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暴君くま耳少女  作者: 夜猫
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第6話くま耳とパンダ娘

買い物帰り、近道しようと公園に足を踏み入れた。

以前、夕凪と出会った公園だ。

ちなみに、その夕凪は隣りで先程買った袋をガサガサ言わせている。

「何買ったんだ?」

「これだ!」

問う俺に、夕凪は自慢気に品物を見せつけてくる。

それは『納豆ヨーグルト』と書いてある食べ物。

いや、あからさまに不味そうなんだけど。

「納豆菌とビフィズス菌の奇跡の融合だ」

「いやいや、融合してないから」

まあ、本人が気に入っているなら良いか。

俺達は他愛ない話をしながら歩いていた。

噴水のある広場に近付いた時だった。

見覚えのあるピンクタイツが立っていた。

「よう」

「あっ、こんにちは」

手を挙げて声を掛けると、フラミンゴ男はピョコンと頭を下げる。

「こんな所で何してるんだ?」

「いや、広場でカンガリアンAと新怪人が戦ってるんですよ」

「なるほど」

尋ねると、フラミンゴ男は背中越しに広場を指差して説明する。

どうやら、戦闘中の見張りをしているらしい。

「少し見学しても良いか?」

「良いですよ」

そのまま通り過ぎても良かったのだが、新怪人を見たくなった。

快諾してくれたフラミンゴ男の好意に甘えて、俺達は新怪人を見に行く。

「怪人め、覚悟しろ!」

相変わらずの台詞で、エースがポーズを決めている。

という事は怪人は反対側か。

俺はエースの視線の先に目をやる。

「何だ、あの怪人は……?」

猫男と共に立っていたのは、フワフワモコモコとしたパンダの着ぐるみの小学生ぐらいの少女だった。

「か、可愛過ぎる」

「あいつは……」

「知り合いか?」

あまりの愛らしさに、俺がポーッと見とれていると、夕凪がポツリと呟いた。

「私の妹だ」

「なるほど、妹か……って、ええーーーっ!」

まさかの告白に、俺は一度スルーしかけて二度見してしまう。

こんな凶暴な奴に、あんな可愛らしい妹がいたとは……。

「うりゃ」

「ぐはっ!」

隣りにいた夕凪が、いきなり俺のボディーに拳を捩じ込んだ。

俺は身体をくの字に曲げて、そのまま悶絶する。

「今、失礼な事を考えただろう」

「……な、何故わかった?」

「お前の考えを読むなんて、赤子の手を捻るより簡単だ」

またもや、考えを読まれたようだ。

俺は冷たい視線で見下す夕凪に戦慄する。

「食らえ、怪人!」

「きゅーん」

「うっ!」

俺が倒れている間に、エースと怪人との攻防が始まっていた。

先に手を出したのはエースだった。

パンダ少女は避ける訳でもなく、捨てられた子犬のような潤んだ瞳でエースを見つめる。

さすがのエースもパンダ少女の愛らしさに攻撃するのを躊躇う。

と、次の瞬間……。

「えいっ!」

「あぶっ!」

下から突き上げるようなアッパーがエースの顎に炸裂した。

妙な声を出して、宙に舞うエース。

そのまま顔面から地面に落ちた。

「だーはっはっは。見たか、カンガリアンA」

「くそっ!」

まるで自分が攻撃したかのように、猫男は自慢気に胸を張る。

膝をついたまま、唇から滴る血を拭う。

「凄いな……」

「私の妹だからな」

こちらでは夕凪が自慢気だった。

しかし、エースだって馬鹿じゃない。

こんな攻撃は何度も効かないだろう。

「さっきのようにはいかないぞ!」

エースはビシィと指を指すと、一瞬でパンダ少女との間合いを詰めて、拳を振り上げる。

「うるうる」

「うっ!」

「ていっ!」

「ぐはっ!」

こいつ、馬鹿だーーーっ!

目を潤ませるパンダ少女に、こりもせずにエースはまたもや攻撃を躊躇った。

その結果、ボディーに拳を捩じ込まれる。

「見たか、カンガリアンA!新怪人の力を」

「くっ!」

高笑いを上げる猫男に、エースは悔しそうに表情を歪める。

その時だった。

パンダ少女の視線が不意にこちらに向いた。

「姉様ぁ!」

「あっ、こらっ!」

と、次の瞬間、パンダ少女が嬉しそうに笑って、こちらに向かって走ってきた。

どうやら、夕凪の姿を見つけたらしい。

走り出したパンダ少女に慌てたのは猫男だ。

せっかくの攻勢なのに、本人がその場からいなくなったのだ。

「今、お前がいなくなったら、私が危ないじゃないか!」

「カンガリアンキーック!」

「ぐはぁ!」

「正義は勝つ!」

背後では、エースが猫男に必殺技を繰り出していた。

吹っ飛んでいった猫男は一瞬起き上がろうとして爆発した。

ヒーロー物の番組では良くある光景だが、あれどうなってるんだろう?

疑問が頭を過ぎったが、今はそんな事はどうでもいいや。

俺は目の前のパンダ少女に視線を戻した。

パンダ少女は夕凪に抱き付き、顔を埋めている。

「姉様ぁ」

「久し振りだな、夜露」

「はい、久し振りですぅ。ところで、この人は……?」

どうやら、パンダ少女の名前は夜露と言うらしい。

夜露は怖々と俺へと視線を向ける。

「こいつは朝霧。私の下僕だ」

「いやいや、下僕とかじゃないから」

「……奴隷?」

「違うーーーっ!」

こいつ、俺の事をそんな風に思っていたのか……。

くそっ!

今度、冷蔵庫の納豆を全部食ってやる。

「俺は日向朝霧。よろしくな」

「朝霧……お兄ちゃん?」

戸惑った様子で夕凪の後ろに隠れてこちらを見る夜露に、俺は手を差し延べた。

それにしても、お兄ちゃん……か。

何て甘美な響きなんだろう。

癖になりそうだ。

「そうだよ」

「朝霧お兄ちゃん!」

俺が肯定すると夜露は警戒を解いたのか、ほにゃっと表情を弛めた。

と、夜露は急にもじもじし出す。

「どうした夜露、朝霧に何か言いたいのか?」

「あの……遊んでくれる?」

夜露の姿に何かを感じ取ったのか、夕凪が尋ねる。

小首を傾げた可愛らしい姿に、俺はズキュンと胸を撃ち抜かれた。

「もちろんだ」

「わぁい」

俺が快諾すると、夜露は嬉しそうに両手を挙げて顔を綻ばした。

「何して遊ぼうか?」

「鬼ごっこが良い」

「よし!じゃあ、鬼を決めるぞ」

「私、鬼が良い」

「なら、夜露が鬼でスタートだ」

自分から鬼がやりたいとは珍しい子だ。

俺は疑問に思いながらも、鬼ごっこは始まった。

逃げる俺を、夜露はトテトテと追い掛けてくる。

鬼がやりたいと言うぐらいだ、簡単に捕まっては面白くないだろう。

俺はそう考えて、捕まりそうになると、身を翻してヒョイと避ける。

余程楽しいのか、夜露はほんのりと顔を紅潮させる。

「朝霧、気を付けろ」

段々避けるのが困難になってきた頃、俺達の様子を黙って見ていた夕凪がボソッと呟く。

「ん?」

「パンダは容姿は可愛くて笹食ってても……一応肉食獣だぞ」

「うがーーーっ!」

俺が夕凪の言葉に、疑問符を浮べて振り返ると、野生バリバリ全快の夜露が襲いかかってきていた。

「ぐにゅっ!」

押し潰された俺は、そのまま意識を失っていった。

薄れいく意識の中、俺は思った。

見た目で判断してはいけない、と。

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