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はいそっ  作者: 相野仁
三話
32/114

12

 率直なところ、一週間足らずの練習で大丈夫かという気持ちはある。

 だがしかし、皆は平気そうだった。

 聞けば一クラス単位に割り振られる時間はそこまで多くないと言う。

 せいせい一、二分くらいだとか何とか。

 そういう事はきちんと教えておいてほしいんだけど。

 それとも俺の訊き方がまずかっただけか?

 ……そうだな、訊いた事は教えてもらえているんだから、俺の訊き方の問題だよな。

 人のせいにしてはいけないよな、反省しよう。

 

「何を演奏するかですね」


 そういう話になり、またしても俺に視線が集中する。

 うん、そんな予感はしていたよ。

 でも、今回は力になれないと思う。

 中学時代にやったもの、タイトルが分からんし。

 それに演技時間は五、六分くらいあったから時間制限的にもアウトだろう。

 そう伝えると、何人かがやや残念そうな顔をした。

 とんとん拍子に決まらなかったからな。

 まさか本気で庶民がやったような演目に興味があったわけじゃあるまい。

 いくつか候補が挙げられるが、俺が知っているような曲のタイトルはないな。

 オペラとかミュージカルが多く、ハムレットとかオペラ座の怪人とか、そっちの方ならいくつかは知っているんだけど。

 またしても多数決になったものの、正直どれにしたらいいのか分からない。

 どれも分からないんだから、どれに挙げても同じかな?

 まさか俺の一票で決まるって事ないだろうけど。

 とりあえず、俺はハムレットに手を挙げた。

 何となく女の子達にかっこをつけるような気持ちで。

 まあ、知っているのかと訊かれたらよく分からないと答えるしかないんだけどさ。

 

「それではカルメンのトレアドールに決まりました」


 今日何度目かの拍手が起こる。

 カルメン? トレアドール?

 頭の中でいくつもの疑問符が並んでいたけど、俺も両手は動かした。

 まあ、自分が手を挙げたものじゃないから、知らないとは言いやすいか。

 ポジティブに考える事にしよう。

 さっそく手を挙げる。

 堂々としすぎじゃないかという気もするけど、こういう事は早めに言った方がいいだろうからな。


「あら、赤松さん、何か?」


「ごめんなさい、カルメンのトレアドールが分かりません」


 これにはさすがに、多くの女子にぎょっとした顔をされてしまった。

 と思ったのは俺の幻想だったが、困った顔をされたのは確かである。


「それではハムレットに変えましょうか?」


 体育委員がすかさずそう申し出てくれるが、いくら何でもまずいと思う。

 それなら、最初から俺が知っているものを選べばよかったんだし、多数決をとった意味がない。

 

「大丈夫です。そこまで甘えるわけにはいかないですし。ただ、教えてもらう必要はあると思いますが」


「そうですね」


 ここで小笠原先生が口を挟んできた。


「あった形のものを製作してもらえるよう、注文を出しておきましょう」


 もはや言うまでもないかもしれないだろうが、携帯電話を再び取り出す。

 まさかと思うが、これも今日中に届くなんて事はないよな……。

 そう思って様子を見守る。

 先生は電話を終えると言った。


「明日には届くそうなので、明日から練習ができますね」


 マジかよ。

 英陵パワー強すぎるだろ。

 作る人、泣いているんじゃないだろうな。

 それとも大金をもらえて喜んでいたりするんだろうか。

 ……何か変な考えに陥ってしまいそうだから、ここらで止めておこう。

 一番の問題はカルメンのトレアドールってやつだな。

 一体どんな曲なのか、すごく気になる。

 多数決で選ばれたくらいだから、きっと有名な曲なんだろうけど。

 俺でも知っているような曲なのか、それとも俺には無縁な曲なのか。

 こうして驚きの連続でロングホームルームは終わった。



 カルメンのトレアドール、本当にどんな曲なんだろうか。

 とても気になったものの、この間遅れたばかりで今日も遅れるわけにはいかない。

 誰かに訊きたい気持ちをぐっと抑えて生徒会館に向かう事にする。


「ああ、赤松さん」


 そんな俺を体育委員が呼び止め、用紙を差し出してきた。

 ラクロス及びバスケのメンバーを書いたエントリー表、そして応援合戦の演目を書いた紙だ。

 本来なら体育委員か学級委員長が提出するんだろうけど、俺が出した方が早いのも確かだろう。

 こういう事の考え方は同じなんだな。


「便利使いするようで恐縮ですが、エントリー表を提出するのをお願いしてもよろしいでしょうか?」


 儀礼的なものじゃなくて本当に申し訳なさそうな顔をされたので、義侠心が刺激されてしまう。

 一も二もなく引き受ける事にした。

 共感に近い感情を抱いたというのもあるんだが。

 遅れるわけにはいかない、という理由の一つがこの件だ。

 他のクラスもエントリー表や応援合戦の演目表を提出するので、それをもとに会議が行われるのである。

 まだ一年生とは言え、生徒会役員が遅れたらまずいだろう。

 ただでさえ、二、三年生徒は接点が少ないんだから。

 と言うか、生徒会の先輩達、正道寺先輩、七条先輩、紫子さんで全員か?

 ……改めて考えてみると、今日会議に参加する先輩達は知らない人達ばかりなんだろうなぁ。

 物怖じするなと自分に言い聞かせる。

 先輩達に今更かっこつけようとは思わないけど、情けないところを見られたくはない、という見栄のようなものはあるのだった。

 男の意地、と言うと言いすぎかな。


「あ、赤松君、少し待ってくれない?」


 急ごうとしていた俺は、小早川に呼び止められてしまう。

 イライラしている気持ちをなるべく表に出さないよう、足を止めて振り返った。


「何か用事かい?」


「ええ。打ち上げの件、どうなったのかと思って」


 あ、忘れていたな。

 確かに質問されるのは当たり前だ。


「先輩がたに話してみたら許可はもらえたから、今学校側に申請しているところだよ」


「あら、そうだったの」


 小早川のみならず、近くにいた女子達から嬉しそうな歓声が起こる。

 とは言っても迷惑にならないような、控えめな声量だった。


「どういう回答がくるか分からないから、それまでは待っていてほしいんだけど」


「了解したわ」


 小早川はニコリと笑う。

 いや、まだ本決まりじゃないんだが……嬉しそうな同級生達に不安な気持ちを抱く。

 だが、今はそれどころじゃない。

 早歩きで職員室に行って鍵を受け取る。

 幸い、今日は俺が一番のようだった。

 まあ、掃除がない時はほぼ俺が一番というのもすこしおかしい。

 先輩達は俺が鍵を受け取れるように、わざとゆっくりしているという可能性も考えられる。

 一年生がやるべきだからという理由じゃなくて、俺が焦ってしまわないという配慮で。

 少なくとも今の生徒会の先輩達はそういう人達ばかりだと、自信を持って断言できる。

 声に出して尋ねたとしても、たぶん誰も素直に認めないけど。

 口に出すと野暮になってしまうので、言わない方がいいだろうし。

 いつものように鍵を開けて中に入り、鞄を置いて窓を開ける。

 そして簡易清掃を始めた。

 今日は球技大会に関する会議を校舎内の会議室を使ってやるのだろうけど、だからと言ってここの掃除をサボっていいという事にはならない。

 このあたりが中学時代とは違うところだ。

 中学時代はよくも悪くも、手を抜く余地が多かったからなぁ。

 きちんとした躾をされている上流家庭の子女が集う、きちんとした学校ならではの事かもしれないけど。

 聞こえてきた音が、先輩達の誰かが来た事を教えてくれる。

 この足音だと恐らくは水倉先輩かな。

 そう思っていると、水倉先輩と高遠先輩が入ってきた。


「ごきげんよう」


「お疲れ様です」


 声をかけて入ってきた二人にそう返す。

 もちろん掃除の手は止めない。 

 それにしても高遠先輩の足音って、ほとんど聞こえないんだよなぁ。

 何か特殊な歩き方でもしているんだろうか?

 ちらりと見た限りじゃ、ゆっくりと上品な足運びくらいにしか思わないんだけど。


「あら、これは赤松君の?」


 水倉先輩が目敏く俺が置いた書類を見つける。


「はい。せっかくだからと持ってきました」


 ここで間違っても言っちゃいけないのは、クラスメート達に頼まれたという事だ。

 全く見当もつかないほど先輩達が愚かだとは思わないけど、いちいち自分から言わなくてよい事もある。


「まあよいでしょう」


 高遠先輩がそう言ったのでほっとした。

 黙認してもらえた、と受け取っていいんだろうな。


「一年生には参加資格がありませんからね」


 水倉先輩がおっとりとして言葉を発する。

 うん、何か思っていたのと違う事を言われたような気が。


「ええっと、どういう事でしょう」


 俺は声に出して尋ねていた。

 知らない事は遠慮なく訊け、と皆に言われているせいでもある。

 分かっていなかったのに訊かなかったら、後で怒られてしまうだろうし。


「今日は体育委員会が集まって会議をするのではないですか?」


 この問いに先輩達二人は互いの顔を見合わせる。


「それは違うわね」


 水倉先輩が答えてくれた。


「今日は三年生の体育部長と副部長、それから風紀委員長だけよ」


 あれ? そうなのか?

 そして何故に風紀委員長……。

 思わずつっこんでしまったが、次に訊きたい事が浮かんだのですかさず訊く。


「では、今日は会議室は使わないのですか? この後、会議室の清掃もした方がいいのかと思っていたんですが」


「ええ。今日はここを使いますから。ただ、お客様がみえる分、机と椅子を物置から運んでくる必要はあるでしょうけどね」


 今度は高遠先輩が教えてくれる。

 何だ、そうだったのか。

 まあ、机と椅子を運ぶのは俺の仕事になるんだろうな。

 そうは言っても机の方はサイズ的に一人じゃ厳しいから、誰かに手伝ってもらわないといけないだろうが。


「そうでしたか。では、掃除が終わったら持ってきますね」


「ええ、お願いします。と言っても、机に関しては皆でやった方が早くて確実でしょう」


 高遠先輩がそう言い、水倉先輩がうなずく。

 二人は荷物を置いて自分の席に座った。

 実は二人とも、今日のお茶当番ではないのである。

 そうであるなら、今頃はお茶を淹れてくれただろう。

 清掃を終えたので自分の席に着く。

 実のところ、こういう展開になってしまった場合は暇だったりする。

 姫小路先輩が来ない限り、生徒会の業務は始まらない。

 そして水倉先輩、高遠先輩も饒舌な方ではないのだ。

 こういう時に重宝すると言っては先輩に対して失礼かもしれないけど、内田先輩がいればだいぶ気が楽である。

 ただ、今日のところは訊いてみたい事があるのがよかった。


「すみません。先輩がたはカルメンのトレアドールってご存知ですか?」


 二人の視線が俺に向けられる。


「ええ。知っていますよ」


「カルメンってあのオペラのカルメンかしら? それならば知っているわよ」


 高遠先輩は淡々と即答し、水倉先輩は慎重な様子で言った。


「ええ。どういう曲なのか知りたいと思いまして」


 二人の先輩は顔を見合わせる。

 俺、何かおかしな質問をしただろうか。


「ちょうどCDがありますから、かけてみますか?」


 高遠先輩の申し出に俺は目を丸くした。

 何という運のよさなんだろう。

 思いがけない展開に呆気にとられかけたが、口を急いで動かした。


「構わないのでしたら、お願いします」

 

 こういう事は早い方がいいだろうしな。

 

「音量を控えめにすればよいでしょう」


 高遠先輩はそう言うと席をたち、棚から一枚のCDを取り出す。

 その一言でやっぱりかける事そのものは、あまりよくないのかなと思ってしまった。

 その間に先輩はCDをラジカセにセットして、スイッチを入れる。

 すぐに曲が流れ始めて、俺はおやっと思った。


「あれ? この曲、聞き覚えがありますね」


 テレビのコマーシャルなんかでちょくちょく流れている曲だろう。

 これ、トレアドールっていうタイトルだったのか。

 意外な結果に驚きを隠せない。

 それにしてもこの曲、テンポが速いよな。

 竹で叩いて再現するには、難易度が高くないかな?

 もっとも、俺が思うような事くらい、お嬢様なクラスメートは百も承知だろうし、作成を依頼したプロはなおさらか。

 心配するだけ無駄だろうな。


「そうでしたか」


 先輩は俺の声を聞いてすぐに止めてしまった。

 そしてただちに片づけに入る。

 やっぱり、俺の為に特別に便宜を図ってくれたんだろうな。


「ありがとうございます」


 先輩の小柄な背に礼の言葉を投げかける。


「構いませんよ」


 クールな返事が耳朶に届く。

 何となくだけど、照れている先輩の顔が思い浮かぶ。

 口元が緩みそうになったところで水倉先輩がこちらを見ている事に気がつき、慌てて引き締めた。

 気のせいか、先輩は若干機嫌が悪そうだったのである。

 たぶん、気のせいだろうけどな。

 俺と高遠先輩が親しくしたからと言って、水倉先輩が怒る理由がないんだし。


「失礼します。遅くなっちゃいました」


 やや慌てた様子で入ってきたのは、藤村先輩だった。

 その後に内田先輩と姫小路先輩が続く。

 なるほど、姫小路先輩と一緒になってしまったのなら、藤村先輩が慌てているのもうなずける。


「慌てなくていいのよ。……それよりもまどかさん」


 藤村先輩には優しく声をかけた生徒会長は、何やら副会長の一人に話しかけた。


「はい、なんでしょう」


 CDを片付け終えた先輩はしれっとした顔で聞き返す。

 ポーカーフェイスのお手本になりそうなくらいだ。


「さきほど、曲らしきものが聞こえたのだけれど、何かかけた?」


 あれ、聞こえていたのか。

 姫小路先輩、耳がいいんだな。

 じゃなかった、悪いのは俺なんだから俺が答えないと。


「すみません、僕が頼んだんです」


 先輩達の会話に割って入るのも失礼になるのかもしれないが、この場合は仕方がない。

 姫小路先輩は少し驚いた表情で俺を見て、ついで高遠先輩を見る。

 そしてくすりと笑った。


「そういう事でしたか」


 何やら意味ありげな態度に、高遠先輩は頬を赤らめる。

 何がどうしてそうなるのか、俺にはよく分からないな。

 俺の頼みを聞いた事が知られるのは、高遠先輩にとっては恥ずかしい事だったんだろうか。

 ……自分で言っていて、少し悲しくなってしまった。

 内田先輩は興味深そうな顔で俺と高遠先輩の顔を見比べたものの、何も言わず席に着く。

 さすがに高遠先輩をからかう勇気はないのだろう。


「瑞穂さん、お茶をお願いね」


 水倉先輩が機転を利かせたのか、そんな発言をする。


「あ、はい」


 どこか居心地悪そうな表情だった藤村先輩は、自分が今日の当番だと思いだしたのだろう。

 急いで鞄を置き、お茶を淹れる準備を始めた。

 それで救われたわけじゃないだろうけど、姫小路先輩も自分の席に着く。

 何となくではあるが、会長と副会長の間に目には見えない火花が散っているような気がする。

 俺の考えすぎだろうか?

 そうこうしているうちに、藤村先輩はハーブティーを淹れてくれた。

 温かいハーブティーを飲むと、ほっこりして気分が落ち着く。

 俺だけでなく、他の先輩達も同様のようだ。

 藤村先輩の事だから、別に狙ってやったわけじゃないんだろうけど。


「ど、どうですか?」


 おどおどしていると言えば言いすぎだが、それでも不安そうな面持ちで皆の様子をうかがう。

 それがいつもの藤村先輩であり、今日も変わらない。

 俺はじっと見守る。

 こういう時、年齢順で感想を言うのがルールのようだからだ。

 一度、真っ先に言ってしまった時は皆に苦笑され、後でこっそり藤村先輩に教えてもらったのである。


「そうね。もう少しお湯を注ぐタイミングを考えた方がいいのではないかしら」

 

 姫小路先輩が言うと、高遠先輩が相槌を打つ。


「ええ。お湯の温度も微妙に変えたら、もっと美味しくなるでしょう」


 何度聞いても圧倒されてしまう。

 微妙な違いによる味の差を、先輩達は理解できるらしいのだ。

 俺なんてとても美味しいとしか分からないんだけどな。

 藤村先輩は真剣な顔をして聞き入っている。

 もっと上手に淹れたいという気持ちで溢れているのだろう。


「赤松君はどうですか?」


 最後に俺の番がやってきて困ってしまった。

 皆どうすればもっと美味しくなるのかを言っていたので、俺だけ言わないのもどうかなと思う。

 かと言って、これ以上どうすればいいのかなんて分かりっこないしなぁ。

 知ったかぶりはしない方がいいだろうし、素直にぶちまけてしまおう。


「ごめんなさい。美味しいとしか分かりません」


「そうですか」


 藤村先輩は複雑そうな表情を浮かべる。

 美味しいと言ってもらえたのは嬉しい、でも……といった感じだ。

 それを見たのか、内田先輩が口を挟んでくる。 


「赤松君に悪気はないんだろうけど、美味しいだけじゃ困る場合もあるのよ?」


「ごめんなさい。僕、細かい違いが分からなくて」


 正直に打ち明けて謝っておく。


「いえ、いいんですよ。美味しいと言ってもらえて嬉しいですから」


 藤村先輩が急いで俺のフォローをしてくれた。

 何だか申し訳ない。

 少しは味覚を鍛えた方がいいんだろうか。


「まあ、飲み慣れていないものの違いを理解しろと急に言っても無理でしょう」


 姫小路先輩がそう言ってくれる。

 これによって、俺を何となく責めるような空気は消えてしまった。

 本当に凄いし、ありがたい。

 と思っていたのだが、話はそれで終わらなかった。


「何なら赤松君もお茶を淹れてみますか? こういう事は、自分でやると少しずつ分かってくるようになるものですよ。最初は私達が教えればよいでしょう」


 高遠先輩がこんな事を言い出したからである。


「えっと?」


 俺は展開についていけず、目を白黒させてしまう。

 何でそういう事になるんだ?


「それは名案だわ」


 姫小路先輩が嬉しそうに両手を叩く。


「本当ですね」


「さすがまどか先輩です」


 内田先輩、水倉先輩も乗り気な姿勢を見せる。

 藤村先輩も反対はしない。

 俺が何も言わないうちにどんどん話が進んでいく。

 

「ダメでしょうか?」


 抗議しようにも、姫小路先輩に縋るような視線を向けられ、嫌とは言えなかった。


「僕でよければ喜んで」


 傍目には先輩達の魅力に負けてしまったようにしか見えないんだろうな、と冷静な自分がささやきかけてくる。

 しかし、先輩達全員に誘われたら断りようがない。

 誰か一人でも反対の人がいればよかったんだが。

 こりゃ、死ぬ気で覚えるしかないんじゃないだろうか。


「あら、いけない。そろそろ皆さんが来る時間ね」


 姫小路先輩が不意にそう言ったので、俺を含めた他のメンバーが慌てて時計を確認する。

 確かに球技大会の打ち合わせを始める時間が迫っていた。

 急いで準備を始めないと。

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