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暴君くま耳少女  作者: 夜猫
3/14

第3話くま耳と正義の味方

「はぁ……」

俺は疲れ切って、席でため息を吐いた。

そんな俺の元に、女教諭が近付いてくる。

「日向先生。朝からため息なんて不健康ですよ」

「朝から色々とありまして」

俺は頭を掻きながら、花澤先生に返した。

言ってなかったが、俺の職業は高校の教師である。

「色々?」

「いや、何でもありません」

首を傾げて疑問符を浮べる花澤先生に、俺は手を横に何度か振って誤魔化す。

さすがに、家のくま耳少女のせいで変態がガラスを破ってやってきたなど言えるはずない。

ちなみに、ベランダはガラスの代わりに新聞紙で代用してある。

「それより、教頭先生が呼んでましたよ」

「教頭先生が?」

一体、何だろう?

何か怒られるような事したっけ?

俺は考えながら、教頭の元に向かう。

「お呼びですか?」

「ああ、日向先生。今日、先生のクラスに転入生が来ますので」

「急ですね」

転入生が来る時は大抵一週間前に連絡があるものだ。

それが今日いきなり言われるとは。

忘れていたのか?

「ええ。突然でしたので。じゃあ、お願いしますよ」

「わかりました」

俺は一礼して、自分の席に戻った。

どんな奴が転入してくるのやら。

恐らく、もうすぐ来るだろう。

壁に掛けてある時計に視線を向ける。

「……おはようございます」

「おはよ……う?」

いつから居たのか、突然背後から挨拶が聞こえる。

俺は振り向きながら挨拶を返そうとして、そのまま疑問符に変わる。

「……」

「何故、お前がここにいる!?」

「転入してきた」

俺の目の前にいたのは紛れもなく、我が家に住み着いたくま耳少女だった。

俺は動揺のあまり、震えながら夕凪を指差した。

あっさりと答える夕凪に、俺は若干殺意が芽生える。

「何故、転校してきたのか、と聞いているんだ」

「もちろん、嫌がらせの為だ」

「コンチクショーーーっ!」

俺は夕凪の想いの籠った言葉に、泣きながら逃げた。

家に帰るまで、くま耳を見ずに済むと思っていたのに……。

気付けば、自分が担当する教室に辿り着いていた。

手には閻魔帳もある。

ついでに言えば、すでに夕凪が後ろにいる。

「はぁ……」

「では、頼む」

「はぁ……はいはい」

今日何度目かわからないため息を吐いて、俺は教室の扉を開ける。

「はい。席に着け。今日は転校生を紹介するぞ」

『えーーっ!?』

受け持ちの生徒達が、俺の言葉に俄かに騒がしくなる。

そりゃ、噂もなく、突然転校生が来たとか言われれば、騒然となって当然だろう。

「じゃあ入って」

「……」

『……ッ!』

中に招き入れると、夕凪は無言で中に入ってきた。

その瞬間、教室の温度が一気に下がる。

そりゃそうだ。

突然、くま耳少女に入ってくれば凍り付くはずだろう。

「えっと……じ、自己紹介して」

取りあえず、氷点下まで下がった温度を上げようと、俺はこの状況の打開を試みる。

「月輪夕凪だ」

『……』

打開失敗。

というか、更に悪化したかもしれない。

あまりにも簡素な挨拶に、皆が呆然としている……と思っていた。

が……。

『可愛いーーーっ!』

『くま耳最高ーーーっ!』

突如、教室内の温度が一気に上昇。

何故か、生徒達全員、夕凪を頬を赤らめて見ている。

一体、俺の生徒達に何が起こった!?

「作戦成功」

夕凪を見ると、五円玉を糸の先にぶら下げて、左右に振っている。

「俺の生徒達に何しやがるーーーっ!」

「あう。何をする?」

俺は教卓の上に置いてあった愛用のハリセンで、夕凪をシバき倒す。

こいつ、催眠術っぽい感じで、自分の居場所を獲得しやがった。

夕凪は頭を擦りながら俺を見上げる。

「何をする、じゃなーーーい」

「?」

興奮する俺に、夕凪はわからないといった感じで疑問符を浮べる。

こ、こいつは……。

というか、同じ手段で転校して来たんじゃないか?

そんなやり取りを夕凪としていると、俄かにグラウンドの方が騒がしくなる。

何事だ?

俺は教室の窓から外を見る。

そこには、またもや変態がいた。

「またか……」

俺はため息を吐いて、がっくりと肩を落とした。

まさか、学校にまで現れるとは……。

「ホームルームはここまで」

俺は早めに切り上げて、早足で教室を後にする。

向かったのは、もちろんグラウンドだ。

「……」

カンガルーの毛皮を羽織って、真っ赤なグローブをはめた変なボクサーの男が、何やらポーズを決めている。

今度はカンガルー男とかか?

「おい、怪人」

「失礼な。僕は怪人じゃない!」

「は……?」

予想外の返答に、俺はぽかんとしてしまう。

怪人ではない?

だったら、こいつは何者だ?

「僕は正義の味方、カンガリアンエース

「……」

悪の秘密組織がいるのだから、正義の味方がいてもおかしくないとは思っていたが、とうとう現れたよ。

「覚悟しろ。怪人め」

「?」

ビシィと指差すカンガリアンAに、俺は疑問符を浮べた。

というか、カンガリアンAって長いな。

よし、エースと呼ぶとしよう。

良く見ると、突き付けられた指は、俺の斜め後ろに向けられていた。

振り返ると、いつからいたのか、夕凪が立っていた。

「貴様、この学校に潜入した目的は何だ!」

「……勉強の為?」

うわぁ。

至極真っ当な事言ったーーーっ!

というか、さっきの台詞と全然違うじゃないか!

「何だ、お前は!勝手に校内に入っちゃいかん!」

俺とエースは呆然としてしまう。

そんな時、校内から生活指導である大川先生が出てくる。

「カンガリアンキーーック!」

「ぐはぁ!」

こ、こいつ、いきなり大川先生を蹴り飛ばしやがった。

「お前、正義の味方のくせに、一般市民に何するんだ!?」

「正義に犠牲はつきものだ」

ダメだ……。

こいつ、正義の味方として最悪だ。

何とかしないと。

「私に任せろ」

「夕凪……」

「出たな、怪人」

俺を手で制して、夕凪は前へ進み出る。

それを見たエースはバッと構える。

そこから凄かった。

一気に間を詰める夕凪を、エースはワンステップで華麗に避ける。

それどころか、隙の出来た夕凪に攻撃を加えた。

夕凪が劣勢になるなど考えもしなかった。

「……くっ!」

「どうした、怪人。手も足も出ないか」

見下すエースに、夕凪は悔しそうに唇を噛んだ。

と、騒ぎを聞き付けてか、パトカーがやってきた。

まずい……。

正義の味方の相手をしている夕凪が圧倒的に不利だ。

何人もの警官がやってきた。

そして……。

「君か。学校に侵入して暴れてるって言うのは……」

「え……?」

「ちょっと署まで来なさい」

「ええーーーっ!」

エースは警官二人に抱えられるようにして、連行されていった。

「僕は正義の味方だーーーっ!」

「はいはい。話は署で聞くから」

バタバタと暴れるエースを宥めながら、警官はパトカーに詰め込む。

こうして、正義の味方は警察に捕まった。

回転灯を回しながら去っていくパトカーに俺は思った。

俺の日常は、確実に変な方向に向かっているようだ、と……。

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