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暴君くま耳少女  作者: 夜猫
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第5話くま耳と赤ん坊

「おい……」

学校から帰ってきた俺は、思わず鞄を落としてしまった。

俺は夕凪が抱えてるものに釘付けだ。

「おかえり」

「ただいま、じゃない!それは何だ!?」

帰りを迎えてくれた夕凪に俺は抱えているものを、指差し叫んでしまう。

夕凪が抱えているもの、それは……赤ん坊だった。

「お前の子だ。責任取ってくれ」

「絶対、嘘だーーーっ!」

名誉の為に言わせてもらうが、俺は夕凪と肉体関係を持った事は一度もない。

いくら一緒に住んでいるとはいえ、誰が好き好んで、あんな凶暴なくま耳と行為に及ぶものか。

「うりゃ」

「ぐはぁ!」

「今、失礼な事を考えただろう?」

俺の考えは何故かバレて、思い切りボディーに拳を捩じ込まれた。

くそっ!

おちおち、心の中で文句も言えない。

「……それで、その子は何だ?」

「由妃の妹だ」

「由妃って……相坂の事か?」

相坂由妃とは、俺が受け持っているクラスの生徒だ。

それにしても、何故相坂の妹がここにいるんだ?

「両親がインフルエンザになったらしい」

「なるほど」

確かに、家族がインフルエンザでは、こんな赤子こ面倒は見られないだろう。

それで、夕凪に預けたのか……。

知らないとはいえ、何て無謀な奴だ。

赤ん坊は何もわからずに夕凪の胸の中でスヤスヤと眠っている。

「可愛いな」

「赤ちゃんは天使のようだ」

赤ん坊を見ていると、俺はほんわかと和んでしまう。

夕凪も同様のようで、今までに見た事のないような優しい笑顔で、赤ん坊のほっぺたをつついていた。

「だーはっはっは」

「ふぇ……」

と、突然、ベランダから大きな笑い声が聞こえてきた。

笑い声は大きくなったり、小さくなったりしている。

見れば、ロープにぶら下がったフラミンゴ男が右へ左へと、行ったり来たりしていた。

フラミンゴ男の笑い声のせいで、赤ん坊が目を覚まして、今にも泣き出しそうだ。

「静かにしろ!この桃色変態!」

「ぐはぁ!」

俺はベランダに出ると、フラミンゴ男をハリセンでシバいた。

ロープを身体に縛っていたので落ちる事はなかったが、フラミンゴ男はグッタリとしている。

「何をそんなに怒ってるんだ?」

「今、赤ん坊がいるんだ。お前のせいで泣き出しそうだ」

「びぇえええ」

復活したフラミンゴ男が首を傾げる。

俺が説明していると、赤ん坊の泣く声が聞こえてくる。

「えっと、その……すみません」

「取りあえず、泣きやますから、お前も手伝え」

「わ、わかりました」

意外に、フラミンゴ男は素直だった。

ベランダに降りて、ロープを外し、中に入ってくる。

「いないいない……バァっ!!」

「……」

「……」

「びぇえええっ!」

リビングでは、夕凪が赤ん坊を泣きやまそうと必死だった。

手で隠していた顔を出した瞬間、俺とフラミンゴ男は凍り付く。

何て凶暴な表情だ。

案の定、赤ん坊は更にけたたましく泣き喚く。

「……」

「いや、お前は良くやった」

泣きやます事に失敗した夕凪は、ショックだったらしく、部屋の隅で落ち込んでいた。

さすがに可哀想になって、俺は夕凪をフォローを入れる。

「お腹が空いてるんじゃないか?」

「なるほど。ならば、私に任せろ!」

泣いている赤ん坊をあやしていたフラミンゴ男がポツリと呟く。

先程まで落ち込んでいた夕凪が、いきなり復活した。

夕凪は赤ん坊に近付くと、ガバッと服を捲し上げる。

「……」

「……」

嫌な予感がした。

いや、まさか、そんなお約束な事を考えているはずないよな?

「母乳で赤ん坊を泣きやましてみせる!」

「出る訳ないだろーーーっ!」

「……ッ!」

俺のツッコミにハッと気付いた夕凪は、ホームランを打たれた投手のように、がっくりと膝をついた。

「私は無力だ……」

「……」

悔しそうに涙を流す夕凪に、俺は呆れたようにジト目で見つめる。

そんな中、気が付くとフラミンゴ男が哺乳瓶でミルクを作って、赤ん坊に飲ませていた。

「何か手慣れてるな」

ミルクの温度を肌で調べたり、飲ました後にゲップさせたりするフラミンゴ男の姿が妙に似合っていた。

「奥さんが忙しい時、面倒見てるから」

「フラミンゴ男なのに妻子持ち!?」

俺が愕然としている間に、赤ん坊はウトウトと眠り始める。

フラミンゴ男は優しく赤子用の布団に寝かせた。

「やっと、落ち着いたな」

「今、お茶淹れますね」

俺は憔悴し切って、その場にドカッと腰を下ろした。

フラミンゴ男が気を使って、キッチンにお茶を淹れに行く。

夕凪は赤ん坊が気になるのか、寝顔をジッと見つめている。

静かな時間が流れた。

誰しも、静寂にホッとしていた。

しかし、その静寂はピンポンという呼鈴の音と共に破られる。

「はーい」

「はっはっは。見つけたぞ、裏切り者!」

「……」

うさ耳が目に入った瞬間、俺は無言でドアを閉めた。

くそっ!

何で、猫男まで来やがるんだ!?

「お前、追い返して来いよ!」

「いやいや、あの人、先輩なんですよ。変な事言ったらクビになっちゃいますよ」

クビになったら妻子が路頭に迷います、とフラミンゴ男はブルブルと首を横に振る。

どうする……?

外では今にも破らんばかりの勢いで、猫男が何やら叫びながらドアを叩いている。

「私に任せろ」

「夕凪……」

凛々しい表情で、夕凪が外へと出て行く。

「はっはっは。やっと出て来たな。今日こそ、お前を……うぎゃっ!」

高らかに笑っていた猫男の悲鳴が聞こえる。

それから、激しい殴打音と猫男の悲鳴が何度も聞こえてきた。

「……」

しばらくすると、外が静かになった。

ガチャッとドアを開けて、夕凪が中へと戻ってくる。

その拳は血で真っ赤に染まっていた。

その後、赤ん坊の面倒は問題なく終わった。

唯一、気になるといえば、猫男の生死だけだ。

大丈夫かなぁ?

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