一話 目覚めた僕と神様の邂逅
一章開始です。
「………知らない天井だ」
目覚めたら知らない場所に居たので取り敢えず言ってみた。
布団の上で寝ぼけ眼のまま周りを見回すとどうやら和室らしい。旅館みたい。
寝起きでまだぼんやりする頭を動かして昨日の記憶を探る。
「……あぁ、そっか。巫女さんに負けたんだった。でも死んでないっぽいし。どういうことだ?」
うーむ、と考える。………うん、分からん!
分からんことは後回しにして今は分かることからだ。何故か枕元に置いてあったリュックの中からスマホを取り出すと10月2日と表示されている。確か吸血巫女さんに襲われたのが9月30日だったから丸一日寝ていた、ということだろうか?
窓から外を見ると山の中らしく木だらけだった。
僕はダメ元でスマホの電波のところを見る。
「うあー。圏外だ〜。連絡は無理そうだなぁ。……って、ん?」
今、一瞬電波が入った?
僕はスマホを持って立ち上がるとそこそこ広い和室の中を歩き始める。すると、やはり電波くる位置がある。
「こっち?いや、こっちか?」
僕は電波が入る方に向かって歩く。
障子を開け、廊下に出て、慎重に探す。
「ここ……かな?」
ある部屋の前で電波が入った。
中からマウスをカチカチやる音が聞こえてくる。誰か居る。
僕はドアをノックした。
朝の静かな廊下にコンコン、という音が響く。
「凪ちゃん? どうしたんじゃ……ってうわぁ⁉︎ 士人くん⁉︎」
中から出てきたのは銀髪に蒼い瞳の美幼女だった。
外国の子かな、と思いながら今の発言で気になった点を尋ねる。
「えっと、なんで僕の名前を?」
「リュックの中に入ってた学生証じゃ」
「あ、なるほど……って見たんですか? リュックの中身」
「………ナイフがいっぱいじゃった」
「見たんですね。アレについては気にしないで下さい」
「……うむ」
僕と幼女の間に重い空気が流れる。
ヤバい、話題変えなきゃ。
「と、ところでここは何処で貴方は誰ですか?」
「ここは天綱木神社、そんで妾はここに祀られている神、ツナギじゃ!」
えっへん、と無い胸を張る自称神様。
「………そっか、凄いんだね! ……頭の壊れ具合が(ボソッ)」
「憐れんだ目⁉︎ いや、ホントじゃよ⁉︎ 妾、ホントに神様なんじゃよ‼︎」
「分かってます」
「ほ、ホントかの?」
「はい」
そういう設定なんだろ。
「……一応言っておくと設定じゃないんじゃよ?」
「………や、やだなぁ?ちゃんと信じてますって!」
「めっちゃ目が泳いでいるのじゃ‼︎ やっぱり信じてないじゃろ!」
「じゃあ奇跡の一つか二つ起こしてください」
「え、奇跡……?わ、分かったのじゃ。じゃあ取り敢えずこの帽子から鳩でも……」
「それマジックだよ。奇跡の方向性見失ってるよ」
タネも仕掛けもあるだろ。奇跡とは言えねぇよ。
「……ってちょっと待て。その帽子今どっから出した?」
「え?そりゃこうやって」
片手を何もない空間で一振り。
「こうして」
突如帽子が出現。
「こうなのじゃ」
パシッと帽子を掴む。
「神様‼︎」
「うにょあ⁉︎ 態度変わり過ぎじゃろ⁉︎」
何コレスゲェ‼︎ 何もないところから帽子出てきた!
「改めて、空間を『繋ぐ』神のツナギなのじゃ。フレンドリーにツナギ様とでも呼んで欲しいのじゃ」
「フレンドリーにと言いつつさらっと様付けを所望する辺り偉そうっスね、ツナギ様」
「偉そうじゃなくて事実偉いのじゃ」
「ところでそんな凄い神様はこの部屋で一体何を? それにここだけ何故かスマホの電波が入るんですけど?」
僕が尋ねた途端ツナギ様の顔色がみるみるうちに青くなり、汗がダラダラと流れ出す。
「ナ、ナンデモナインジャヨー?」
「うわ、絶対なんかあるわこれ」
僕が戸を開けようとするも、ツナギ様は邪魔してくる。
「この先に何があるんですか?」
「な、ななな何も? ワラワ、カミサマ。カミサマ、ウソツカナーイ」
「急にカタコトになってる上、目が泳ぎまくってるじゃないですか」
しかも吹けもしないのに口笛まで始めやがった。これ絶対なんかあるだろ。
体格差もあって妨害を物ともせず進む僕。そんな僕をツナギ様は半泣きになりながら阻止してくる。
「うわぁぁ、後生じゃ、士人くん!頼むからここは開けないでたもう!」
「だが断る」
僕は戸に手をかけ、一息に開けるとそこは汚部屋が広がっていた。そして奥にはPC機器がある。
「だから開けて欲しくなかったんじゃよ〜。これ見られた後だと威厳もなにも無くなるからぁ」
「因みにここで一体何を?」
「ネトゲ」
「山奥なのに電波が入るのは?」
「妾の力をちょこっと応用して電波が入るよう調整をば」
「………駄女神じゃねぇか」
「駄女神って言わないで欲しいのじゃ‼︎ 」
はぁ、神様のイメージガラッと変わったわ。540°くらい。実に一周半。
「レディーの秘密を見るなんて、士人くんのエッチ」
「いや、レディーの部屋というには余りにも汚すぎるでしょ。一瞬強盗の入った後かと思いましたよ」
「がーん‼︎ うぅ、片付けなくても生きていけるもん。妾、数百年の時を生きたもん」
「いや、流石に衛生的にまずいでしょ」
僕はふと、足元を見るとぬ◯ぼ〜の袋があった。これはヤベェな。
はぁ、仕方ない。
「じゃあ、僕も手伝うので一緒に片付けましょう」
「うぅ、ホントかえ?」
「はい、さっさと片付けちゃいましょう」
僕もこの部屋の惨状を放って置けなかった。色んな意味で。
「ありがとうなのじゃぁ。士人くんは天の遣わしたメシアなのじゃ」
「大袈裟過ぎです。高々掃除くらいで」
「されど掃除なのじゃ! 凪ちゃんは言っても手伝ってくれなかったのじゃ!」
「ところでさっきも言ってましたけど凪ちゃんって誰ですか?」
「? もう既に一回会ってるはずなののじゃ」
「もう会ってる……ってもしかして」
僕が昨日の巫女さんのことを思い出した瞬間、気配を感じて振り返った。
そこには昨日の巫女さんがいて、ばつの悪そうな表情でこっちを見ていた。