11
オレストさんは凄いよ。
私も殿下の事、乗り越えられるかな──。
「だからね、後からいじけない為に今出来る事を全力でやる。あの時ああしていればなんて事には絶体しない。失敗しても少なくとも後悔はしないと思うし、それを糧にしてまた頑張ればいい」
──今出来る事を全力でやる。
いつもヘラヘラしているだけかと、思っていたオレストさんは私なんかより余程立派だった。とても前向きで明るい。まるで私の弱さを浮かび上がらせているみたいだ。
でも、逃げてはダメだ。
殿下が伊藤さんと結婚するって分かってから、私は何もしてない。どうせ無駄なんだって諦めてた。
きっとこのままじゃ後から後悔する。
……私もオレストさんみたいに頑張れるかな。
きっと沢山失敗すると思う。
でも、“それを糧にしてまた頑張ればいい”だよね。
私も立ち止まってないで前に進もう。それで失敗しても乗り越えてみせる。
オレストさんは、こんな大事なことを私に教えてくれた。
凄いよ、オレストさん。今日のオレストさんは──。
「格好いいな……」
「えっ!? 何で、デレ期!? お願いもっかい言って」
「嫌です」
「ちくしょーっ!! 録音したかった。でも、何でいきなり……」
オレストさんは頭を抱えて何かブツブツ言ってる。ここだけ見ると残念に見えるな。
「オレスト殿のお陰で私も頑張ろうと思いました。取り敢えず初心にかえって、殿下に気持ちを伝えようと思います」
「えっ!? 嘘っ!! 敵に塩を送ってしまったのか俺は!? くそっ、過去の俺何やってんの。あぁ最悪だ」
物凄く後悔してるよ、オレストさん……。
まあ、今日はオレストさんのお陰でこれからやるべき事が見つかった。
殿下に気持ちを伝える、後悔しないように。
嫌われてたら、流石に泣いても良いよね……。
「今日は身に染みるお話しを聞かせて頂き、ありがとうございました。それでは」
「って、ちょっと待って! 何かもう今日は、さよならする雰囲気になってるよ」
えっ、その通りなんだけど。帰らないのかな?
「何かあるんですか?」
「いや、何も無いんだけど……そうだ! 今度一緒に出かけない? ダメならあきらめるけど、てか、どうせダメって言うよねぇ……」
「いいですよ」
「やっぱりねぇ…………えっ!? 良いの!? 今良いって言ったよね! やっぱり無理とか言わないでよ」
最近はオレストさんに面白い話を聞かせてもらってたし、今日はとても大事な事を教えてくれたし。買い物くらい手伝いますよ。何を買いに行くんだろ?
「何を買いに行くんですか?」
「何を買いに行く……? 別に決めてないけど」
決めてないのに買い物に行くんだ。ウインドウショッピングってやつかな?
そういえば私ってあんまり買い物に行ってないな。欲しい物は言えばすぐに手に入ったし。どんな感じ何だろう? 少し楽しみだなあ。
「じゃあ明日迎えに来るからね」
「はい、楽しみにしています」
「う、うん。じゃ、また明日ね~」
そう言うとオレストさんは窓から出ていった。
やっぱり窓から出て行くんですね……。
私はオレストさんが帰ってから、これからどんなイベントがあるか考える。
この前の初キスが終わったから、次は手作りお菓子を作るんだっけ……。
それじゃあ、キッチンに行ったら伊藤さんにばったり会いそうだなあ。別に行かないけど。
その後は聖女としての仕事で町の外に行くんだっけ。
そうしたら、殿下に告白するならその時にしよう。多分それ以外だと殿下の傍にはずっと伊藤さんがいるだろうし。
そうだ! 明日出掛けた時に殿下に何かプレゼントを買って、告白の時に渡そう。我ながらいい考えだ。何を買うかは実際に見ながら決めればいいや。ああ、明日がもっと楽しみになった。
私はウキウキしながら明日の準備をしていたが、ある問題に気付いた。
「明日、何を着ていこう……」
貴族の高そうな服なんかで行ったら悪目立ちしそうだ。でも、一般的な人がどんな服装をしているか分からないし……。
こう言うときは……。
「ミラーっ! こっち来てー!」
私の侍女のミラを呼ぶ。取り敢えずミラに任せれば大丈夫なはず。
呼んでから直ぐにミラは来た。
「クロエお嬢様っ! わざわざ大声を出さないでこの鈴を鳴らしてください!」
怒られてしまった。
「ま、まあ、それはいいじゃない。それより明日は外に買い物をしに行くんだけど、何を着ていけば良いかしら」
「欲しい物があるなら私が買ってきますが?」
「オレスト殿と一緒に行くの」
「あの人とですか! うーん、あの人とですか……」
ミラは何か少し考えながらブツブツ言っていると、何か決心がついたのか凄く良い笑顔で返事をしてきた。
「……よしっ! 任せて下さい! クロエお嬢様のために私も一肌脱ぎます!」
ミラはサムズアップしながら言ってきた。
服を選ぶだけでこんなに熱くならないでもと思うけど、頼もしいからこのままにしておく。
「それじゃあ、選びましょ」
「はい!」
そう言ったもののミラが全部決めていくから、私が服を選ぶことは無かった……。