第13話くま耳と怪人風邪前編
「私はお前の事を愛してる」
朝、欠伸を噛み殺しながら、リビングにやってきた俺に、くま耳が愛の告白してきた。
「……はい?」
あまりに唐突な言葉に、俺はポカンとしてしまう。
夕凪は顔をほんのりと赤らめて、瞳を潤ませていた。
「お前は私の事をどう思ってるんだ?」
「えっと、その……」
上目遣いに見つめてくる夕凪に、俺はしどろもどろになってしまう。
「朝霧……」
「ち、ちょっと……」
そっと背中に手を回す夕凪に、俺は眠気など吹き飛んで泡食ってしまった。
まるで熱に浮されたような瞳……。
しかし、夕凪はそのままズルズルと落ちていく。
「夕凪……?」
「きゅう……」
床に俯せになった夕凪は真っ赤な顔で目を回していた。
というか、本当に熱に浮されてたーーーっ!
今までのは熱の為の妄言だったようだ。
俺は夕凪をベッドに寝かせると、とりあえず朝食をとる。
「さて、どうするかな?」
今日は日曜だ。
別に用事はない。
病気の夕凪の看病を するのに問題はない。
ただ、一つ気になるのは夕凪の病気だ。
症状だけ診ると風邪だと思うのだが、なにぶん夕凪は怪人だ。
変な病気じゃないという保証はない。
「聞いてみるか……」
俺は携帯を取り出すと、電話をかける。
何度かの呼び出し音 の後、電話が繋がる。
『もしもし』
「あっ、フラちゃん?」
『朝霧さん。先日はどうも、ご馳走さまでした』
「いやいや、また飲みに行こう」
電話の相手に、俺はフランクな感じで話し掛ける。
ちなみに電話の相手はフラミンゴ男だ。
フラミンゴ男は丁寧に礼を述べる。
先日、二人で飲みに行き、奢ってやったのだ。
『それで、今日はどうしたんですか?』
「いや、夕凪が熱出したんだよ。それで看病してるんだけど、怪人特有の病気とかあるのかと思って……」
『ありますよ。悪質な病気が。怪人風邪って言うんですけど……』
「怪人風邪……?」
『ええ。放っておくと死に至ります』
「マジ……?」
怪人風邪とか馬鹿げたネーミングとは裏腹の物騒な症状に、俺は思わず聞き返した。
『まあ、24時間以内に投薬すれば問題ありませんけどね』
「何だ、驚かすなよ」
どうやら、悪質な病気だが、薬で簡単に治るようだ。
俺はホッと胸を撫で下ろす。
『ちょっと待ってて下さい』
薬を用意しているのか、フラミンゴ男が電話を持ったまま移動している感じが電話越しに聞こえてくる。
俺はそれを黙って待つ。
『お待たせしました。すみません。ちょっと今切らしてますね』
「え……?」
いや、それってまずいんじゃないか。
俺はフラミンゴ男の言葉に愕然とする。
「ど、どうにかならないのか?」
『材料があれば、すぐにでも出来ます。今から取りに行きましょう』
「ああ、頼む」
俺はフラミンゴ男と待ち合わせをする。
とにかく、後どれ程の時間が残されているかわからない。
急いで薬を用意しなくては……。
俺は看病を任せる為に夜露に電話して待ち合わせの場所に向かった。
「……」
「だーはっはっは!待ち兼ねたぞ!」
待ち合わせ場所に着いた俺は、意外な人物の姿に呆然としてしまう。
高笑いでビシィと指を突き付けてきたのは猫男だ。
「何で、こいつがいるんだ?」
「出掛ける時に見つかっちゃって……」
「付いてきた、と」
まったく……。
面倒になった、と俺は手を額に当てる。
時間がないって言うのに。
「お前は何しにきたんだ?」
「いや、何か面白そうだったから」
「今すぐ帰れ」
「断る」
嫌がらせなのか、猫男は俺の言葉を嬉しそうに断った。
くそっ!
こうなりゃ、猫男は無視しよう。
「それで、何処に向かうんだ?」
「それは……」
フラミンゴ男の言った場所は、とんでもない所だった。
その場所とは……。
「富士の樹海ーーーっ!?」
俺は深い森を目の前にして、思い切り叫んだ。
こんな所に入ったら、帰って来れないじゃないか!?
「それじゃあ行きましょうか」
「大丈夫ですよ。まあ危険はありますけど」
「き、危険あるんだ……」
気楽な感じで樹海に足を踏み入れるフラミンゴ男に、俺は生唾を飲み込んで付いていく。
その時だった。
「そこまでだ!」
「何者だっ!?」
木の上から声が聞こえる。
見上げると、人影がポーズを決めているのが見える。
はっきりと姿は見えないが嫌な予感がした。
「とうっ!正義の味方、カンガリアン……ふぐぅっ!」
木の上から飛び降りて、高らかと名乗るカンガリアンAを、俺はハリセンで思い切りシバき倒した。
放っておくと、面倒になるだけだ。
これで、しばらく大人しいだろう。
「今のうちに行くぞ」
「待てぃ!」
「復活、早っ!」
サッサとこの場を去ろうとした俺の肩を、エースがガシッと掴む。
まったく、面倒になった。
「というか、お前、何でこんな所にいるんだよ?」
「最近、この辺りに怪人が出没するという話を聞いて、待ち伏せしていたんだ」
なるほど。
それで、最近姿を見なかったのか。
俺は納得する。
「そりゃ大変だな。じゃあ、俺達は邪魔にならないようするから」
「ちょっと待て」
「ちっ」
軽く手を挙げ、俺は樹海の奥へと進み始める。
しかし、エースに呼び止められてしまう。
逃走失敗。
俺は舌打ちをする。
「何処へ行く」
こうなっては仕方ない。
これ以上時間をロスしたくない俺は正直に事情を話す事にした。
「なるほど……」
「わかったなら、俺達は行……」
「僕も付いていく」
「……はい?」
唐突な申し出に、俺は意味がわからず、首を傾げる。
「僕が力になってあげるよ」
「何じゃそりゃーーーっ!」
俺の声が樹海の中に響き渡った。




