二話 解けた誤解と解けない呪い
掃除は後じゃ。まずは二人でゆっくり話すべきじゃ、とツナギ様は僕と巫女さんを汚部屋から追い出して別の部屋に置いて行った。
昨日殺し合ったばかりという関係からか重く気まずい沈黙が流れたが、やがて巫女さんがその沈黙を破った。
「昨日は、その、悪かったわね。アンタを間違って攻撃しちゃって」
巫女さんは昨日とは打って変わって話し合いから始めてくれるようだった。
「いや、それは別に気にしてないよ?最悪あそこで死んでも僕としては満足だったし」
「死んで、満足? どういうことよ、ソレ?」
僕は巫女さんーー凪さんの疑問に答えるべく、自分の秘密を明かすことにした。
「僕の家系は代々、暗殺者として裏の仕事を引き受けてきた。今回この山に来ていたのも非合法の殺戮遊戯に参加するためだったし、これで死んでも後悔しなかったと思う。僕が殺し合いで負けた時、その時が死ぬ時だって父様も母様も言ってたし」
「どうりで無駄に強かったわけだわ。アンタ、戦闘の訓練してたのね」
「えぇ、改めまして。【暗殺一家、一宮家】長男の一宮 士人です。どうぞよろしく」
「……第十七代目【天繋】の天津 凪よ。よろしく、あたしの下僕さん」
「下僕?」
下僕ってなんだ。どちらかと言えば被害者側の僕が何故、彼女の下僕にならなければいけないのか。
「暗殺者とは言え、誰かに仕える気はないよ?」
「……昨日、血を吸ったじゃない?あれ、実は呪いの力もあるのよ」
「呪い、ねぇ。まぁ昨日の魔法みたいなものとか見てるから別に存在は否定しないけど。それとこれと何の関係が?」
「この呪いの効果は【眷属契約】。血を吸った相手を一定確率で強制的に自らの眷属へと変えるものよ」
「それで?」
「眷属化した者は変容する。その一つが、これよ」
「鏡? これが何か……っ‼︎」
「気付いたみたいね。そう、眷属化した人間は瞳の色が主と同じ色になる」
僕の瞳は血のような真紅に染まっていた。
「……これは」
「そう、あたしと同じ真紅の瞳。吸血鬼の血族の証よ。もう少しすると犬歯が尖ったり、血の味が鉄味から甘味に変わるわ」
あと、夜目が利くようになるわね、となんてことないように話す吸血鬼。
「僕も吸血鬼の仲間入りってワケか」
「そうよ。この呪いは解けないし。アンタを吸血鬼にしちゃったのはあたしの過失だし、責任。でも謝らないわ。だってアンタは昨日死んでた命だものね。その命をどう扱おうと勝者であるあたしの勝手よ」
「………ひでぇな、ソレ。でも筋は通ってる」
そうか、僕はもう人間じゃないのか。しかし改めて僕を化け物に変えた張本人から言われると少しイラつく。
「分かった。お前に仕えてやる」
「偉そうね。下僕のクセに」
「まだ認めたワケじゃない。そもそもお前のことは気に食わない」
「ようやく素を見せ始めたじゃない。そっちの方が楽でいいわ。でも、お前ってのは気に入らない。あたしのことは凪でいいわ。あたしもアンタのこと士人って呼ぶから」
「勝手にしろ」
僕は猫を被るのをやめた。凪にはこれくらいで十分だ。