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暴君くま耳少女  作者: 夜猫
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第11話くま耳と花見

「花見に行くぞ」

起きたばかりの俺に、夕凪が唐突に告げた。

せっかくの休み、俺はのんびりと過ごすつもりだった。

しかし、どうやら、そうもいかないよいだ。

一応、抵抗してみるか。

「却下だ」

「うおっ!抵抗する前に却下された!?」

またもや、心の中を読まれたのか、先手を打たれた。

くそっ!

「サッサと着替えろ」

「とはいえ、何にも用意してないぞ」

「安心しろ。私が全て終わらせている」

「お前が……?」

夕凪が率先して準備するなんて珍しい事もあるもんだ。

言われてみれば、弁当らしき御重がテーブルに置いてある。

「私の手作りだぞ」

俺の視線に気付いたのか、夕凪が自慢気に胸を逸らす。

「よし!行くか」

ここまで準備を終わらせているなら、行かなきゃ損だ。

それに夕凪の手料理にも興味があった。

俺は一つ頷くと、パッパと着替えた。

「それで、何処に花見に行くんだ?」

「もちろん、いつもの公園だ」

いつもの公園とは、俺と夕凪が初めて出会った場所だ。

「この時期多いんじゃないか?」

「ぬかりはない」

この辺りの人間は大概花見は公園でやる。

結構有名な場所だ。

しかし、夕凪は自信満々である。

公園に着くと、やはり人で一杯だ。

今更場所など空いていないだろう。

だけど、夕凪は気にせず、ズンズン進んでいく。

向かったのは、この公園で一番大きな桜の木の元だ。

「ん?」

沢山の人の中、大きな桜の木の下だけ人がいない。

いや、正確には一人だけいる。

見た事あるハゲ頭にうさ耳、そしてメイド服の親父。

生きていたのか猫男。

前回の雪山遭難時に夕凪に殴り飛ばされ、川に流されていたが……。

まさか、猫男に場所取りを頼んだのか?

良く引き受けたな、猫男……。

「遅いぞ、裏切り者!対決は昨日の夜だったはずだ!」

なるほど。

猫男を対決と言って呼び出したようだ。

それを律義に守って、今まで待ってたのか。

憐れな……。

「やかましい!」

「ぐはぁっ!」

怒りの猫男は、夕凪にあっさりと殴り飛ばされた。

あ、あまりにも可哀相過ぎる。

「よし!朝霧、花見を始めるぞ」

「だ、大丈夫か?」

何事も無かったように、夕凪はブルーシートを広げて花見の準備を着々と進める。

俺は横たわる猫男に声を掛けた。

「うぅ……シクシク」

ああっ!

猫男、寝たまま涙を流し始めちまった。

仕方ないか。

昨日から呼び出された挙句、殆ど相手にもされずに殴り飛ばされたら……。

さすがに可哀相だった。

「良かったら、一緒に花見しないか?」

「いいのか!?」

「あ、ああ……」

先程まで涙を流していたとは思えない程、少女のようなキラキラした瞳で俺を見つめてくる。

うっ!

さすがにキモい。

俺は口を押さえ、猫男から視線を逸らした。

「やはり、お前は私が見込んだ男だ!いざ行かんハゲズラブの世界へ」

「だれがハゲだ!」

「おい……」

訳のわからない世界に引き込まれそうになっていると、夕凪が低い声で呼んだ。

視線を送ると、夕凪がジト目で俺を睨み付けている。

「せっかく二人きりの花見を台無しにする気か……?」

「仕方ないだろ。あのままじゃ、可哀相過ぎるし」

「はぁ……」

不満気の夕凪に、俺が説明すると、深々としたため息で返した。

「せっかくの花見だ。他の怪人も呼んだらどうだ?」

「そうしよう」

取りあえず、憐れな猫男を誘ったのはいいが、三人で花見なんて面白くなる気がしない。

俺は猫男に提案した。

という訳で、三十分後、怪人達との花見が始まった。

それぞれ持ち寄った料理やつまみ、そして酒類がシートの上に並べられている。

その中で一際目を引くのが夕凪の持ってきたお重だ。

「おい、勿体ぶらずにそろそろ頼むよ」

「仕方ないな」

なかなか開こうとしないお重に、俺は焦れたように夕凪を急かす。

夕凪はヤレヤレといった感じでお重を開き始めた。

全員の視線がお重に集まる。

「ご開帳」

『……』

蓋を開けた瞬間、誰もが黙っていた。

その場にいる全ての人間が落胆したのが空気でわかる。

何故なら、一番上には納豆が敷き詰められていたからだ。

「夕凪……」

「か、勘違いするな。それは私の分。お前達のは次からだ」

ジト目で睨む俺達に、さすがの夕凪も慌てて言い訳する。

俺は疑いの眼差しを向けながら、一段目を外した。

「おおっ!」

「これは……凄い!」

怪人達から俄かに歓声じみた声があがる。

どうやら、夕凪の話は嘘ではなかったようだ。

二段目には、唐揚げやウインナー等、色とりどりのおかずが詰まっていた。

三段目、四段目も同様に美味そうなおかずが敷き詰められている。

皆の生唾を飲み込む音が聞こえてくる。

『いただきまーす』

お重に群がるように、俺達は次々におかずを口に運ぶ。

俺が食ったのは唐揚げだ。

「美味い……」

予想外とまでは言わないが意外だった。

期待はしていたが実はまずいんじゃないかとも心配していたのだ。

怪人達も俺と同様のようだ。

「夜露も食えよ。なかなか美味いぞ」

「んーん。私は笹の葉があるから」

「お前は立派にパンダしてるんだな」

夕凪にも見習って欲しいものだ、と呟いて俺は煮物を口に運ぶ。

気が付けば、お重は全て空になっていた。

「さて、と……それじゃ、皆で踊るか!」

『おおーーーっ!』

俺の号令に、怪人達は高いテンションで拳を突き上げて応じた。

「ミュージックスタート!」

フラミンゴ男が叫ぶと、綺麗なお花畑に軽快な音楽が鳴り始める。

マイムマイムだ。

俺達は皆で手を繋ぐと輪を作る。

「うふふ」

「あはは」

俺達は楽しそうにキラキラと瞳を輝かせ、音楽に合わせて、輪を小さくしたり大きくしたりする。

それはまるで、寄せては返す波のようで……。

「はっ!」

俺は、一体何をしていたのだろう?

何やら、行ってはいけない場所に行っていたような……。

というか、何が起こったんだ?

「朝霧、食べて、すぐ寝ると牛になるぞ」

「そういう問題じゃない気がする」

「朝霧お兄ちゃん」

「何だ?」

訳がわからずに疑問符を浮べて首を傾げていると、夜露が俺の服を引っ張る。

「姉様の料理を食べると、皆あんな風になるの」

「あんな風って……うおっ!」

夜露が指差す先に視線を送ると、そこには阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。

ある者は真っ青な顔をして泡を吹き、ある者はあらぬ方向を見つめてブツブツと呟いていた。

俺も先程まであんな状態だったのか……。

背筋が凍り付く。

こうして、悪夢のような花見は終わりを告げた。

もう二度と、夕凪の手料理は口にはしまいという、俺の心の誓いと共に……。

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