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暴君くま耳少女  作者: 夜猫
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第2話くま耳と朝の事件

「……う……ん……」

ゆっくりと目を開けた俺に飛び込んできたのは、ピコピコと動くくま耳だった。

「……うわっ!」

寝ぼけていたせいで、寝直そうとした俺はだったが、異変を感じて飛び起きる。

ベッドの横にいたのは、昨日出会ったくま耳少女の夕凪だ。

そんな夕凪が、何故一緒に寝てるのか?

確か、こいつは別の部屋で寝ていたはずだ。

「おい、起きろ」

「……ん……」

「……ッ!」

布団をめくり、身体を揺すると、夕凪は小さく声を洩らして、コロンと寝返りをうつ。

その瞬間、俺は髪が逆立つのを感じる。

こいつ、何て格好をしてやがる。

夕凪はいつの間に着たのか、下着の上に俺のワイシャツだけを身に纏っていた。

俺は真っ赤になって、視線を逸らす。

その瞬間、パシャッという音と共に眩い光が輝いた。

そちらに視線を向けると、何故かカメラが設置してある。

どうやら、フラッシュだったようだ。

それにしても、何故俺の部屋にカメラが?

「よし、撮れたな」

「?」

先程まで寝ていたはずの夕凪が、スタスタとカメラの所に歩いていく。

俺は訳がわからず、疑問符を浮べる。

「この写真をネットで流されたくなかったら、ここに住まわせろ」

「謀りやがったなーーーっ!」

そこでようやく、俺は夕凪の行動の意図がわかった。

くそっ!

俺を脅迫する気か?

俺はそんなものに屈したりしないぞ。

「どうする?」

「ここに住んでいいので、写真を流出させるのは勘弁して下さい」

すみません。

やはり、社会的な地位を失いたくありません。

俺は夕凪に土下座をして懇願した。

「そこまで言うなら、住んでやろう」

「くっ……!」

「取りあえず、腹が減った。朝ご飯を用意してくれ」

完全な上から目線な夕凪に、俺は悔しさに唇を噛み締める。

それを知ってか知らずか、夕凪のお腹がグゥと鳴る。

「……はぁ」

俺は深々とため息を吐くと、キッチンへと向かう。

冷蔵庫を開けると、一昨日買った鮭が飛び込んでくる。

「焼鮭で良いか」

後は昨日作った豆腐の味噌汁と目玉焼きでもあれば十分だろう。

俺は朝食のおかずを決めて、準備に取り掛かる。

くま耳少女は、リビングで箸を手に食べる準備万端だ。

少しは手伝おうという気にはならないのだろうか?

「まだか?」

「まだだ。大人しく待ってろ」

待ち切れないのか催促する夕凪に、俺は焼いていた鮭をひっくり返しながら返す。

「鮭か。すまん。私は鮭が苦手なんだ」

「くま耳なのに!?」

こいつ、くま耳のくせに鮭が嫌いだと!

くま耳なら熊っぽくしやがれ!

くそっ!

今からおかずを変更しないといけないのか。

「お前、何か好きな食べ物あるか?」

「……納豆」

考えるのが面倒臭くなった俺は、夕凪に聞いてみる。

夕凪は少し考えて、ボソッと呟いた。

それにしても、納豆とは……。

「まあ、それなら冷蔵庫の中にあるが……」

「そうか」

夕凪は冷蔵庫を開けて、納豆を取り出す。

それを皿に出して、醤油とからしをかける。

「……」

「な、何だよ?」

「ネギを刻んでくれ」

鮭を皿に乗せ、温めた味噌汁をよそぐ俺を、夕凪が無言でジッと見つめる。

何だか、居心地が悪くて聞いてみた。

なるほど。

薬味が欲しい、と。

何やら、こだわりがあるようだ。

俺は冷蔵庫から万能ネギを取り出して、適量刻んでやる。

ついでにご飯を盛って渡した。

夕凪は無言でご飯を受け取ると、スタスタとリビングに歩いていった。

俺の朝食も出来上がったので、盆に乗せてリビングに向かう。

「まぜまぜ」

「……」

リビングでは、夕凪が見た事ないような恍惚とした表情で、納豆を混ぜていた。

……楽しそうだ。

「だーはっはっは」

「どわっ!」

俺も着席し、朝食をとろうとした時だった。

豪快な笑い声と共に、ベランダのガラスをぶち破って、人が飛び込んでくる。

入ってきたのは、ピンク色のぴったりとした全身タイツを着た男だった。

怪人というか変態だ。

飛び散るガラスに、夕凪が混ぜていた納豆の器も吹き飛ぶ。

「……」

「我こそはラブリーアニマルの怪人フラミンゴ男」

恍惚な表情のまま凍り付く夕凪を無視して、フラミンゴ男は名乗りを上げる。

「何するんだ!」

「ふぐぅ……」

俺は呆然としていたが、我に返ると同時に手近にあったハリセンを振り下ろした。

変な言葉で潰れるフラミンゴ男。

「な、何するんですか!?」

「人の家に何て事しやがる。弁償しろ!」

先程までの横柄な態度とは打って変わって、フラミンゴ男は頭を押えて涙目で訴える。

「えっと、その……」

俺の剣幕に、フラミンゴ男はヤバいと感じたのか目を泳がせる。

「……」

「……脱出!」

「あーーーっ!逃げやがった!」

しばし沈黙が流れる。

俺はフラミンゴ男の言葉を待つ。

と、次の瞬間、フラミンゴ男はベランダの柵に飛び乗ると、上から下がっていたロープを掴んで降りていく。

しまった。

油断した。

「……」

それまで、固まっていた夕凪が不意に立ち上がると、スタスタとベランダに向かう。

手には、いつ持ったのかハサミが握られている。

ちなみに、俺の部屋は十階。

まったく、食い物の恨みは怖い。

「ま、待って」

夕凪がハサミを何度か動かしてみせると、フラミンゴ男は青ざめた表情で制止する。

「納豆の恨み」

「いやーーーっ!」

ロープをハサミで挟むとボソッと呟いた夕凪に、フラミンゴ男は叫びを上げる。

「とりゃ」

「あーーーっ!」

ロープが切られると、切ない悲鳴が段々と小さくなる。

こりゃ、死んだな。

ズドンと落ちた音がして、俺は合掌した。

「しぶとい」

見れば、フラミンゴ男はヨロヨロとしながらも歩き出していた。

くそっ!

逃がしたか。

それにしても……。

「お前を追い掛けてる奴って、変態ばっかりだな」

「何を言う。あいつは通りすがりの変態だ」

「そんな訳あるかーーーっ!」

そうして、俺の最悪の朝は終わりを告げた。

まさか、毎朝、こんな目に遭うんじゃないだろうな……。

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