレをあざ笑うように、少年は俺をコンクリの壁に突き飛ばした!


 避ける間もなく壁に追いやられた俺が見たのは、いつの間にか少年の手に握られたコンパス___。


 奴は、ソレをご丁寧に180度に開き問答無用に俺の胸…『心臓』目掛けてその針を真っ直ぐ穿つ!


 俺は、認識よりも早く身を捩った事で心臓は死守したが____。


 「…ちっ」


 奴は、さも悔しそうに舌打ちをすると肩に刺さったコンパスを乱暴に傷の中で回転させた!


 「でっ!」


 「避けないで下さいよ、上手く殺せないじゃないですか?」


 奴は、カクンと小首を傾げる。


 「ふざけんな!!」


 「ふざけてなんかいません、僕は無駄が嫌いなのでいつでも本気です」


 なお悪い!!


 ナニこの子!

 サイコ入ってる!


 え…何なの?


 最近の中学生は行き成りコンパスで人を刺すの?


 俺が、たった2日入院生活送ってる間に市内の治安がデトロイト並みに悪化したの?


 「兎に角、動かないで下さい…安らかに死ねませんよ?」


 そう言って、コンパスを引き抜こうとする奴の手を俺は素早く捕まえた。


 ギリギリと、自分の腕を握りつぶさん勢いの握力に少年の顔が強張る。


 「…そんな事言われて、大人しく従う馬鹿いるか!!!!」


 俺は、松葉杖を放し自由になった右手の拳を握る。


 少年は、掴まれた腕を外そうともがくがソレは叶わない…はは!


 元柔道部の握力舐めんな!


 俺は、腕を拘束したまま奴の顔面めがけて右ストレートを____。


 「危ねぇ!切斗きりと!!!」



 バキ!


 側面からまさかの衝撃!


 視界が少しぶれる。



 なにコレ?


 解せぬ。




 が、突如として放たれた左頬へのストレートパンチの力は弱く俺は首の力だけを使って徐々に押し返す。


 そして、行き成り乱入してきた第三者の顔を確認した。


 「あ”?」


 黒髪の短髪、黒縁眼鏡、『紅』色の刺繍の学ランを着た乱入男は、顔中に冷や汗を浮かべた。


 「あ~…久しぶり~元気だった…?」


 玉のような冷や汗を浮かべたまま、『あは★』っと笑うこの乱入男を俺は知っている。


 「邪魔をするな! 小山田おやまだ!!」

 「いやいや! だみだよぉぉぉぉ! 行き成りすぎるしょぉぉぉ!!! それ以前に人殺しダメ絶対!!!」


 通り魔どもは、被害者の俺を挟んで言い合いを始めた。


 「この男は、生かして置けない! 今直ぐ息の根を止める!」


 「相手見て! 高校生よ? それも猛者の集団体育科の特待生よ! いくら怪我してるからって俺等じゃ無理…てか! 『殺人罪』って言葉知ってる!?」


 「そんなもの、どうとでもなる」


 「ならないよ! 無理だからね!」



 なにコレ?


 俺、被害者なのに空気扱い?


 呆然とする俺を尻目に、なおも言い争いを続ける通り魔達。


 「てめぇら…いい加減しろ!!!」


 俺は、コンパス少年の腹に一撃を入れ地面に沈めると肩に刺さったコンパスを引き抜き遠くに投げ捨てた!


 「ちょ! 切斗になに____ぐえっ!?」


 俺に襟首をつかまれ、地面から少し浮き上がった通り魔その弐が情けない声を上げる。


 「事情を説明して貰うぞ…浩二こうじ!」


 浩二と呼ばれた通り魔その弐は『ですよね~』、引きつった笑顔を浮かべる。 



 「うえっ…ビチャ…げほっ!!」

 「うわぁ! 切斗がっ…!」


 「ちっ!」


 腹を押さえ嘔吐するコンパス少年を尻目に、俺は黒縁眼鏡を地面に降ろした。


 「…ホント、久しぶりだね! 圭兄けいにぃ! 行き成りだったから皆心配してたんだよ?」


 玉のような冷や汗を浮かべ、引きつった笑みをこぼすソイツを俺は真っ直ぐ淀んだ瞳で睨む。



 「久々に遇った『従兄』のお兄様を、お友達と二人で襲撃とは穏やかじゃねーな? 事と次第によっては容赦しねーぞコラ?」


 「うえ!! マジ勘弁!」


 この乱入してきた、黒縁眼鏡の名前は『小山田浩二おやまだこうじ


 俺の『従弟』だ。


 『小山田』と言う姓から察して頂くと早いが父方の身内に当る。


 コイツの父親が、俺の親父の兄だ。


 制服からも分かるように、コイツは中等部…たしか二年生だっけ?


 まあ、そんな事はどうでもいい。


 今、問題なのは何故行き成り路上で中学生に命を狙われたかと言うことだ!


 「つか、圭兄…本当に分かんないんだ…」


 「はぁ? 分かる訳ないだろ? 一体何だってんだ?」


 俺、今まで真面目に生きてきましたよ?


 生きた人間に、命を狙われる覚えはありませんが?


 

 「…昨日、圭兄…そこの路地で何してた?」


 は?


 浩二の問いに、俺の心臓が跳ねる。


 昨日、俺はあの路地に爺ちゃんの尋ね人のポスターを確認し…剥がして懐に入れた…。


 本来なら、その場で警察に連絡して爺ちゃんを引き渡して…ホントの居場所に返すべきだった…けど俺にはそれが…。


 「圭兄はさ、切斗から『大事なモノ』を奪ったんだよ」


 ゴクリ。


 と、反射的に唾を飲む。


 「流石に、殺すって言うのはどうかと思うけど切斗の気持ちは分かるよ…もちろん圭兄の気持ちもね…俺ならどちらも選べない…」


 眼鏡のレンズを夕日が赤く染めたので、浩二の表情は読めない。


 「ああ、でも相手が圭兄で助かったかも! 普通の人なら一撃で殺せちゃったからね~ww お陰で切斗が殺人犯にならずに済んだよ! 流石、格闘技系の特待生は違うね~wwはぁ…俺のパーティーにも圭兄くらい強いキャラいたら攻略楽だったのにな~」


 浩二は、うずくまるコンパス少年の下へ向かい苦痛に呻く背中を擦る。


 「圭兄には悪いけど、この件に関して俺は切斗の味方だから…そこん所ヨロシク!」


 年下の従弟は、ニヤリと笑って俺を見上げた。


 「ほら、帰るよ~切斗~頑張って立とうな~」


 浩二は、蹲るコンパス少年の肩を掴んだ。


 「…僕に構う…ゴポッ!!」


 顔面蒼白となったコンパス少年は、もはや黄色い胃液ばかりを嘔吐する。


 「ほらほら~無理するから~」


 そんな友人の姿を物ともせず、浩二は背中をさする。


 「ほら、今日もう無理だから! 今度にしょう! な! 切斗くん!」


 

 浩二は、まるで小さ子供に言い聞かせるような口調でコンパス少年を諭す。


 今度があんのか!?


 冗談じゃネェ…!


 「…構うか…今…すぐ」


 肩を掴む浩二の腕を振り払ったコンパス少年は、覚束ない足取りでふらふらと立ち上がり俺に鋭い眼光を向ける。


 俺は、思わず身構えた。


 ガシ!


 え?


 「切斗___俺の言う事が聞けないのか___?」


 目に飛び込んできたのは、浩二がコンパス少年の襟を掴んでいる後景。


 俺のほうからは、浩二の後姿しか見えないのでその表情までは分からないが伸びきった前髪から覗くコンパス少年の瞳は見開かれ怯えのような物さえ感じる。


 「…っく!!!」


 コンパス少年は、乱暴に浩二の腕を襟から外すと俺の方を睨み付けふらふらと歩き去っていった。


 「…ああ…クソ楽しい」


 友人を見送る背中が、聞き捨てならない言葉を吐く。


 ああ…そうだった、コイツはそういう奴だったよ。


 ドsなオタク…いや、ドMをこじらせたドSなオタクそれが『小山田浩二』という少年だ。


 きっと、あのサイコな狂犬も何らかの方法で調教済みなのだろう。


 まだ若いのに、将来が心配だ。


 「じゃ! 俺も帰るね! くれぐれも夜道の背後には気おつけて~あと、剣にもヨロシク言っといて!」


 「お、おい!」


 物騒な事を言いながら立ち去ろうとする浩二に、思わず声をかける。


 「ナニ?」


 「お前、何処まで知ってるんだ?」


 黒縁眼鏡が、夕日に反射する。


 「…知ってる事しか知らないと思うけど?」


 曖昧な答えだけ残して、浩二は友人を追って足早にその場を去っていった。


 「はぁぁ…」


 通り魔…いや、暗殺者共が十分見えなくなるまで確認し俺はコンクリートの壁を背にその場に座り込んだ。


 疲れた…壮絶に…。


 気を抜くと同時に、ズクンとコンパスで刺された肩の傷が疼く。


 「ちっ…」


 厄介な事になった…何でだよ…爺ちゃん…。


 あまりの事に、頭が追いつかずその場にしゃがみ込んでいると…遠くのほうからチリンチリンと聞き覚えのある音がしだいに此方に近づき俺の前で止まった。


 「こんな所で何やってるか~?」


 頭上から、気の抜けた声が降ってくる。


 顔を上げると、目の前に30代前半の男の姿。


 浅黒い肌に、土建業の作業員御用達のニッカボッカを着用し頭には白いタオルを鉢巻ののように巻いたその人は人懐っこい笑顔を浮かべている。


 「博叔父さん…」


 俺は、力なく笑う。


 『見知らぬ婆ちゃん』の家で一緒に暮らしている『ひろし叔父さん』。


 母さんの弟に当る人で、小さい頃から何かと俺や剣の事を可愛がってくれて裏表の無いとても穏やかな性格の人だ。


 母さん曰く、コレで仕事が長続きせずパチンコ癖が無ければパーフェクトなのに…との事。


 そんな、博叔父さんは今日も仕事帰りにパチンコに行ったらしい。


 背後に停められた愛車のママチャリの籠には、今日の戦利品がこんもりと詰まれている。


 「大丈夫かぁ? 血ぃ出てるやしぇ!?」


 俺の右足を見て、博叔父さんが声を荒げた。


 あ…肩だけじゃなく、どうやら脹脛の傷も開いたらしい…。


 「早く乗れ! 急がんと!!」


 体格の大きめの俺を、博叔父さんは軽々と立たせママチャリの後ろに座らせる。


 流石、土建業なかなかのマッスル。


 博叔父さんは、俺に松葉杖を持たせると『落ちるなよ』と言って猛然とペダルをこぎ出した。







 アロエ(蘭: Aloe)はアロエ科アロエ属の多肉植物。


 日本の一部地域では、アロエをなんにでも効く万能薬として珍重しその信仰にも近い思い込みは今も直受け継がれている。


 俺は今、トランクス一丁と言う姿で自宅の縁側に寝かされ叔父の手により肩と右脹脛の傷口にグチャグチャに切り刻まれたアロエをたっぷりと乗せられていた。


 「あー博叔父さん…俺、病院から薬貰ってるんだけど?」


 「……」


 俺のささやかな反論は、叔父には届かないようだ。


 自転車を猛然と漕ぎ出した時は、てっきり病院に行くもんだとばかり思ったけど…。


 家に着いた途端、行き成り服を脱げと言われて今に至る。


 「博叔父さん! 持って着たよ!」


 廊下の向うから剣がナニやら、ゆっくり歩いてくるようだ。


 仰向けに横たわる俺の横に剣が立つ…その手には盆を持ちその上にあるものを博叔父さんが手に取る。

 

 コップ?


 「うりっ、起きてみ!」


 博叔父さんが、俺の背中を抱えゆっくり起こす。


 肩に乗ってたアロエが、デロリと滑りトランクスに落ちた。


 うげっ。


 爽やかに微笑む叔父が、俺にコップを差し出す。


 『愛と勇気だけが友達』と豪語するパンが微笑むイラストの入ったプラスチックの白いコップには、何故零れないないのか不思議な緑色のプルプルしたモノがこんもりと盛られている。


 「………」


 「…………」



 コップを差し出した状態で微笑む叔父。


 ああ…飲めと仰るんですね?


 分かります。


 しかし、コレどう見てもただアロエを包丁で切り刻んだとしか…ここはせめてミキサーで粉砕して欲しかった!


 「ごめんね、兄ちゃん…婆ちゃんが出かけててミキサー探せなくて包丁細かくしたんだ…」


 俺の怪訝な表情に、しゅんとする弟。


 けぇぇぇぇぇぇん!


 お前が作ったのか!?


 叔父がニヤリと笑う…。


 ……っく、ここは兄として飲むしか…飲むしか無いのか…!


 微笑む叔父からコップを受け取り、躊躇しながら口に寄せる。


 視線を感じ、チラリと見ると・・剣が期待と不安の入り混じった表情で俺を見てる…っくそ!!


 俺は、腹を括り一気にアロエを口に流し込む!


 苦ぇ!!!!


 皮を剥かずに細かく刻まれただけのアロエは、想像以上に苦い!


 ゴクゴクゴク…。


 息継ぎをしてはならない!

 飲めなくなる!!


 「……うえっぷっ」


 空のコップを、剣の持ってる盆に置く。


 「おー全部のんだなぁ! アロエは何にでもきくからな~」


 博叔父さんは、まるで小さな子供を褒めるように俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。


 小さな頃からこの大きな手が頭を撫でるたび、なぜか妙な安心感が俺を支配した。


 親父が全くといって良いほど子供に無関心だった事もあり、きっと俺はこの叔父に無意識に父性を求めてしまっているのだろう…。


 高校を卒業してから、転職しまくりのフリーター街道まっしぐらの博叔父さんの話はとても面白いし『おじさん』と呼ぶにはまだ若く人生を前向きに生きる姿は何より見ているだけで元気がもらえる!


 俺は、そんな博叔父さんのことを敬愛している。


 「博叔父さん…兄ちゃん良くなる?」


 剣の言葉に博叔父さんが、にっこり笑う。


 「あたんめーよ! アロエを信じれ!」


 …博叔父さんの何が、そんなにアロエを信仰させるんだろう?


 「うん!」


 剣が、元気一杯にうなずく。


 ああ…此処にまた新たな信者が!


 いかん!

 

 剣には後で現代医学におけるアロエの立ち位置を説明せねば!


 プニニニィチェリー!


   プニニニィチェリー!


 プニニニィチェリー!


 博叔父さんのベストの胸ポケットの辺りから、いつもの微妙な着信音がした。


 叔父さんのスマホから、まともな着信音を聞いたことがない…そんな着信音ってどこでダウンロードしてるんだろう?


 胸ポケットから、赤い対衝撃タイプのスマホを取り出した博叔父さんの表情が突然強張った。


 ?


 タッチパネルに浮かんだ、着信相手がどうかしたのだろうか?


 着信に答えるでもなく、パネルを凝視する。



 プニニニィチェリー!


   プニニニィチェリー!


  プニニニィチェリー!



 博叔父さんの表情とは裏腹に、間抜けな着信音がなり続ける。


 「博叔父さん、電話出ないの?」


 剣が、不思議そうに博叔父さんの顔を覗こうと近寄ろうと足を踏み出す。


 「来るな!!!」


 滅多に怒鳴らない博叔父さんが、剣に怒鳴った!


 突然の事に、剣が目を見開いたまま固まる。


 「…博叔父さん?」


 「はっ…すまん!」


 怪訝な顔をした俺を見て、我に返った博叔父さんがすかさず謝まったが…。


 「うえ…ひっく…怖いぃぃぃ…」


 「あ…ゴメン! 剣、ゴメンな! 男の大声ダメだったよな~…」


 博叔父さんは、スマホ切りその場に放置し泣き出した剣を抱き締め落ち着かない剣の背中を強めにさする。


 「ううう~~~」


 そんな、姿を見ると博叔父さんが俺らの”父親”だったらどんなに良かっただろうと思ってしまう。

 

 

  プニニニィチェリー!


   プニニニィチェリー!


  プニニニィチェリー!


 

 切った筈のスマホが、けたたましく鳴り始めた。



 「博叔父さん、着信でなよ! ここは俺が…」


 「そっか…ごめんな…怒鳴っちまって…」


 俺は、剣を引き受け背中をさする。


 博叔父さんは、スマホを耳にあてナニやら曇った表情を浮かべそのまま庭から玄関の方へ歩き出したがふと此方へ振り返り俺の足元を指差す。


 目をやると、そこにはステンレスのボウル。


 中には、細かく切られたアロエがびっしり…ああ…定期的に塗り替えろってことね。


 俺が、OKサインを出すと叔父さんは親指を立てニカッと笑ってスマホを片手にそのまま外のほうへ回る。


 少しの間、ナニやら話していたようだが…やがてガコンという音といつものチリンという音が聞こえ叔父さんが自転車で家を出て行った事が分かった。


 バイトでも入ったのだろうか?


 が、その日どんなに待っても博叔父さんが家に戻ることは無かった。






 俺の朝の日課、朝5:00に新聞配達のニーちゃんから直で新聞を受け取る。



 これは、例え土日の休みでも関係ない。


 「毎日、よくやるわね」


 庭の方から、タンクトップに短パン姿の渚が体中から湯気を発生させながら呆れたように言った。


 地獄のような寮生活の中で、脅迫観念のように植え付けられた習慣はシャバに出たからと言ってそうそう治るモンじゃない。


 「俺から言わせりゃ、小4で毎朝トレーニングにいそしんでるお前の方がビックリだぜ?ナニ目指してんの? 世界最強?」


 「…そんなトコかな…」


 渚は、顔を赤らめもじもじとしながら答えた。


 マジか!?


 どこのグラップラーだよ!!

 


 


 キキッ。



 家の前に白いママチャリが止まる。


 「おはようさん」


 ママチャリから降りてきたのは、いつもの新聞配達の兄ちゃんだ。


 毎朝会っているので、今では少し雑談する位の仲になっていた。


 新聞配達に兄ちゃんは、籠から新聞を一部取り出し俺によこす。


 「毎朝、よく起きてるな…この前の話考えてくれたか?」 


 配達の兄ちゃんは、被っていた阪神タイガースのキャップの黄色いツバを掴んでくるりと回す。


 「いやぁ…俺の学校バイト禁止なんで」


 実は俺…『新聞配達のバイトをしないか?』と、この兄ちゃんに誘われていたのだがやはり校則や卒業の事を考えると踏み込めなかった。


 「そっか…残念! …あ、そうだった…」


 配達の兄ちゃんは、何事が思い出したようにママチャリの籠を漁り茶色い紙袋を俺に差し出した。


 「これは?」


 俺は、紙袋を受け取る。


 「さあ? こっちも頼まれただけだからな…」


 「頼まれた?」


 「ああ、さっきそのこ角で美人なお姉さんに『この家の男子高校生に渡せ』って言われて…あ! やべ! もう次行かないと! じゃあ渡したからな!」


 そう言うと、新聞配達の兄ちゃんは猛然とママチャリを漕ぎ走り去っていった。



 「ナニそれ?」


 渚が興味津々に顔を覗かせる。


 茶色の紙袋の上から触って見るに、中にはナニやら厚みが5mm以上はあるハガキよりは小さめの四角く硬い物が入っている。


 「さあな?」


 俺は、危険はないと判断し紙袋に手を入れた。


 ゴソ。


 指先に硬い感触を覚えそのまま袋から取り出してみる。



 「………!」


 出てきたのは、泥まみれになった赤いスマホ。


 「うわ~コレ動くの?」


 渚が、液晶まで泥で汚れたスマホを見て怪訝な顔をする。


 俺は、弾かれたように家の中に駆け込んだ!


 「ちょっと!」


 渚も直ぐ俺の後を追ってきた。


 俺は、すぐさま台所に飛び込むと水道の蛇口を捻りスマホを水で洗う。


 「え"!! ナニしてんの!? そんな事したら壊れるよ!!」


 「大丈夫…いや……むしろ違ってくれたほうがいい…」


 バシャバシャとスマホの泥を落とし、近くにあった食器を拭く布巾で水滴をふき取る。


 全ての泥を落とし、スマホの全体が分かる頃には渚も気付いたらしい。


 「…これ…博叔父さんのスマホ?」


 間違いなかった。


 このスマホは、少し古いが耐衝撃耐水性が売りのモデル…よくスマホを落として壊す博叔父さんに母さんが大分前にプレゼントした物。


 「何で…?」


 どうして、博叔父さんのスマホがこんな事に?


 「渚、博叔父さん帰ってきてないよな?」


 「…うん…だと思うけど……」


 どうしよう、嫌な予感しかしない。



 何が、どうなってるんだ?


 スマホのパワーボタンを長押し、真っ黒な液晶をタッチして見るが反応は無い…どうやら電池切れのようだな…。


 俺は、台所から出て居間のテレビのほうへ向う。


 離婚して引っ越してきた俺達の為、博叔父さんは自分が使っていた部屋を空け渡し今はテレビの前のソファーで寝起きをしている…だから叔父さんの私物は大概テレビの周辺に集まっているから…!


 「あった!」


 テレビの直ぐ横のコンセントから伸びる蛸足配線、そこに無造作に突き刺さる『充電器』。


 俺は、水滴がちゃんとふき取れているかを確認してからジャックを開け充電器の先端を挿した。



 シャラァァァン♪


 お決まりの音と共に、●Uのロゴが浮かぶ。


 「動いた…!」


 後ろからついて来ていた渚が、食い入るように俺の手にあるスマホを見つめる。


 ポップアップ画面の錠前のマークをタッチし、通常画面に切り替えてみた。


 なんの変哲も無い画面…そうだ、着信暦を見てみよう!


 もし、それが博叔父さんの知り合いなら一緒にいるかも知れない!


 俺は、着信暦を見ようと指で画面に触れようとした____。




 プニニニィチェリー!


   プニニニィチェリー!


  プニニニィチェリー!




 「うわぁ!!」


 突然の事に思わず俺は、スマホを床に落とす!


 「なにやってるのよ!」


 渚が、すかさずスマホを拾い俺に渡すとまるで気持ち悪い物でも触った様にぷるぷると手を振るわせる。


 何だ!

 お前も怖いんじゃねーかよ!


 気を取り直して、画面を見る…折角の着信だ!この人に叔父さんの事を聞けば…。



  プニニイチェリー!・プニニイチェリー!・プニニイチェリー!


 

 

 なんとも間抜けな着信音が鳴り響く中、俺は画面に浮かぶ名前を見て固まる。



 『ミンタマゲールー』


 ナニそれ?


 超怖い。




 プニニイチェリー!・プニニイチェリー!・プニニイチェリー!


 「ねぇ…」


 プニニイチェリー!・プニニイチェリー!・プニニイチェリー!


 「出ないの?」


 プニニイチェリー!・プニニイチェリー!・プニニイチェリー!


 けたたましく鳴るふざけた着信音に眉を顰めながら、只スマホを凝視する俺に痺れを切らした渚が声をかける。



 「出なきゃダメかな…?」


 「出ないとどうすんの!?」



 だって、『ミンタマゲールー』だぞ?


 何なのかさっぱり分からないだろ?


 恐ろしすぎないか?



 …まあ、確かにこのままでは拉致が開かない。


 相手は、こちらが出るまで諦めないつもりなのか一向に着信音が切れる気配は無い…。



 俺は、意を決し画面をタッチする。


 シュッ。


 っと、いう効果音がして『通話中』の文字が浮かぶ。


 一瞬躊躇したが、俺はスマホに耳を当てた。



 『ハァ! ハァ! ハァ! ハァ! ハァ! ハァ! ハァ! ゴホッ!!! ハァッ! ゴホッ! ゴホッツ! …!!』



 なんだ?

 なんだ?コレ?


 キモイ!!!



 相手は、ナニやら走っている様子…だと信じたい…いや『走っている』な…呼吸音に紛れ時折入る枝の折れる音や風、足を滑らせた地面にスマホを落としたのかガコンと派手な音が入り俺は反射的に耳をスマホから離す!



 おかしい、明らかに異常だ。



 「もしもし! 叔父さん!? 博叔父さんか!?」



 必死に問いかけるが、息切ればかりで会話にならない!



 「叔父さん!? 大丈夫なのか!?」




 『ち…ハァ! ハァ! ッツ…一時間…ごっ…! 『ヤエシロ公園』 …ガガ…ツーツーツー』


 通話は、無常にも打ち切られる。


 俺は、事切れたスマホを耳から放しその画面を凝視した。


 「博叔父さんどうしたの!? 大丈夫なの!?」


 渚が、俺の肘を揺する。


 「違う…」


 俺の何とも言えない表情に、渚が顔をしかめる。



 「今の電話…」



 女だった…。






 博叔父さんのスマホを、十分に充電させる事40分。


 俺は、道着以外では最も動きやすい3年着た押した学校指定のジャージを着用し玄関で靴を履く。


 とりあえず、嫌な予感しかしない。



 「…一緒に行く!」



 真後ろで、渚が言う。



 「ダメだ」

 「何でよ!」


 だって、『ミンタマゲールー』だぞ?


 そうじゃなくても、得たいの知れない女に今から会いに行くのに小4のガキを連れてける訳が無い!


 バキッ!


 渚が、俺の横の木製の靴箱に蹴りを入れる。


 すると、側面の板がくの字に割れ靴箱はその機能を失い倒壊した。


 「私は、アンタが思ってるよりもずっと強____」


 渚は、言葉を失う。


 俺は何もしていない…只、マジで切れてるだけだ。


 ふうん…生意気言うだけあって相手との力差を即座に理解する所を見ると素質は十分だな…。


 ジャージのポケットに突っ込んでいた、俺の右手が動くと渚はビクッと体を震わせ思わず目を閉じた。


 「これ」


 渚は、俺の差し出したものを恐る恐る見る。


 「?」


 「俺の携帯、お前に預ける」


 俺は、自分の青い携帯電話を渚に渡す。


 ス●ホや●フォンなんてのが全盛している今日にあって、昔ながらの二つ折りの携帯電話なんて物珍しいのか受け取った渚はまじまじと凝視する。


 「もし、一日たっても俺から連絡が無ければ警察を呼べ」


 本来なら、今すぐ呼んでも良さそうだが…博叔父さんは大の大人だしたかが一日帰って来なかった位じゃ警察なんて動かないだろう。


 「じゃ…行って来る、剣を頼む」


 ガラガラと玄関の引戸を開ける。


 「待って!」


 渚が、俺のジャージの裾を掴む。


 見上げる顔は、困惑の色を隠せない。


 「コレ、どうやって使うの?」




 ……もしかして、携帯を…ガラケーを見たこと無い世代?


 …この、現代っ子め!








 ヤエシロ公園までは、徒歩10分。


 その道のりを俺は、全力で走り抜ける!


 無論、怖くない訳じゃない。


 『ミンタマゲールー』が何なのか?

 さっき電話をかけてきた女は何者なのか?


 とか、色んな思いが頭を駆け巡る。


 博叔父さん…。


 もし、それらが叔父さんに何かしたと言うなら何であれ俺が絶対に許さねぇ!


 そうこうしている内に、目的地が見えてきた。

 

 所要時間は通常の半分以下、渚に携帯の基本的な使い方を指導した時間を除いても指定された時間より5分早い到着だ!


 自分の足を褒めてやりたい。


 しかし…問題は…。


 「ミンタマゲールーが、この公園の何処に居るかって事だよな…」


 俺は、独り言のように呟いた。


 ヤエシロ公園と呼ばれるそこは、正確には市民劇場の敷地を指す。


 定期的に、劇団●●とか牛乳会社の人形劇とかどこぞの有名な政治家なんかが講演会などを行うとあって1000台は車が停まりそうな駐車場に何だか分からん銅像などが置かれ公園部分にはテーマごとのアスレチック、劇場本体も大ホール一つに中ホール2つそれと小ホール1つからなる。


 『市民劇場』と呼ぶには余りに規模が大きい。


 何処から財源を持ってきたらあんな無駄にに立派なものが出来るんだ税金泥棒め!


 と、母さんが愚痴るほどだ。


 俺は、ヤエシロ芸術劇場・公園とかかれた立派な記念石碑を横目に公園の敷地に入る。


 まだ、朝早い時間なので見渡せる範囲に人影は無い。


 俺が、足を踏み入れたのは駐車場側。


 1000台停まれるだだっ広い駐車場には、現在一台の車も確認出来ない。


 とりあえず、俺は公園のエリアに向け歩みを進める。


 余裕があるとはいえ、5分前だ。


 もう、現れるだろう…。



 ドクドクと心臓の音が五月蝿い。

 




 キュキキキキキ……!




 

 「?」


 遠くのほうから、車の音がして俺はそちらを振り返る。


 見ると、白いバンが此方に向けて猛スピードで走って来るのが見えた。


 え?


 てか、そのままだと…あぶ______。



 ギュキィィィィィ……ドカン!


 白いバンはかなりの猛スピードで、公園入り口の石碑につ込んだ!



ブシュウウ……!


 石碑にぶつかりバンパーの拉げた白いバンから、何かガス的なものが漏れる。


 うわぁ…~。


 ヒビが広がり中の様子が良く見えないが、フロントガラス越しにナニやら白いものが揺てんな…多分エアバッグが作動したらしい。


 もしかして…いや…ち_____。


 

 プニニィチェリー! プニニィチェリー! プニニィチェリー!



 ジャージのズボンのポケットから、微妙な着信音。



 液晶には『ミンタマゲールー』の文字。



 シュッツ。



 「もし…」

 『ボーっとしてないで手かしな!』


 気の強そうな女の声が、不機嫌そうに呻き会話が切れる。


 『ミンタマゲールー』…人…だったのか?


 兎に角、俺は白いバンに駆け寄り運転席側のドアを力任せに引く。


 ギィッギッギッィィィィィィィ!!!


 と、普通しないような音を立ててドアが開いた。


 そこに、見えたのはパンパンに膨れたエアバッグと座席に挟まれた女の姿。


 「早く…」


 エアバッグに埋もれたその人は、右手を俺に伸ばす。


 俺は、その腕を取り女を社内から引きずり出した。



 「…ごほっ、ごっほっ…」


 地面に膝をつき、エアバッグの圧迫から解放された女が咳き込む。


 年は多分、20代後半くらいか…黒いパンツスーツに肩くらいの長さのボブカット。



 「大丈夫ですか…? あ、ミンタマゲールーさん?」


 「は!? 何? 初対面の人間に喧嘩売ってんの!?」


 俯いていた女が顔を上げる。


 端整な顔立ちに、不釣合いなくらいのくりっとした大きな瞳がギロリと俺を睨んだ。


 「いや…着信にそう書かれてて…」


 「…博…後で殺す!」


 

 え?


 『ミンタマゲールー』ってナニかヤバイ言葉なの?


 いや…今はそれ処じゃない!


 「…っか! アンタ一体何なんだ!? 博叔父さん何処だよ!?」


 「それは…」 






 ガカカカカカキュルルルル…!



 俺は、不意に聞こえた音に女からそちらに視線を移す。


 視界に入ったのは、あちこちぶつけボロボロになった青い乗用車。


 それが、スピードを緩める事無く一直線に此方に迫って来る!


 「マジかよ!?」


 俺は、膝をつく女の手を強引に引く!


 ドカン!


 間一髪避けるのが間に合った俺達が見たのは、既に石碑につ込んでいた白いバンに追突した青い車。



 プシュゥゥゥゥゥ…。


 と、くの字に拉げたバンパーから白い煙が噴き出す。


 まずい、取り合えず救急車…いや! 


 まず助けなきゃ!


 車に駆け寄ろうとすると、女が俺の腕を捕まえた。


 「何やってるのよ! 逃げるのよ!!」


 女は必死の形相で、俺の手を引く。


 「何言ってんだ! 早く助けないと…!」



 バン!


 追突した青い車の後部のドアが、中から蹴り開けられる。


 良かった、無…。


 車の後部座席から這い出てきたのは、50代半ばと思われる恰幅のよい男。

 ボロボロの作業着姿に、バーコードハゲそして右手には何故か農作業用の鎌。


 それも、一人じゃない!


 後部座席からは、後二人が続けざまに降りてくる。


 似たような作業着を着た男達は、それぞれが鉈と包丁を持ちふらふらと体を揺らす。



 ヘイヨー ヘイヨーム チョンドーナーチュルワレベー ミミ グスグス……


 体を揺らしながら、低く呻くような声で男たちが呟く…いや…歌ってる?



 「は…? え?」



 たじろぐ俺を、女が引っ張る。



 「ボケッとしないで! 走んのよ!」


 女に手を引かれるまま、俺はその場から駆け出し男たちから逃れる為俺たちは公園の奥へと走る!


 そして、『体づくり』をテーマにしたアスレチックの集まるエリアの砂場の中心にある子供が遊べる5mはあるライオンのオブジェの真下に二人で息を潜めた。


 「はぁ…はぁ…一体何がどうなってるんだ? 説明してよお姉さん?」


 「……」


 『ミンタマゲールー』は少し考え込んだ素振りを見せたが、おもむろに口を開いく。 


 「時間が無い…手短に言うからよく聞いて」


 クワッっと言う効果音が似合いそうなくらい見開かれた目。


 そんな、大きな目が俺を見据える…『今にも落ちてしまいそうだなぁ』と意味も無い思いが頭をよぎる。


 「博は、金欲しさにやってはいけない事をした。 今はギリギリ大丈夫だけど危ないのに変わりは無い…」


 「はぁ? 何だよそれ? 命のレベルでやばいって事?」


 女は、頷く。


 「…ってか、そんなの早く警察行かないと!」


 「なに言ってんの? そんなの無駄に決まってんじゃない…?」



 俺の発言が、さも的外れだと言わんばかりに首を傾げる女。

 

 ナニ言ってんのこのミンタマ!?

 鎌やらなんやら持った連中に追われてんですよ?

 こんなの、叔父さんだけじゃなくて俺達だってやばすぎるでしょ!?



 「…博叔父さんは、一体なにをしたんですか…?」


 俺は、一呼吸置いて改めてミンタマ姉さんに聞く。


 「ある部落で4年に一度開かれる祭り、そこで奉られている神の姿はその姿すら口外する事すらも禁じられている。

 もしも、その姿が口外・手描きの絵や写真なんて出回ろうものならその部落は『神』の加護を失いあらゆる災難が振る注ぎ滅び去る…なんて言い伝えをその住人達は未だに信じてるわけよね。

 今まで、祭りの全貌やましてやその神の姿は頑なに守られてきたのよ…けれど、そんな物の画像…物好きの金持ちには堪らない一品でしょうね…」


 「え…と、まさか…」


 「そんな、神の姿を博は写メと動画にとったの」



 叔父さあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!



 何やってんのぉぉぉ! パチンコ? パチンコの金が無かったの!?



 「何でまた…」


 呆れるようにため息をつく俺の襟首を、ミンタマ姉さんが掴んだ!


 「!?」


 「誰の為だと思ってんの…」


 充血した大きな目が、俺を睨む。


 「あんた達家族…いえ…今回に限っては圭君…君の為よ!」

 

 

 俺の為…何で…?



 金なんて…あ…そんな…まさか…? 




 「解ったようね」


 ミンタマ姉さんは、俺の襟を軽く整えた。



 俺の為…叔父さんは、そのなんちゃらの神の動画と画像を売ってまた部活を…柔道を続けさせようと…?



 バカな!


 そんな事の為に危険を犯すなんて!!




 「…博叔父さんは? 今何処に居るんだよ!?」


 「あいつ等に捕まってる…なまじ『力』が強いから余計に怒りに触れてるのよ…急がないと…」



 食って掛かる俺に、ミンタマ姉さんは坦々と答える。


 「確かに、叔父さんの筋力は強い…本気で対抗されたらてこずるだろうな…」


 俺の言葉に、ミンタマ姉さんの動きが止まった。


 「…え?」


 ミンタマ姉さんの顔に浮かぶのは、困惑。


 「ちょっと待って…圭君さ…さっきあそこで何が見えた?」



 明らかに狼狽した様子のミンタマ。


 さっき…って…駐車場のことだよな…?



 「男が3人、刃物持っ車から降りてきたけど?」


 「他は?」


 「他? 車から煙出てて怖かった?」



 はぁ~…と、ため息を付いたミンタマ姉さんは膝を抱え顔を膝に当てる。



 「ねえ…君、あの家の子で間違いない?」


 「うえ? …と申されましても…そうとしか…」



 少しの沈黙。



 「博のスマホもってきた?」

 「ああ…」


 俺は、ポケットから赤いスマホを取り出す。




 「画像フォルダのロック、解除できる?」



 言われるまま、画像フォルダを開こうとしたが…。




 「パスワードが必要だ…開けられない」


 フォルダにはロックがかかっていて、俺はそのパスワードを知らない。


 ひときは大きなため息を付くと、ミンタマ姉さんが俺からスマホを奪い取った!




 「何すんだよ!!」

 「君、もう帰っていいよ」


 まるで、ゴミでも見るような目でミンタマゲールーが俺を見た。 



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