四話 試練開始と異界の門
お久しぶりです。
投稿遅れてすみませんm(_ _)m
「よし、決めたのじゃ! 試練は戦闘系、門の向こうから来る侵入者をやっつけるのじゃ!」
「ちょっとツナギ様? それあたしの仕事なんですが……」
「凪ちゃんはお休みじゃ」
「ドラゴンとか高位デーモン相手だったらどうするんです⁉︎」
「………凪ちゃん、フォロー」
「おい、駄女神。もうちょい、もの考えてから話せ」
「………はい」
しゅんとするツナギ様。駄目だこの女神。
「ところで門の向こうから来る侵入者って何ですか? 昨日も凪が俺のことを侵入者だって」
「凪ちゃーん⁉︎ 一番重要なとこ話してなかったじゃろ‼︎」
「あ、忘れてたわ」
なんでもないことのようにさらっと流す凪に対してツナギ様が怒る。
どうでもいいけどツナギ様さっきから喜怒哀楽が激しいな。
「全く。………コホン。さて士人くん。妾のチカラが空間を【繋ぐ】ってことはさっき話したから覚えてるじゃろ?」
「…? ………はい」
「一瞬忘れてたっぽいけど、まぁ良いのじゃ。妾の力はちと強くての。漏れ出した力が異世界とこの世界を強制的に【繋いで】しまうのじゃ」
「あぁ、何となく話が見えてきました。つまりその繋がったのが異界の門でそっから来るのが侵入者ですね?」
「理解が早くて助かるのじゃ。そしてその門から来るのは人間だけでない。エルフ、吸血鬼、エンジェルといった人型からデーモン、ドラゴン、ペガサスなど幻獣まで様々なタイプがこの門を通ってやってくるのじゃ」
「へぇ。あれ? でも聞いてる限り話が通じそうな種族もちゃんといますよね? 凪はどうしていきなり俺を殺そうとしたんですか?」
「基本的に操る言語が違うから意思疎通が出来ないってのが一つ。もう一つは異世界の存在はこの世界に来たばかりだとこの世界の法則に縛られない。この世界で死んだとしても、入ってきて十二時間以内ならば殺すことで元の世界に強制送還できるのじゃ。簡単に言えば向こうの世界のリスポーン地点に送り返す、と言ったところかの?」
「だから一番楽な殺害という手段をとるんですね」
「そうじゃ。基本的には凪ちゃんが殺して、妾の力で身体から抜けた魂だけ呼び出して神威で脅迫、門を開いて身体ごと異世界に帰すのじゃ」
「相手としてはたまったもんじゃないですね」
「仕方ないじゃろ。そういう存在が世に知られてはパニックが起こりかねん」
「あれ? そういや凪が吸血鬼なのってもしかして………?」
この世界には吸血鬼なんていない。少なくとも都市伝説や物語の中だけだ。
「そうよ。あたしの吸血鬼の血は異世界から来た吸血鬼と何代か前の【天繋】が結ばれた結果混ざったものよ」
「やっぱ、吸血鬼の力は異世界産か。こんな日本の田舎の山奥に外国から吸血鬼の血が混ざったって言うより説得力あるし」
「なかなか洞察力があるようじゃの」
「情報収集は暗殺者の基本です」
「さらっと怖いこと言わないで欲しいのじゃ………。と、ともかく、そういうワケで妾たちは異世界の存在を追い払い続けておるのじゃ」
「まぁ、色々ぼかされましたけど大筋の流れは分かりました。そんで話を最初に戻しますとその異界の門を通ってやってくる侵入者を殺せばいい訳ですね」
「言い方ヤバいけど概ねその通りじゃ」
「分かりました。んじゃ、サクッと殺してすぐにクリアを目指しますか。次の門が開くのは何時ですか?」
「三分後」
「早過ぎんだろ」
サクッととは言ったが敵が来るまでカップラーメン完成と同レベル。
何ソレ早い。
「ほら、さっさと準備しなさい。外の鳥居の辺りに出てくるからそこ集合ね」
「りょーかい」
さて、ナイフのメンテしなきゃ。
三分後。
「準備完了! バッチコイ!」
さて、今回のナイフは前回のスローイング、ククリ、スペツナズ、ダガーに加え、ハンティングナイフ、シースナイフ、ブッシュナイフを追加。
更に確実に殺すため、スローイングナイフとククリ刀には即効性の致死毒を塗ってある。
「凄い殺気ね」
「誰かさんに手酷くやられた分、ストレスが溜まってるんでね…」
凪を睨みつつ、ホルスターにナイフを仕舞う。
「そういえばさ、凪はいつもどうやって血液を入手してるんだ?」
「また、突然ね。……あたしの血液入手ルートを聞いて血液不足にする気かしら?」
「いや、純粋な興味」
右手でスローイングナイフを弄びつつ、ツナギ様の方を見る。
中途半端に開きかける異界の門を安定化させ、ここにだけ繋がるようにする作業中みたいだ。
ここをミスると門の出現場所が山中から日本の何処かへと変化するため失敗は許されないらしい。
ふんぬぬぬぬ、と唸るツナギ様は眉間に皺を寄せ、さっきまでとはまるで違う真剣さだ。
「あたしの場合はツナギ様が空間を繋いで輸血パックを持ってくるのよ。この仕事って実は日本国の上層部の一部からバックアップを受けてやってるから資金には困らないし」
「え? 国が関わってんのか⁉︎」
そうか、それなら納得できる。
神や超常の存在の隠蔽、山奥での物資調達。
これらは全て国が関わってるならばそりゃ知られない訳だ。
「準備できたのじゃー!
士人くん、凪ちゃんこっちに来るのじゃー!」
「ほら、呼んでるわよ。行きましょう」
「そうだな」
凪と共に異界への門の前に立つ。
なんだか不思議な光景だ。目の前の空間が水面の様に揺れ、青い燐光を放っている。
「この先から?」
「えぇ、そうよ。今日のは…雑魚ね」
見分けるパターンでもあるのか凪はつまらなさそうに異界の門を一瞥して呟く。
「雑魚なのか」
「あくまであたし基準でだけどね」
「凪ちゃん基準じゃとそれは雑魚とは言えないのじゃ……」
「中位の竜種までなら雑魚カウントよ」
「中位の竜種を雑魚カウントする辺り凪ちゃんは相当の化け物なのじゃ……」
「なに言ってんですか、ツナギ様?
私にくれたゲームだとレベル上限が……」
「それは魔界◯記じゃろ⁉︎ それを自分の強さに当てはめちゃダメなのじゃ!」
バカなやり取りを続けていると青い輝きの中から人影がぼんやりと現れる。
「っ! 来たみたいだな」
「そうね」
少し距離を取ってスローイングナイフを投げる準備をする。
イメージ。人型というのは確定だろう。狙うならば喉、目、額、両足。
「……………………………」
集中、集中、集中。世界がゆっくりになる。相手だけに集中するため音が消える。自分の息遣いが消える。周囲の景色も消える。
門から人が出てくる。左手、右足、驚愕に染まった顔、胴体、右手、左足。
まだ10代前半のあどけなさが残る少女だ。
ーーーでもそれがどうした?
手首のスナップを効かせて投げる、投げる、投げる、投げる。
少女の全身に向かって猛毒のナイフが突き進む。
僕の手から放たれた4本のスローイングナイフは喉、額、心臓、腹に命中………しなかった。
横から出てきた巫女さんに全弾落とされたからだ。
「……………………どういうつもりだ、凪? これは正式な神の試練のはず。邪魔をするならお前ごと殺るぞ」
「………士人。まだ説明不足だったわね。今回はダメよ。この子は殺させない。だってこの子は……」
キョトン、としている少女。
目の前で起きた事態についていけていない様だ。
「あ、あの、ここは一体…?」
「貴女、日本人ね。神隠しか転移か……はたまた時空の歪みに落ちたか…。ま、なんにせよ安心して。ここは日本よ」
「……なんで日本語を…? いや、それよりどうして一目で分かった?」
「ツナギ様の髪を見なさい」
集中を解き、ツナギ様を見るとツナギ様の髪の毛が淡い桜色に染まって毛先が念動みたいな力で浮き上がっていた。本人はあわあわ言いながら髪の毛を押さえている。
「………いや、なんでだよ」
「ツナギ様の髪の毛があの色になると異界の門を通って出てくるものが帰還者であると確定するわ。
ただ、帰還者かどうか確認する場合は全身が門からこっちに出てきている状態に限るわね」
超超レアケースよ。よかったわね見られて、とどうでも良さげに言う凪。
「それにまだ終わりじゃないわよ。今日のメインはこっち」
「はっ! そ、そうだ皆さん、逃げてください! 私を追ってファーヴニルが……!」
凪の指差す先には異界の門。
毒々しい紫の体表にギョロリとした黄色い目玉。
皮膜に覆われた翼を広げ、咆哮を上げるドラゴンーーファーヴニルの姿が現れた。




