6 強烈な劣等感
陽太は2年生の2学期になると、学校を欠席しがちになっていた。そこで典子は親の会の勧めもあって、医療機関による本格的な検査を受けさせることにした。
「まず陽太君のいい所を探しましょうよ。障害があると、欠点ばかりに目を奪われてしまいがちですが」。療育に訪れた長崎大学医療短期大学部で、土田玲子助教授からこう言われた。典子は学習障害(LD)ばかりに気を取られ、今の陽太の存在を受け入れていない自分に気付かされた。
土田は作業療法士の立場から、活発にLD児の療育や研究を行っている。また学校などでの講演も積極的に行っている。
土田はこう語る。「後継者の育成問題を含め、このままでは社会システムとして残らない。やはりしっかりとした行政支援が必要です。民間レベルでの頑張りには限界がありますから」
陽太への療育は、ブランコや滑り台などの遊び道具が置かれた部屋で行われた。カラフルなボールのプールで、土田や学生たちと楽しそうに遊ぶ陽太。不思議とこの時間の後は落ち着いた様子を見せた。
これは目や手足から多くの刺激を送り込むことで、脳の発達を促す「感覚統合療法」である。神経回路は使われることによって育っていくものである。そのため脳の発達の活発な、10歳ぐらいまでのLD児には効果が高いといわれている。
しかし2年生時の体験は陽太に大きな影を落としていた。学校や勉強に対する嫌悪感よりも、「何をやっても駄目だ」という強烈な劣等感を植え付けてしまっていた。
担任との相性の良かった3年生時には学校に通うことができた。しかし4年生の6月ごろから再び学校に行くのを嫌がり始めた。
「なんでがこうにいきたくないかとゆうと、ぼくわわるくないのに、ぼくだけのせいにされるからです」。9月13日の連絡帳にこう記して、陽太は本格的な不登校に陥ってしまった。