2 どこか他の子と違う
「どこかほかの子と違う」。幼稚園でトラブルを起こしたと耳にするたび、典子(31)=仮名=は陽太(5)=仮名=の成長に不安を抱いていた。「言葉はきちんと話せる。体だって丈夫だ。落ち着きがないのも、あのくらいの子供になら珍しいことではないし」
最初はよくいるガキ大将ぐらいに考えていた。しかし再三注意されても、同じ行動をしつこく繰り返す陽太に「どこかおかしい」と感じるようになった。左右の位置が逆になった絵をかくことも気になっていた。
しかし夫の秀雄(39)=仮名=に相談しても「そのうち落ち着くさ」と言われるだけだった。そして典子の不安とは反対に、「しつけがなっていないからだ」と周囲の目は冷ややかだった。
一般的知能は普通であるのに、読み書きや計算などの習得に困難を示す「学習障害(LD)」。脳神経系の軽い障害が原因とされている。脳の障害には連続性があるため、LD児の中には集中力なく動き回る「注意欠陥多動性障害(ADHD)」を併せ持つ子供も多い。また軽度の自閉症や知的障害などと症状が重複しているケースもある。そのため疑問を感じた場合には、早めに専門家の相談を受けることが大切だ。
典子の不安は的中した。陽太は幼稚園の年長になっても絶えず動き回り、集団行動が全くとれなかった。また気持ちをうまく伝えきれないイライラから、ほかの園児をたたいてしまうこともあった。みんなと同じようにじっとしていられない。感情の起伏が激し過ぎる。典子は自分の子育てが悪いせいではないかと悩んでいた。
「このままでは小学校に上がっても、授業を受けられないかもしれない」。典子は小学校入学の案内はがきが届いたのをきっかけに、県立心身障害児指導センター(現=県立療育指導センター)を訪れることにした。
発育に疑問を抱いてから3年が過ぎた、1990年の秋だった。