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はいそっ  作者: 相野仁
十話
111/114

10

 何だかんだで文化祭は終わった。

 いろいろと気を遣われた感はあったけど、なかなか楽しかったと思う。

 

「今日はどうもありがとう」


 同じ班になった三人の女の子に礼を言うと、にっこりと微笑まれた。


「どういたしまして。こちらこそありがとうございます」


 後は教室に戻ってホームルームを待つばかりである。 

 勉強になったなと思った。

 ホームルームが終わって生徒会室に向かう。

 翠子さんと高遠先輩以外とはすれ違わなかったな、そう言えば。

 残念と言えば残念だけど、御子柴さんたちの心臓に優しい結果だったかもしれない。

 あの人たち自分の家がすごいこと、黙っているもんなあ。

 二年の先輩たちも実は……ということを隠している可能性だってありそうだ。

 さてと、そろそろ気持ちを切り替えよう。

 文化祭が終わったということは生徒会選挙が近づいてきたということだ。

 選挙管理委員会が発足し、三年生が引退してしまう。

 ついにこの時が来てしまったか……というのが正直な気持ちだ。

 来ると分かっているのに来てほしくなかったと思うのは甘えなのだろうか。

 生徒会室は今日も一番乗りだった。

 年下が先に来た方がよいので、少しホッとする。

 まだお茶を上手く淹れられないが、それ以外の準備はしておこう。

 軽く拭き掃除をしたところで内田先輩、藤村先輩、水倉先輩がやってくる。 


「ありがとう。お茶を淹れますね」


 藤村先輩がそう言ってくれた。


「そろそろ選挙ですよね。水倉先輩が新会長、藤村先輩と俺が副会長に立候補で……内田先輩はどうなさるのですか?」


 会計と書記で残るのだろうけど、詳しい話はまだ聞いていないなとふと思い、本人に聞いてみる。


「あら、私は出ないわよ。生徒会は引退するわ」


「えっ? 内田先輩、出ないんですか?」


「ええ。すでに翠子様のお許しは得たわよ」


 彼女はウィンクしてくる。

 お茶目な様子から未練らしきものは感じられない。

 藤村先輩と水倉先輩は少し寂しそうにしているけど、引き留めようとはしなかった。

 おそらく先輩たちはすでに知っていたんだな。


「寂しくなりますね」


「ふふ、私も寂しいかな」


 何となく見つめあう形になってしまった。

 三年生二人は仕方ないが、二年生は残留すると思っていたのだ。


「何かあるんですか?」


「ええ。習い事の関係でね」


 内田先輩はぼかした回答をする。

 習い事の関係……忙しくなるから無理ってことかな。

 残念だけどあきらめた方がいいだろう。

 首を突っ込む勇気がないし。


「今回は会計と書記については募集することになるわね」


 水倉先輩がそう言う。


「庶務って新一年生から募るんですか?」


 現一年から一人くらい入れてもいいのではないかと俺は思う。


「ええ。庶務は一年生だけって決まりなのよ」


 内田先輩の説明でひとまず納得する。

 変なところで決まりがあるんだなと感じたが、ルールに口を出せるはずがない。


「立候補、誰がしてくるんでしょうか。先輩がたは何かご存知ですか?」


 さすがに何も知らないということはないだろう。

 そう思っての質問だったが、先輩たちは意味ありげにお互いの顔を見合わせる。

 

「一人はたぶんあなたの知り合いだと思います」


 藤村先輩が代表するように答えてくれた。

 

「俺の知り合いですか……?」


 いったい誰だろうか。

 真っ先に浮かぶのは小早川、デジーレの二人である。

 他のメンバーは生徒会に立候補してくるような性格には見えないんだよな。


「そのうち分かると思うけど、気になる?」


「ええまあ」


 内田先輩の問いにうなずく。

 新しい仲間になる可能性があるのだから当然のことだった。

 

「それにもしかしたら俺、落選するかもしれませんし」


 少し弱気になってしまう。

 対立候補が出てきた場合、危ないのは俺だろうなと思うのだ。

 

「それはないでしょう」


 藤村先輩が彼女にしては珍しくはっきりとした言い方をする。

 

「落選って信任投票でってこと? ……すごいこと考えるのね」


 内田先輩は呆れたように言う。

 あれ、そんなに変なことだっただろうか?

 選挙に出る前に考える内容としては妥当じゃないのか。

 

「まあまあ、彼にしてみれば初めてなのですしナーバスになっても仕方ないですよ」


 藤村先輩がフォローしてくれる。

 ホッとしたけど、突然頭の中に情けない考えがひらめいた。


「こんなんじゃヒーロー失格ですよね」


 幻滅されたくない、かっこつけたいという気持ちがないと言えばウソになる。

 だけど、それ以上にヒーローって呼称を捨てられるならその方がいいと思いついたのだ。

 情けない姿を見せれば撤回してくれるかもしれないという可能性に飛びついたのである。


「大丈夫、誰だって完璧じゃないんだから。だから私たちは助け合うのよ」


 水倉先輩はにっこりと励ましてくれる。


「そ、そうです。微力ですけど私もついていますよ?」


 藤村先輩もこくこくとうなずいて彼女に賛成した。


「そうね。私たちなら弱音を吐いても受け止めてあげるから、お姉さまたちに甘えなさい。ヒーローにだって休息は必要だわ」


 内田先輩も素敵な笑顔で胸をトンと叩く。

 お心遣いどうもありがとうございますと言いたいところだが、作戦は失敗したのでそんな気にはなれない。

 この人たち物分かりがいいのかよくないのか、どっちなんだよって言うのは八つ当たりだろうか。

 みっともないことには違いないので、態度に出さないように気を付けないと。

 そう言えばこの人たちはどうして不思議そうだったんだろう。

 先生たちの承認を得たと言っても、あくまでも立候補者としての話だ。

 実際に認められるかどうかは生徒会選挙次第である。

 流れ的には聞けるから聞いてみるか。


「先輩たちはずいぶんと余裕がありますよね? 自信があるんですか?」


 問いかけると三人はまた顔を見合わせる。

 

「二人は言いにくいだろうから私が言おうか?」


 内田先輩が口を開く。


「えっと……」


 二人は迷っていたけど反対の声は出ない。

 了承されたとみなした先輩は俺に教えてくれる。


「私たちの立候補って実質会長の推薦を得ているのと同じなの。そして対立候補に名乗りを挙げるということは、会長に挑戦するのと同じってわけ」


「うわぁ」


 内田先輩が何を言っているのか、水倉先輩と藤村先輩がどうして自分の口からは言いにくいのか、一気に分かってしまう。

 本人にそのつもりはなくても、俺たち立候補者は翠子さんの威を借りているのと同じということだ。 


「翠子様がいらっしゃらなかったら、もしかしたら紫子さんや季理子さんが立候補してきたかもしれないけどね」


 水倉先輩はそう推測を口にする。


「その二人が来るとみんな危なかったわね」

 

 二人ともかなり強力な存在だと内田先輩がいう。

 

「特に桐生院には勝てる気がしません」


 藤村先輩は弱気に微笑む。

 会話が途切れたところで三年生コンビがやってくる。


「あら、何の話ですか?」


「選挙のことです。赤松さんに軽く教えていました」


 水倉先輩の答えに二人は納得した。


「私たちにできることはほとんどありません。みなさんのことを祈っています」


 翠子さんは着席しながら言った。


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