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五話 腐毒魔竜ファーヴニル


「……おい、これは流石にデカすぎるんじゃないか?」

「中級上位、と言ったところかしらね? ファーヴニルなんて大層な名前の割には雑魚よ、雑魚」


見上げるほどのデカさのドラゴン。

怪獣映画などでしか見たことのないあの猛威が今、目の前に現れた。


「あ、あの! ファーヴニルは物凄く強くて…勇者の私でも三分持たずにやられちゃうくらいで……。だから、今の内に逃げましょう!」

「士人。アンタは仮にもあたしの眷属なんだからこんな雑魚さっさと捻り潰しなさい」


凪は少女の注意を華麗にスルーして無理難題をふってくる。


「………はぁ。倒すか、しょうがないし」

「し、士人くん! アレ倒せたら文句なしに神の試練合格なのじゃ!」


ツナギ様の声を聞きながら改めてファーヴニルを見る。

ざっと見たところ目と……口の中辺りならナイフが通りそうだ。

流石にそれ以外の場所は鱗で覆われていて正攻法ではナイフが刺さりそうにない。


「取り敢えず目ん玉貰っとくか」


レッグホルスターを探る。スローイングナイフの残弾は4本。

内2本は確実に両の目を潰すために使うから実質自由に使えるスローイングナイフは残り2本。

あとは全て近接戦闘用ナイフだ。隙を見て使おう。



「ッ! 気をつけて下さい! 腐毒のブレスが来ます!」


ファーヴニルが大きく息を吸い込んでいた。

明らかにチャージですね、本当にありがとうございました。


「ま、させないけどな」


左右の手からスローイングナイフを投擲。狙いは勿論、目。


ドス、ドス! という深く突き刺さった音が聞こえてきた。


「もしかしてこれが眷属化の影響か?

なんかいつもより身体が軽い…」

「当然よ。なんて言ったってこのあたしの眷属なんだから!」


えっへん、と無駄にでかい胸を張る。ウゼェ。

でもこれならあの鱗も破壊できるかもな。


「グギャァアアアアァァァァ!!?」

「お前もうるせぇな。黙ってろよ」


チャージを止め、痛みに絶叫するファーヴニルの口腔内に残り2本のスローイングナイフを投擲する。

1本は舌に、もう1本は喉奥まで飛んで行った。


「さて、とここからは……これだな」


背中に吊るしていた鞘からシースナイフを抜く。

こっからは近接戦闘。鱗と鱗の間に刀身をぶっ刺して肉を抉る。

シースナイフは捻り動作に耐性のあるナイフだ。

肉を抉って骨が見えたらハンティングナイフで削りとろうかな?

両腕まで赤く染めながら俺は鼻歌交じりにシースナイフを突き刺す。


「グギャァアアア!」

「おっと、危な」


デタラメに毒のブレスを放つファーヴニル。

紫色の禍々しいブレスが通った後は腐食した大地が残る。


「また厄介な。……って、ん? 何だ? 傷が治ってる?」


シュウウウゥゥゥという音と共に抉ったはずの足の傷と目の傷が急速に治っていく。

カラン、という虚しい音と共に目に刺さっていたスローイングナイフが地面に落ちた。


「マジか、自己再生能力とか聞いてないぞ」

「ファーヴニルは自動的に傷を癒す魔法がかかっているんです!

唯一通じるのは勇者の剣だけ。だから私に任せて逃げて下さい!」


少女は腰に帯剣していた両刃の剣を抜くとファーヴニルに斬りかかる。


「グギャァアアア!」


ファーヴニルは斬りかかってきた少女を無視して咆哮を上げる。

瞬間ーー巨大な魔法陣が突如ファーヴニルの正面に出現する。


「ま、まさかドラゴンズロア⁉︎

しかも対軍レベルの大規模魔法……だ、駄目…やめてぇぇぇぇぇぇぇ‼︎‼︎」


轟音を立てて魔法陣が起動する。毒々しい紫色の燐光が神社を照らす。

そして、僕はそれを見て……


「撃たせるかよ、そんなヤバそうなの」


本気(・・)を出すことにした。


「グギャッッ‼︎⁉︎」


右腕、左腕、右脚、左脚、鼻、再生した両目。鱗と鱗の境目、柔らかい部位。

高速でファーヴニルの身体の上を移動し、有りっ丈のナイフを刺して刺して刺しまくる。

毒竜に毒ナイフは通じないだろうが、肉を突き刺す激痛は感じるだろう。

最終的な目標としては。


「痛みによるショック死、辺りなら勇者の剣とかなくても大丈夫だろ」







「………嘘。ファーヴニルをあんなに簡単に…」


異世界のとある王国に召喚された勇者ーー佐々木 凛華は呆然と目の前で繰り広げられる戦いを見ていた。

凛華はファーヴニルの大魔法《|猛毒厄風》《ポイズン・テンペスト》の発動を防げなかった。

結果、王国軍は全滅。生き残った凛華も逃げることしか出来なかった。

腐毒の魔竜。王国を襲い、宝を奪い、人々を喰い殺す天災。

何十年も慎重に慎重を重ねて勇者たる凛華の召喚や聖剣の作製など出来る限りのことをやってなお、勝てなかったあのファーヴニルが。


「おらおらおらおらおらおらおらぁ!!!

図体がデカイだけの毒トカゲ風情が僕のナイフに勝てるかよ!」


今、目の前で少年にナイフで全身滅多刺しにされてるなんて……!


「よくもまぁ、ステータス無しであそこまでやれるものね」

「眷属化の影響もあるんじゃろうけど……。それ以上に本人の元々の能力の高さじゃな。

ファーヴニルの鱗と鱗の間を的確に狙っておる」


隣にいる桜色の髪の幼女と巫女さんは冷静にこの戦いを分析している。

というかこの人たちは一体……?


「あ、あの…」

「あぁ、そうだった。自己紹介がまだだったわね」


巫女さんがこちらに気付いて紅い瞳をこちらに向ける。


「あたしは天津 凪。ここ、天綱木神社の巫女。

ほんでこっちは祀られてる神様のツナギ様。

あそこでバカみたいにナイフ無双してるのが下僕一号よ。

よろしくね」


次々と指を指して一方的にまくし立てる巫女さん。

凛華はもう訳が分からなくなった。

ここは本当に日本なの⁉︎ というかなんで神様がいるの⁉︎ そもそもあそこで戦ってる少年は下僕なの⁉︎ 誰かちゃんと説明してよぉ⁉︎

ドラゴンズロア…別名竜の古魔法。特殊な声帯から発せられる竜種のみが使える魔法。

どの魔法も圧倒的な破壊力を誇る。竜種が最強種たる所以ともなっている。

猛毒厄風(ポイズン・テンペスト)》…腐毒魔竜ファーヴニルの十八番。強酸の嵐を巻き起こし周囲の生命体を残らず壊滅させる魔法。


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