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 かろうじて、胃のダメージが蓄積して、穴が開く前に城に着いた。

 城に付くと門番達が慌てて此方に向かって来た。


「聖女様! 今までどちらにいらしたんですか!?」

「この国の事をもっと知りたくて、少し市場の方へ行ってました。勝手な事をすみません……でもっ、私も一生懸命やろうとっ!」


 語義を強めて、門番達に説明をする伊藤さん。その目には涙が溜まっている。

 その様子に狼狽えた門番達は、伊藤さんを落ち着けようと必死だ。……オレストさんが「あれは嘘泣きだよ」と囁いてくるけど、私にどうせよと?


「と、取り敢えず、中にお入り下さいっ!殿下も心配になられております!」


 門番達は、数人を残して伊藤さんを先導するように、城の中へ入っていった。

 そして、私達の方に残った門番達が駆け寄ってくる。


「お待たせしてしまい申し訳ございません、ホーバット様。そして、聖女様を連れてきてくださり、ありがとうごさいます。」

 

 申し訳なさそうに頭を下げる門番は、何があったのか聞きたいのか、此方に好奇心に満ちた視線を向けてくる。

 国の重要人物が護衛も付けずに危険な所に行くのは、大きな問題だ。何かあったら、国が混乱の渦に呑まれてしまう。

 

 どうせ後で陛下に伝わる様に、お父様にでも言うつもりだったが、ここで言ってしまえばいいか。


 今日の根端を説明すると門番は、苦虫を潰した様な顔をした。


「……今日の事は、聖女様に色々と聞いた方がいいですね。聖女様は一体何を考えているのでしょうか……。一応、裏路地に兵士を派遣した方が言いかもしれませんね。あそこには怪しい店もありますから」

「そうですね、その方がいいかもしれません。後はよろしくお願いします」

「はい、承知しました。今日の事は陛下に報告します。……本当にありがとうございます」


 私達は門番に見送られて、家へ向かう。我が家は公爵家と王家に次ぐ権力の持ち主だ。そのため、城から最も近い所に屋敷がある。殆ど隣と言ってもいいだろう。城の長い長い塀の横を歩き、川を跨ぐ橋を渡り、花畑に囲まれた道を通り、我が家の長い塀にたどり着く。

 

 ……お隣さんの筈なのに、軽く一キロくらいは歩いた気がする。普段は馬車だから良い景色だなぁ、て感じなのに……あぁ、凄く疲れた。

 何で城で馬車を借りなかった私?いや、分かってる。門番に見送られて、少し歩いてから気付いた。でも、『後は頼んだ』みたいな感じでかっこよく決めたのに、やっぱ馬車貸してくださいなんて言えない……。


 本当は、約束の時間になったら、迎えの馬車が来るはずだったけど、予定が変わったから……今頃、来るはずの無い私を待ってる馬車があるはずだ。すまない、でも私のせいじゃないぞ。


 後少しで我が家の門に着く頃、前を歩いてたオレストさんが立ち止まった。……そういえば何かするんだっけ。

 疲れているのでまた今度にして欲しいが、既に了承してしまったので仕方がない。

 疲れて自然と下がっていた顔を上げオレストさんを見ると、いつものヘラヘラした姿はなく、真剣な雰囲気が漂っていた。それは、まるで陛下やお父様みたいなカリスマ性を感じる。私はその様子に内心驚きながらも表には出さず、貴族と相対する様な心持ちでオレストさんと視線を交える。


「ははっ、そんなに気張らないでいいよ。俺達って友達なんだろ?」


 そういえば、オレストさんに仕返しをした時、そう言ったような……。あの時のオレストさんの顔を思い出して、思わず吹き出す。


「あっ、何笑ってんの! こっちは、結構傷ついたよ!」

「……私からのちょっとした仕返しです」

「仕返しって……。まぁ、いいや、そう言えなくさせてやるからな」


 オレストさんはそう言うと、ポケットの中に手を突っ込んだ。

 不穏な事を言い出して、突然動いたオレストさんに驚き、私は、「襲われる!」と思い咄嗟に手で頭を守る。

 

 頭をを守りながら硬直する事、数秒。

 

 何も来ないので、そーっと目を開けると、目の前には紐状の何かがあった。驚いて、後ろに下がろうとするが、ここにきて足が疲労のあまりに、「動きたくないよー」とボイコットを起こした。

 足が後ろに出なければ重力に逆らうことなく──倒れる。前世の様に塗装された地面ではない、尖った石等がそこらに落ちている所だ。お尻をぶつければ刺さりそうだ……痛そう。

 

 だが、今、私の前にはこの世界に三人しかいないSランク冒険者として認められた実力の持ち主がいる。

 私は、いつの間にか目の前に接近していたオレストさんに優しく支えられる。そして、そのまま顔を近付け、


「俺も男だからね」


 と、残り数センチで鼻がくっ付きそうな距離で甘く囁かれ、私はアホみたいにコクコクと頷いた。

 それに満足したのか、オレストさんは私の体を起こして、紐状の何か──ネックレスを私の首に掛けた。

 

 オレストさんの言動に耐性が付いたと言ってもこれは、流石に耐えられない。茹で蛸のように真っ赤になっているであろう顔を上げ、突然の行動に非難がましい視線を向けるが、首元のネックレスが目に入ると、思わず感動の声を上げてしまった。

 

 煌めく銀色のチェーンに精巧に作られた土台の中心には、指先程の蒼い宝石が付いている。只の宝石ではない、貴族としてこれまで色々な宝石を見てきたが、見た目が美しいだけではなく、何か特別なものを感じる。

 

 トントンと肩に衝撃を感じ、宝石に見とれて、すっかり存在を忘れていたオレストさんが、何かを主張するように右手を見せてくる。その右手の人差し指には、私の首に掛かってるネックレスと似た精巧な指輪が付いており、やはりその中心には蒼い宝石が付いている。


「お揃いだよ!」

「…………」

「え!? まさかの無言ですか!」

「……いえ、ただ驚いただけです。ですが、宜しいのですか? これほどの物は国宝と言われても納得するんですが。……お揃いなのはどうでもいいです」


 本当はお揃いの宝石を付けるというのは、親しい間柄と見られる事があるのだが、意図せずに他の人と被るというのはよくあることだ。例え、そう見られたとしても、私は貴族の中でもトップの権力を持つ公爵家だ。Sランクと言っても、爵位を持たないオレストさんとは釣り合わない。『ホーバット公爵家が懇意にしている冒険者』と見られるのが落ちだろう。


 ……ん? そしたら公爵家はSランク冒険者という力を手に入れたことになる? そして、オレストさんは公爵家という後ろ盾を手に入れた? もし、そうだとしたらお互いに得をするが、それだけではない。オレストさんが問題を起こせば、ホーバット公爵家が何か企んでると、野心家達に糾弾される事もあるかもしれない。

 一体、何を考えてこのネックレスを渡したんだ? ホーバット公爵家を陥れるため? 後ろ盾が欲しかった? それとも、他の何か……。


 


 

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