表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暴君くま耳少女  作者: 夜猫
8/14

第8話くま耳と温泉旅館後編

「ふぅ、食った食った」

俺は満足気に腹を撫でて、天井を仰いだ。

宿は古びていたが、かなり食事は美味かった。

夕凪も表情には出さないが満足しているようだ。

「さて、と……」

「女風呂でも覗きに行くのか?」

「行くかーーーっ!」

立ち上がる俺に、夕凪がとんでもない事を聞いてくる。

俺は振り返り様に、夕凪に叫んで返した。

「何故だ!?」

「いやいや、そんな『わからない』みたいな顔されても……」

「女風呂を覗かなくて、何が温泉だ!」

夕凪は肩を竦める俺に力説する。

いや、そんな事言われても困るんだが……。

「はぁ……これでも聖職者なんだけど」

「関係ない!男ならば、やるべきだ!」

「訳わからんわーーーっ!」

俺は拳を握り締める夕凪に、俺は思い切りツッコミを入れた。

叫んだ後、ハァハァと肩で息をした俺は、一度深くため息を吐いて風呂へと向かった。

暗い廊下を通り、大浴場に辿り着いた俺は、すばやく服を脱ぐと風呂のドアをガラリと開ける。

「……」

『……』

白い湯気の中、先客と視線が絡み合う。

それは、部屋で寛いでいた半透明の少女だった。

唖然として固まってしまう俺と少女。

静寂の中、ようやく我に返ったのか、少女の表情が段々と紅潮していく。

『キャーーーッ!痴漢ーーーっ!』

「ち、違う。誤解だ」

『女風呂に入って、何が誤解よ。この変態!』

思い切り悲鳴をあげる少女に、俺はなるべく少女を見ないように手で顔を隠しながら弁解する。

しかし、少女は聞く耳を持たない。

俺は何を間違ったのだろう?

確かに、男風呂に来たはずなのに……。

それよりも、この状況を何とかしなければいけない。

「ち、ちょっと落ち着いて」

『いいから、早く出てってよ!』

「何事だ!」

「夕凪!?」

必死で場を治めようとする俺を、少女は怒りの表情で睨み付ける。

そんな風呂に、騒ぎを聞き付けたらしい夕凪が飛び込んでくる。

「聖職者だとか言っておいて、やっぱりお前も男だったんだな」

「いやいや、そんな『そらみろ』みたいな顔で言われても」

ニヤリと笑い、親指を立てる夕凪に、俺はゲッソリとして肩を落とした。

「お前はやる男だと思っていたんだ」

「一人で納得するなーーーっ!」

『何無視してんのよ。覚えておきなさい!いつか呪い殺してやるからね!』

自己完結する夕凪に俺は号泣しながら、思い切り叫んだ。

一人置いてきぼりを食らった少女は、俺を憎々しげに睨んで消えていった。

「……」

「あの……何かありましたでしょうか?」

「うわっ!」

突然、背後からボソッとした声が聞こえてきて、俺は身体をビクッと震わせた。

振り向くと、女将が立っていた。

「こいつが女風呂を覗いたんだ」

「おい……」

どうだ凄いだろうと言わんばかりに胸を張る夕凪に、俺はがっくりと肩を落とした。

終わった……。

俺の社会的な人生は完全に終わった。

「……こちらは混浴になっておりますので問題ありません」

「ちっ」

「お前、今舌打ちしただろ!」

女将の言葉に、胸を撫で下ろした俺だったが、夕凪の残念そうな表情に釈然としないものを感じる。

「気のせいだ」

「いや、間違いなく舌打ちしたから」

「細かい事にこだわるとハゲるぞ」

酷い言い様だ。

俺は、取りあえず覗きの罪に問われない事に安心していた。

それにしても、夕凪の野郎……。

いつかギャフンと言わせてやる。

部屋に戻った俺と入れ替わりに夕凪は風呂へと向かった。

すでに部屋には布団が敷かれている。

俺は並んだ布団を少し離して、部屋で布団の上に寝転ぶ。

もうすぐ、夕凪が戻ってくる。

俺は変に意識してしまう。

怪人とはいえ、夕凪は妙齢の女だ。

同じ部屋で寝るなんて間違っている。

今からでも遅くない、もう一つ部屋を用意してもらおう。

そう考えていると、部屋のドアが開けられた。

どうやら、夕凪が戻ってきたようだ。

何だか胸がドキドキして、入ってくる夕凪に視線を送る。

「良い湯だった」

「ええーーーっ!?」

俺は湯上りの夕凪の姿に驚愕して叫び声を上げた。

どうすればこうなるのかわからないが、夕凪はくまの着ぐるみになっていた。

「いきなり何だ?」

「いや、その格好は……寝間着?」

「もちろんだ。何だ、私の湯上り姿に見惚れたか?」

困惑する俺に、夕凪はセクシーポーズをしてみせる。

が、着ぐるみのままで、そんなポーズされても何も感じない。

「襲うなよ」

「はぁ……もう寝よう」

俺はため息を吐いて、電灯を消して布団へ潜り込んだ。

先程までの緊張は消えていた。

横になった俺だったが、眠気はなかなかやって来ない。

何度も寝返りをうつが、しっくり来ない。

夕凪に視線を向けると、すでに気持ち良さそうに寝息をたてていた。

くそっ!

気持ち良さそうに寝やがって。

いつか、ギャフンと言わせてやる。

本日二度目の悪態を心で吐いた時、ギシッと足音が聞こえた。

俺は寝返りをうつように、音のする方へ顔を向けた。

薄く目を開くが、姿は見えない。

「?」

気のせいかと思ったが、未だに足音は続いている。

俺はガバッと身体を起して、音の方を凝視した。

何かがいる。

良く見えないが、俺は確信した。

「何者だ!」

「うーらーめーしーやー」

まるで浮き上がるように姿が見えてくる。

その姿は緑の全身タイツに、まるで古典的な死人のような白い衣装を纏っていた。

しかも、筋骨隆々。

この雰囲気……間違いない。

俺は一瞬で理解した。

「お前、ラブリーアニマルの怪人だな!」

「ああ!いきなり正体がバレたっ!」

怪人はショックを受けたように頭を抱える。

いや、筋肉にタイツなんて怪人ぐらいしかいないし。

「それで、お前は何しに来たんだ?」

「実は……」

そこで、ラブリーアニマルの作戦の全容が明らかになった。

招待状を送り、古びた温泉宿に俺達を呼び寄せて、怪人の能力で怖がらせようというものだった。

ちなみに怪人はカメレオン男。

緑の全身タイツを来ている訳だ。

まったく、変態ばっかりだな。

「あの少女の幽霊もお前達の仕業か?」

「少女……?」

俺が尋ねると、カメレオン男は疑問符を浮べて首を傾げる。

関係ないのか?

「おい……」

「……うー?」

問い質そうとした時だった。

気持ち良さそうに表情で寝ていた夕凪が、突然ムクリと起き上がってきた。

寝ぼけているのか、夕凪の焦点は合っていない。

そんな夕凪の視線が俺達に向けられる。

「夕凪……?」

「うがー。かかって来ーーーい」

恐る恐る声を掛けると、夕凪は突然暴れ出した。

間違いない。

こいつは寝ぼけている。

しかも、力のセーブが効いていないのか、それとも着ぐるみでパワーアップしているのか、いつもより夕凪の攻撃はパワフルだった。

夕凪は辺り構わず破壊していく。

『どわぁっ!』

俺とカメレオン男はその余波を受けて吹き飛ばされる。

気が付けば、温泉宿は全壊していた。

瓦礫の下から這い出してみると、カメレオン男が気絶していた。

「夕凪は!?」

俺は夕凪を探して辺りを見回す。

いた……。

夕凪はすぐに見つかった。

意味はわからないが、天へと拳を突き上げていた。

満足そうな表情だ。

こいつ、何の夢を見てたんだ?

「……」

「……ぐぅ……」

「寝てんのかよ!」

こうして、夕凪との初めての旅行は終わりを告げた。

今回学んだ事……。

それは、寝ぼけた夕凪には近付かないという事だ。

まったく、散々な旅行だっ……。

『あんたに与えられた辱め、忘れない。とり憑いてやるわ!』

俺に対し、半泣きで指を突き付け叫んだのは幽霊の少女……。

何だか、変な事になっちまったな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ