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殿下は、金髪碧眼の美青年で文武両道、国民の憧れの的だ。
殿下は公務で忙しくあまり会うことが出来ない。会えるのは夜会などの集まりだけで、会えたとしても一度一緒に踊るくらいだ。
殿下はすぐに他の令嬢と踊りに行ってしまう。私は踊る気になれず踊りを断って友達と殿下を眺める。これがいつものパターンだ。
婚約者なのに接点があまりないのはなぜかと思っていたけど、それは殿下に避けられているということが分かった。それは婚約した当初、嬉しさのあまりに殿下を追いかけ回したのが原因だとおもう。きっとそれで呆れられたのだろう。
それでも会えただけで嬉しく感じてしまっていたのは可笑しいだろうか? まあ、それも前の話しだが……多分。
それに好きでもない女と婚約しても文句を言わない出来た人だ。
私もそれに負けじと王妃になるめの勉強を頑張っているのでそれなりに頭はいい方だ。まあ、頑張る必要が無くなった気がするけど……。
*****
前世の記憶を思い出してから数日、聖女召喚の日を迎えた。
召喚の間にいるのは、この国の王族、重鎮達、騎士達、一応殿下の婚約者の私だけだ。なので、この場には殿下がいる。先ほどから殿下から視線を感じているので見つめ返すとすぐに目を反らされる。目を合わせるのも嫌なのだろうか……。
「これより、聖女の召喚の儀を始める!」
陛下がそう言って目の前にある直径3メートルほどの魔方陣を杖で叩く。すると、魔方陣は青白く輝き始め一瞬、目を開けられ
ないほど輝くと魔方陣の上には、黒髪黒目のボブカットのかわいらしい少女が立っていた。格好は前世の私の世界の学生服のようで紺色のブレザーに下はチェックの入った赤いスカート、胸元には赤いリボンがついている。
彼女はいきなりのことに混乱しているのか「えっ」「どこ!?」と呟いている。
「聖女よ、よく来てくれた。感謝する」
陛下がそう言っているのを私は、このシーン見たことあるなあと思いながら眺めていた。
「聖女?」
「そうだ、聖女には強力な魔物が生まれないように魔素の濃いところの魔素を散らしてもらう」
「えっ、魔素? なにそれ?聖女とか、魔素とか『セイオウ』じゃあるまいし……んっ!?」
彼女は何かに気付いたようで辺りを見回した。そして、殿下を見つけると頬を染めて納得した表情になる。……こういうのは、あまりいい気分ではない。
それより、さっき少女が言っていた『セイオウ』というのは私が前世にやっていた乙女ゲーム、『聖女と王子』というやつの略称だ。どうやら、彼女は乙女ゲームのことを知っているようだ。警戒しておこう。
いや、警戒もなにも二人は愛し合うのだから邪魔なのは私か……。
ふと気になり殿下を見てみると彼女を興味深そうにみていた。実際にこういうのを見ると悲しくなる。私はまだ殿下のことが好きなのか? すでに殿下の頭の中に、私はいなくなり彼女がいるのだ。
私は、そんなことを考えながら陛下と彼女が話しているのを見ていた。
*****
聖女を召喚したあと私達は、ぞろぞろと謁見の間に移動した。
謁見の間では陛下が王座に座り、その隣に王妃様がいて、その反対側に殿下がいる。私は殿下の隣だ。私はなんとなく殿下の顔を覗き混む。
「どうした? 僕の顔に何か付いているのか?」
「い、いえ、何でもありません」
殿下に見つめられて、顔に熱が集まるのを感じる。でも、殿下の頭の中に私ではなく彼女がいると思うと胸が苦しくなる。私は案外、未練がましいのかもしれない。何も知らずに恋に落ちていく二人を見てたらと思うとゾッとする。そりゃ、手を出したり、嫌がらせとかしたくなるなあ。
でも、私は邪魔をしないように耐える。嫌がらせなんかして殿下に嫌われたくはない。
そんな風に考えていると陛下が口を開いた。
「ところで聖女、名前は何て言うのだ?」
あっ、これ名前を入力する場面だ。私がそう思って彼女を見ると彼女も気付いたようで慌ててこたえる。
「あっ、は、はな。伊藤 花です! 花が名前で伊藤がファミリーネームです!」
「ふむ、イトウ殿にはこれからやってもらうことが山ほどある。何か望みはないか? わしの叶えられる範囲なら叶えてやる」
ここでヒロインは『この世界のことを知りたいので勉強がしたいです』と言って国王は王子を教える役にするんだよね……ほら彼女──伊藤さん、分かっているのかニヤニヤしてるよ、みんなは気付いてないのかな……気付いてないね。
「この世界のことを知りたいので勉強がしたいです」
「勤勉だな……よし、教育係を付けてやる! アレクシス! お前が付いてやれ」
「えっ、僕ですか?」
「そうだ、お前は頭が良い。それにどうせならわしに似て格好いい奴が傍にいた方がいいしな」
自分で言っちゃうんだ……でも確かに陛下は金髪碧眼の格好いいおじ様って感じだ。若い頃はモテモテでたくさんの令嬢に言い寄られたらしい、その中で陛下の隣を勝ち取ったのが今の王妃様だ。王妃様はプラチナブランドのロングで碧眼で今でも若々しい。
「でも、僕には公務がありますし」
「そんなの他の奴にやらせればいい、これは勅令だ。拒否権はない!」
権力で黙らせた! 横暴だね。ここまで聞いていると陛下が酷い奴だと思うかも知れないが陛下は外交でとても優秀で周りの国から恐れられている。
悪戯好きでも有名だけど……。