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書き置きだけでも・・・・・・
イトウさんのお披露目会から数日たった。
はっきり言って私は暇をもて余している。少し前までは時期王妃として、しっかりしなくてはと思い勉強ばかりしていた。
だから、それをやる必要性が分からなくなった今、何をすればいいのか分からないのだ。
あー、暇だなあ。
高級感溢れるベッドの上で横になって足をパタパタする。
今日もあの人来るだろうしなあ。
そう考えた時、コンコンとノックの音が聞こえた、窓から。
私はベッドに埋めていた顔を上げて窓の外を見る。
外の景色の代わりにそこには、Sランク冒険者オレストさんがくっ付いていた。
「おっ、気付いた。クロエちゃんここ開けて!」
私は何も言わずに窓の鍵を外す。すると、オレストさんは窓を開けてスルスルと中に入って来た。
「あの、どうして毎回窓から入って来るのですか?」
「いやさ~、最初は俺も普通に正面から行ったよ。だけど、門に行ったら見張りの人に止められてさ、執事っぽい人が出てきてクロエちゃんに会いに来たって言ったら用件を聞かれたんだ。用件も何も会いたいから来ただけだと言ったら、お帰りくださいだってさ」
そりゃ、公爵家の令嬢に用も無く、会いたいから来たって言っても入れてもらえないよ。
「そういうこともあって、正面からは無理。そしたらもう窓しかなくね?」
「その発想はおかしいと思います」
正面が無理だからって、窓から他人の家に入ろうとする人なんているのかな。あっ、泥棒とかそうかも……。オレストさん、泥棒と同類。
「えっ、何!? いきなりそんな冷たい目で見ないで! 俺何かした?」
まあ、私としては暇潰しに話し相手が出来ていいんだけど。
イトウさんはどんどんイベントを起こしているみたいで、お母様がいうには、聖女と殿下の関係が夫人の間で今人気の話題になっているらしい。
そのせいで知り会いに会っても同情するような事を言われる。
そう考えると、オレストさんは普通に(ナンパっぽいけど)接してくれるから楽だ。
「門番には伝えておくので、今度からは正面から来て頂いて大丈夫ですよ」
「おお! クロエちゃんの公認だ。これは一歩前進だね! クロエちゃんと付き合える日はそう遠くないかも」
付き合うも何も私まだ婚約者いますけど。
私はオレストさんの言葉を無視して話し掛ける。
「今日はどんな話を聞かせてくれるのですか?」
「ん、ああ、何が聞きたい? 昨日の続きで竜の山に行ったやつ? それとも、バカでかいゴリラを倒した時の話でもしよっか?」
オレストさんはSランクなだけあって、色々な場所に行っている。その事を私に話し聞かせてくれるので、最近の楽しみになっている。
それにオレストさん本人が明るい人だから、こっちの気分も明るくなって嫌なことを忘れていられる。
今日はどんな話をしてもらおうかな?
「オレスト殿は小さい頃、何を目指していましたか?どうして冒険者になったのですか?」
気になる。
何を目指していたのか。
どうして冒険者という危険な職業を選んだのか。
これまでどんな人生を歩んできたのか。
そして、今は何を目指しているのか。
それを聞いて私のこれからについて参考にしたい。
私の真剣な雰囲気に気付いたのか、オレストさんもいつものヘラヘラした感じではなくなって真面目な顔になった。
……いつもそういう顔でいれば良いのに。
「何を目指していたか……そーだねー、両親を目指していたっけなあ」
「両親ですか」
「まあね、俺の父さんは村の村長だったんだよ」
だった?
それじゃあ、今はいったい何をしているんだろう。
オレストさんは私の思案顔に気付いたのか、私の疑問の答えを出してくれた。
──死んでいる。
それも、お母様も亡くなっているらしい。
それからオレストさんは昔の話を私に聞かせてくれた。
オレストさんの両親はオレストさんが5歳の頃、村を襲った魔物に殺された。しかも、お父様は当時のオレストさんを庇うように亡くなったらしい。
まだ幼い子供の頃に両親をなくしただけでも衝撃的な事だと思ったけど、これだけでは無かった。
その時の魔物は当時のオレストさんが不思議な力を使って倒したらしい。
殴ってボコボコにしたって言ってた。
そこで終わるかと思いきや、オレストさんが魔物をボコボコにしている光景を見ていた人が、オレストさんを化け物と罵ったという。
そして、村から追放された……。
この話を聞いて私は村の人を殴りたくなった。でも、オレストさんは何もしなかったらしい。5歳の子供が罵られても、何もしないと言うのは凄い事だと思う。
どっちが大人だ? って感じだ。
運が良かったのは追放された後、偶々冒険者の人に拾われたって事だと思う。
よく生きていたなあ……すごすぎるよ。
「まあ、そんな感じだなあ」
オレストさんは両親の事を思い出したのか少し寂しげな表情をしている。
「あの、無遠慮に聞いてしまい、申し訳ございません」
「いーよいーよ、大丈夫じゃなかったら話したりしないって」
もしかして、オレストさんが複数人の女性と関係を持っているのって、人肌が恋しかったのかな。幼い頃に両親を亡くして、それから一人で生きてきて……母性に飢えていても仕方がないのかな?
よし! それじゃあ、私が小さい頃、お母様に慰めてもらった時のやつでもやってあげようかな。
「よしよし、大丈夫、大丈夫」
「……クロエちゃん何やってんの?」
ん? 頭を撫でてるだけですけど?
「私、小さい頃、泣いてる時はこうやってお母様に慰めたもらっていたんですよ」
「俺ってさ、泣いてるように見える? 恥ずかしくて悶えそうなんだけど」
「そうですか? なら止めます」
「そうしてくれ」
オレストさんはあからさまにため息を吐いた。
良かれと思ってやったんだけどなあ……。
「まあ、クロエちゃんの最初の質問に答えるなら、小さい頃の俺は両親を目指していて、冒険者になったのは強くなるため、あと金を稼ぐためだな」
「そういえば、どうしてそんな力があったんですか?」
「体質としか言いようが無いね。こういう体質の人はそれなりに居るっぽいよ。大体5~10歳の間にいきなり力が強くなるらしい。俺ほどじゃないけどね。」
「そうなんですか」
「うん……あの時この力がもっと早く手に入っていたら、母さんや父さんを守れたのに、ってよく思ってたんだよね。でも、すでに終ったことだから、いつまでもいじけてちゃ駄目なんだ」
悲しい筈なのに、オレストさんにはそういう雰囲気が感じられない。
きっと、両親の死をしっかりと受け入れて乗り越えたんだと思う。
強いなぁ、オレストさんは。
身体的にも強いけど、心も強い。
私なんか殿下に捨てられると思っただけで、心が折れそうになるのに。
どうしたらそんなに強くなれるんだろう。




