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はいそっ  作者: 相野仁
九話
101/114

17

 次の日、登校すると興味津々という顔のお嬢様がたの顔が大量にある。

 みんなソワソワしながらも聞いてこないあたり、慎みがある子が多いという認識でいいんだろうか?

 一時間めが終わった休み時間にクラスを代表して聞いてきたのは、予想通り小早川であった。


「昨日、どうだったか教えてもらってもいい? 言える範囲でいいから」


 心配されているのは分かるし、どうせそのうち百合子さんあたりから広がるだろうと思ったため、素直に明かす。


「娘たちが幸せならよし、泣かしたら許さない。そんなことを言われたよ」


「ああ、そうなんだ」


 小早川は何やら考え込んだ。

 この子が安心しないとは、まだ何かあるんだろうか?

 不思議そうな顔をしていたのがばれたのか、彼女はたしなめるような顔で注意してくる。


「幸せってけっこうあやふやよ? 赤松君にかぎって心配はいらないとは思うんだけど、それでも一応留意しておいて」


「あ、うん」


 たしかに幸せとは人によって千差万別だろう。

 あまり油断しない方がいいというのは道理だったので、うなずいておく。

 小早川が他のメンバーに話して回り、教室内の空気が明るくなる。

 これで当面の課題は解決したかな。

 解決したのではないところがネックだが、欲張りすぎない方がいい。

 自分一人の力でどうこうできるようなものが多いのだから。

 ……生徒会役員とか、な。

 昨日は行けなかったのだから、今日は生徒会に行くしかない。

 顔を出すと翠子さんはにこりと、高遠先輩はくすりと言った感じで出迎えてくれる。

 藤村先輩はホッとした感じ、内田先輩は満面の笑顔だった。


「聞いたわよ、一連の話」


 ただし内田先輩の発言内容は、俺にとって容赦ないものである。


「全員ほしいって言ったんだって? 女の子全員とか恐ろしいこと言うわよね」


「そんなこと言ってませんよ!」


 からかわれているのは百も承知だったが、否定せずにはいられなかった。

 

「智子さん?」


 翠子さんの一言で内田先輩は首をすくめる。 

 よかった、助かった。


「ところでどうして私たちに相談してくれなかったのですか?」


 水倉先輩が質問してきて、先輩たちの視線がこっちに集中する。


「そうですよ。私に相談してもらえたら、桐生院には何も言わせなかったのに」


 翠子さんがぶつぶつ言っているけど、聞こえていますよ。

 二年の先輩たちの顔が青くなっているよと思っていると、彼女は気づいたらしくコホンと咳払いをする。

 そしてじーっと俺の方を見つめてきた。

 これは何か言わないと解放されそうにもないな。

 気恥ずかしいのであんまり言いたくなかったんだが、言葉にするしかないか。

 

「先輩はもうじき卒業でしょう。いつまでも頼っていられないと思ったんです。まずは自分の力で、できるだけやってみようと考えました」


「……そう」


 三年生はそっと目を伏せ、二年生はちょっと切ない表情でうなずく。

 

「そういうことでしたら仕方ありませんね」


 翠子さんは認めてくれた。

 それから俺がいなかった前日のできごとを簡単に説明してくれる。

 大きな変化と言えば、生徒会新役員についてだろう。

 水倉先輩が新会長、俺と藤村先輩が副会長になるという案を先生がたに出して承認されたのだ。

 

「そう言えば生徒会選挙っていつになるんでしょう?」


 俺は質問する。

 もしかして以前に聞いたかもしれないけど、ただでさえイベントが目白押し状態だったため、忘れてしまっていた。


「十二月の初旬ごろ、ダンスパーティーの前よ。ダンスパーティーの開催が新生徒会の初めての仕事になるかしら」


 内田先輩が教えてくれる。

 ダンスパーティーの前になるのか。


「……そして選挙準備期間とかありませんか?」


「言っていなかったかしら?」


 内田先輩が首をひねりながら説明してくれる。


「文化祭の後に選挙管理委員会が設置されて、その時に発表されるの。一般からの立候補者も同じ時期に募られるわ」


 もしも誰も立候補しなければ信任投票になるし、その方がありがたい。

 

「どうやら私たちのサポートが不十分だったようですね。赤松さんが英陵での生活に慣れたという油断があったようです」


 翠子さんがそう言うと、全員が申し訳なさそうな顔になる。

 いや、俺もこれまで確認するのを忘れていたんだから、誰が悪いという話にはならない気がする。


「自分も忘れていたのですから、先輩がたの責任ではないと思います」


「右も左も分からない方の手助けをするのは、私たちの役目なのですから」


 翠子さんはきっぱりと言い切り、他のメンバーもうんうんとうなずく。

 まずい、謝罪攻勢が今にもはじまりそうな流れだ。

 とりあえずこの流れを断ち切ろう。


「文化祭までは一応余裕があるのですよね」


「そうなりますね」


 こちらの問いかけが無視されるなどありえない。

 翠子さんが答えてくれたことで、寸断には成功する。

 しかし、スケジュールがきつきつだと思うんだが、どうしてこれで今まで問題がなかったんだろう?

 やっぱり英陵だからですべて説明できてしまうんだろうか。

 都合よすぎる気がしないでもないけど、正直今更なんだよなあ。

 

「他に何か質問はありますか?」


 高遠先輩に問われる。

 

「文化祭でクラスごとの出し物はないのですよね?」

 

 ふと思ったので聞いてみると、肯定が返ってきた。


「ええ、美術品などの持ち寄りがあるくらいですね」


 考えてみれば美術品の鑑賞だけで一日を使ってしまうなんて、とんでもない話だと思う。

 もっとも、翠子さんとふたりで行った時のことを思い出せば、不可能だとは言えないのだが。

 ……お化け屋敷とか展示物、飲食店の準備をしなくてもいいんだから、スケジュール的には無理が出ないのかもしれないな。

 何となくだがそう感じる。

 体育祭の練習だって、正直中学の時よりは楽そうだったもんなあ。

 何だかんだで生徒のことを考えたうえで作られているんだろうか?

 そもそも力の関係的には、生徒(の親)の方が学校より強いもんな、この学校。

  

「僕が持って来られるものは何もないのですが」


 申し訳なさでいっぱいだった。

 持っていけそうなものはせいぜい鉄道関連のものくらいだし、たぶん英輔さんしか喜ばないよな。

 文化祭で父兄が来るのかどうか……聞いておかなきゃ。


「父兄ですか? お見えになりますよ。在校生の家族だけが当日入れますから」


 高遠先輩が回答してくれる。

 どうやら友達を呼ぶという発想はないらしい。

 北川よ、力になれなくてすまないなと旧友に詫びておく。

 

「ということは、赤松君のご家族も当日いらっしゃるのかしら」


 内田先輩が思いついたように手をたたくと、どういうわけか先輩たちが体をぴくりと震わせる。

 いや、そりゃうちの家族だけ呼ばないわけにはいかないよね。

 みんな金持ちなのにうちだけ庶民だから、呼んだら肩身の狭い思いをさせてしまいそうなんだが。


「一応、来る気はあるのか聞いてみようと思います。妹は英陵への進学を狙っているので、下見にもなるかな」


 と説明したら、先輩たちは互いの顔を見合わせる。


「赤松君の妹さんってたしか中学生よね? 高等部への編入試験ってありましたっけ?」


 内田先輩の問いに翠子さんが応じた。


「あることはありますよ。ただ、学年トップ争いをできる実力を要求されるので、合格者は数年に一人レベルだそうです」


「変な人に入ってこられても困りますものね」 


 藤村先輩がおっとりとした声で、納得したように言う。

 この流れなら聞けるなと思ったため、俺は尋ねてみた。


「英陵のトップってどれくらいの力があるんでしょう? 恥ずかしながら、よく分かっていなくて」


「内部進学者が多いため、単純によその大学と比較するのは難しいでしょうけど、数年前東大の理科三類に合格なさった方がいらっしゃるそうです」


 高遠先輩がさらりと言うと、翠子さんが自分の記憶を探りながら口を開く。


「たしか京大の医学部に進学なさった方もいらっしゃったと思いますよ」


 国内最高峰の医学部に進めるようなレベルが混ざっているのか……毎年のことなのか、数年に一回出るレベルなのかまでは分からないけど。

 つくづく英陵は恐ろしいし、世の中って不公平だよな。

 英陵の人たちは何も悪くないんだが、思わずにはいられない気分になってしまう。

 妹よ、お前の道は険しそうだぞ。


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