14
「ここまででいいわ」
伊藤さんはそう言うと城の方へ歩き出した。
私達は、護衛も付けずに一人で、裏路地に入っていくような常識外れな彼女を一人にするわけにもいかず後に続く。
……イベント意外のことをされると本当に怖い。
しかし、そんな事を彼女が許す訳もなかった。
「何で付いてるのよ!」
「……貴女はこの国の重要人物です。そんな方を一人にするわけにはいけません」
正直に「何をするのか分からない人を一人にさせたくない」何て言ったら確実に面倒な事になりそうだから、オブラートに包んで護衛すると言った。
こちらが下手に出たことが項をなしたのか、彼女はフンッとこちらを見下すと、「勝手にすれば」と言い、歩き出した。
私達は伊藤さんに声が聞こえない程度の距離をとって付いて行く。……周りには沢山の屋台があって、騒がしいので、そこまで伊藤さんと離れていないけど。
「すみません、オレスト殿。……買い物の途中でしたが、今日はここまでのようです」
「いいよいいよ、クロエちゃんのせいじゃないし。だけど、聖女は許すまい。……せっかくのデートだったのに」
……然り気無く、これは買い物だと主張してみたけど効果は全くないようだ……。そして、デートと言われて、私はどう反応すればいいんだ?
初めは、いきなりデートなんて言われて大いに狼狽えだが、もう耐性は付いた。それに、私には婚約者がいる。……これからどうなるのか、分からないけど。
まあ、城では腫れ物扱いされているので、オレストさんみたいに気軽に接してくれるのはありがたい。楽しいし。
そんな私の様子に気付いたのか、オレストさんが距離を詰めてくる。
「無視なんて酷いよ~、クロエちゃん~」
悲しそうに言ってるけど、にやにやしているのは見えているんですが?
思い返すとオレストさんの言動には、よく振り回されてる気がする。
やはりナンパ慣れした男は、乙女心ををよく分かっているのかな?だけど、私はやられたままの女ではない。何か仕返しを……。
私はオレストさんの目を真っ直ぐ見返す。
「ん?どーしたの?」
オレストさんは、相変わらず中性的な顔をしている。女性物の服を着て、化粧をすれば男性には絶対に見えないと思う。
ふふふ、その綺麗なお顔が仇になりましたね。
「……私もお友達とお出掛けなんて、初めてだったので残念だと思っていたところです。オレスト殿って綺麗な顔をしているので、つい女の子の友達と一緒にいるように感じてしまいます。気が楽でとても助かっていますけどね」
オレストさんが城のメイド達に続き、私をターゲットにしているのは分かっているので、「貴方の事は男性とは見てませんよ?」と告げる。
……私を狙ってるという事が、勘違いだったら凄く恥ずかしいから、誰にも言いわないけど。
効果は覿面だったらしく、オレストさんはガックリと肩を落とした。
これに懲りたら、こっちの事もよく考えてくれ。……後その変な顔もやめてくれ。
「……まあ、それは良かったよ。聖女サマを城まで送り届けたら、時間ある?」
伊藤さんに対して、少し刺があるけど、仕方ないよね。
伊藤さんを送った後は、もう家に帰るつもりだけど、予定より早めに買い物は終わってるから時間はある。
「ありますよ。何するんですか?」
「今日の記念にちょっとね」
……今、思うとナンパ男と二人きりで私は大丈夫かな?家に侵入されてる時点で、色々と諦めるしかないけど……。まあ、オレストさんが本気で襲ってきたら、騎士団長でも敵わないと思うし。護衛としては、凄く頼もしいけどね。
ここまでの印象としては、ナンパ男だけど、人並みの常識はある人だ。……人の家の窓から侵入するのは常識か?
──信じてるぞ、オレストさん!
少し歩くと豪華な馬車が止まっていた。よく見ると王家の紋章が付いていることから、城の馬車だと分かる。
……伊藤さんはよく人混みに紛れられたな。こんな馬車が止まったら人目に付いて、何処に行くにも視線がまとわりつくのに。
馬車の中は広く三人で乗ってもまだ余裕があった。座席も柔らかなクッションで快適に過ごせそうだ。でも、むすっとしたまま何も喋らない伊藤さんに、私のすぐ隣に座ってちょっかいを出すオレストさん。私は胃に小さなダメージを追い続けた。
──早く城に着けっ!
読んでくださっていた皆さん、本当に申し訳ございません。
変になってしまっても、完結まで頑張りたいと思います。