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私の国には二つの巨大な壁がある。
一つは外壁と言い、国全体を囲んでいて外からの外敵から守っている。もう一つは内壁と言い、国の中心を守るように囲んでいる壁だ。
内壁の内側は貴族区と言われ、主に貴族の住居になっており、中心には城がある。そのため内壁に居るのは身分の高い者が多く、一般的な市民はほとんど居ない。
逆に内壁の外側は市民区と言われ、貴族以外の者達が住んでいる。 そのため人が多く、それに比例するようにお店も出ている。
何故今、この話をしているかと言うと市民区に訪れているからだ。
「凄い人の数ですね」
「まあね、その分沢山のお店があるから面白いよ」
私は肩が露出した水色のサマードレスの様なものを着ている。ミラが言うには、これくらいが平民達にとってちょっと良い位の服装らしい。勉強になる。
前世以来のウインドウショッピングを楽しんでいこう。
「どこにいきます?」
「ふふふ、俺は冒険者だけど、良いお店を知ってるぜ。今日は俺に任せてくれ、お姫さま」
「……お姫さまって何を言ってるんですか」
「ノリ悪いぜクロエちゃん。まあ、行こうぜ」
そう言ってオレストさんは私の手を握り前に歩いていく。人がけっこう多いけど、オレストさんが前を進んでくれるので、私は誰にもぶつかることなく歩くことができる。
これを意図してやっているのなら流石だ。
今日は任せたぞ、オレストさん。
しばらく歩いていると人が全くいない空間がある場所を見つけた。少し気になり見ていると、オレストさんが立ち止まり一軒の店を指差した。丁度気になっていた場所の前にある店だ。
「あれ見てみ、ここら辺じゃ有名なやつなんだ」
そう言われ何があるのか見ているといきなりドアが吹っ飛んだ。
凄く驚いた。普通ドアが吹っ飛ぶとおもわないでしょ。
そして、そこから出てきたのは黄色い体、つぶらな瞳、短い羽をもったヒヨコの様なものだった。
二メートル位の。
「……あ、あれは何ですか」
「あれはな、ヒヨコだ」
ヒヨコ!? 見た目はそうだけど大きさがおかしいよ。何故そんなに冷静なんだ。オレストさん。
私以外に驚いた人を探そうと周りを見るが、通行人は皆一瞥するだけで驚いている人は誰もいなかった。中には『またか...』とか言ってる人もいた。
またか、ってこれが日常茶飯事なのか!? それで店の前に誰もいない空間があったのか。吹っ飛んでくるドアにぶつからないように。
これが日常なら私は市民区で暮らせる自信が無い。
「ん、オレストじゃないか」
内心で狼狽えているとヒヨコがオレストさんに話し掛けてきた。
ん? 喋った!?
「よお、おっさん」
おっさん!?
「昨日はいきなりあんなもん持ってきやがって。
まあ、俺にかかればチョロいもんだけどな。例の物は完成したぜ」
「流石はおっさんだな、今貰えるか?」
「取ってくるぜ」
ヒヨコは店の中に戻っていく。今までの会話を聞くにオレストさんの知り合いらしい。でも、おっさんってどういう事だ……。
ヒヨコでおっさん……。
「クロエちゃん、何をそんなに深刻そうに考えているんだ」
「む、何故おっさん何ですか?」
「そりゃあ中におっさんが入っているからな」
えっ、中におっさん?
ていうことは、着ぐるみと言うことなのかな。でも、中身がおっさんとは知りたくなかった。
夢を見させてください、オレストさん。
ヒヨコ──おっさんは店から出てくるとオレストさんに小さな箱を渡した。
「おい、オレスト持ってきたぜ。こりゃあ俺の最高傑作だ」
「あんがとな、でもあれだけ良い素材を使ってるんだから最高傑作で当たり前だ」
おっさんは私を一瞥するとオレストさんに笑いかけた...気がした。
どうでもいいけど、あのつぶらな瞳の奥でおっさんが見ていると思うと凄く怖い。
「頑張んな、オレスト」
「っ!……言われなくとも」
おっさんは片方の羽をヒラヒラと振りながら店に戻っていった……ドアはそのまんまだ。
「なんと言うか個性的な人? でしたね」
「でしょ、まあ次行こうぜ」
そうして私達は色んなお店を見て回った。途中怖い人に絡まれかけたけど、オレストさんのひと睨みで逃げるように走っていった。
そして今はクレープの様な物が食べられるお店でひと休みしている。
「面白い物が沢山ありましたね」
「そーでしょ、クロエちゃんは楽しんでる?」
「はい、こんなに楽しいのは久しぶりです」
殿下と婚約してからは勉強で忙がしくて、こんなに楽しんだのは本当に久しぶりだ。買い物に誘ってくれたオレストさんには感謝しきれないね。
私はクレープの様な物を食べて、満足そうにしているオレストさんを見ながら、そう思うのであった。