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005:走る意味を話してる。

 そのあと……、つまり決闘が終わった後はそれはもう大変だった。


 俺の能力アビリティを見た奴らが、その事を詳しく聞こうと雪崩のように俺に押しかかってきて、その場から離脱するのにまたアビリティを使う破目になった。


 さすがに音速を超えた俺を追えた奴はいないらしく、宿屋に帰ってすぐ籠城(?)した。

 幸い、俺の寝床を知ってるのはカークくらいしかいない。

 

 しかし、宿屋のベットに座ろうとした時、今日の昼前に見たのと同じウィンドウが浮かび上がった。


『ユキさん から メッセージを受信しました』


 そのままウィンドウを操作し、中身を確認すると……、


『今どこにいるの? よかったら話を聞かせてほしい。あと、お礼もしたい』


 って書いてあった。ユキさんたちには特に隠す意味もないだろうし、話しても構わないだろうと自分の中で結論ずけ、宿屋の名前と部屋番号を送った。

 でも、三日もあれば俺の噂は〈エターナルロード〉じゅうを駆けまわり、あっという間にアビリティについての説明をせざる終えなくてはならない事になるだろう。出来れば話したくはないが。

 全く……、変な風に目立ってしまったものだ……。

 

 それから五分とかからず、部屋がノックされた。「どうぞー」と軽く返事をして俺は入室を促した。

 バンッ! と大きな音を立ててドアが開かれたと思うと、金色のツインテールをした美少女が俺の所に突撃してきた。そのまま俺の防具のコートの襟を掴み上げ、ガクガクと揺らし始めた。


「ちょっと! アレどういう事!?」


「いやっ……ちょっ……離してくださ……苦し……ぃ……」


「シリル、死んじゃう。イルくん死んじゃうから」


「え? あ、ごめん」


 やっと手を放してくれた。あそこでユキさんが警告していなかったら今頃俺はお陀仏だ。

 ケホケホと軽く咳き込んでから、辺りを見回した(見回すほどの広さも無いが)。


 皆が何処にも座っていなかったので「まずどこかそこらへんに座ってください」と着席を促した。シリルとユゥさんは二つある椅子に座り、ユキさんは俺の座っていたベットの隣に腰かけた。

 ……あの、そこは少々近すぎませんかね……?


 そんな俺の胸の内を他のみんなが知る由もなく、シリルが再び話を切り出した。


「それで、アレな何なの?」


「アレは……アビリティですよ、アビリティ」


「アビリティ? それを持っているなら最初から使えばよかったんじゃない?」


「最初から持っていたわけじゃないんですよ。決闘デュエルの最中に発現したんです」


「デュエルの最中って、イル君が逃げ回ってた時ー?」


「逃げ回ってた時って言うのが何か情けないですけど……そうです」


「で? で? どんなアビリティなの!?」


 目をキラキラと輝かせながら、シリルが椅子の上から身を乗り出さんとばかりにこちらに顔を向ける。


「一つ目が、【万界疾駆】。もう一つが【風迅破嵐】です」


「二つも発現したんだ!」


「? そうですけど、なんか変なんですか?」


「違うよ。アビリティは一つもつだけでも珍しいのに、二つ持つ人なんて片手の指の数にも満たない位しかいないからね」


「へぇー……」


「で? どんな能力なの!?」


「えっと、説明には【万界疾駆】の方が、〈その者は万物の上に立ち、世界を疾駆する。〉で、【風迅破嵐】の方が、〈その者は疾風を纏い、烈風を束ね、嵐となる。〉って書いてあります」


 皆キョトン、と顔を傾げた。たぶん、これだけじゃ意味がよく伝わらなかったのだろう。俺はそのあとにこう続けた。


「簡単に言うと、【万界疾駆】が『何処にでも立てて、その上で走る事のできる能力』です。空気の上に立って空に走ったのがこれです。その次の【風迅破嵐】は『銀色に光る風を纏って、その力で人の限界を超えた速度を出す能力』です。音速を超えるのに使ったのだこっちです」


 ―――正確には、【風迅破嵐】の能力はこれだけでは無い。


「お、音速? そ、それってイルくんが音速を超えて空を飛んでいたってこと……?」


 真横に座ったユキさんが茫然とした様子でこちらに問い掛けてきた。俺はそれに、「正確には飛んだんじゃなくて走ったんですけどね」と答えた。


「じゃ、じゃあスティール吹き飛ばしてたあれは……?」


 今度は椅子に座ったシリルがこれまた茫然としたまま呟いた。これには「あれは、音速を超えたことで出た空気の振動を利用した衝撃波と、アビリティによる銀色の風を利用した攻撃です」と、こう答えておいた。


「イル君すごーい!」


 今度のは茫然とした問いかけではなく、感嘆の声と共にユゥさんが飛んできた。

 言葉のまま、飛んできた。椅子の所からジャンプしたのか知らないが、そのことを認識した瞬間には、ガバッと言う擬音のもと、思いっきり抱きしめられた。


 そして俺は思う。


 ――――――……なんで!?


「ちょっ……むグぅ。ユゥさん! 離れてくださ…………うムぅ……」


 俺のその願いを聞いた様子は無く、「すごいねぇ、すごいねぇ」って言いながら俺の撫でてくる。そりゃ柔らかくて暖かくて気持ちいい事は気持ちいいけれど……、ってそうじゃなくて!


 だが俺の願いは聞き入れてもらえず、結局はその豊満な胸に少しの間埋もれることになった。


「……ぷはっ。はぁ、はぁ、はぁ……」


 やっと解放してもらえた俺は、心臓がやばいくらいバクンバクン言っていて、息も絶え絶えだった。

 そのあとは少しの間、ユキさんとシリルにジト目で見られることとなった。

 そんな仕打ちってないよ……


「参考にスキルの構成を教えてくれない? デュエルの前は“人とは大分違うスキル構成”って言ってたけど本当にそうなの?」


 ジト目状態は解除されたらしく、いつもの状態に戻ってユキさんがそう聞いてきた。ここまで話せばもうそれくらいはいいよなと思い、話すことにした。

 スキル構成は滅多な事では人に話さない。大まかな方向性は話すことはあっても、完璧にさらすことはそれ程ない。


 なんたってこの世界ゲームではスキルが自分の生命線なのだ。やすやすと話すわけにはいかない。何処で誰がそれを聞いているのか分からないのだ。最悪、PKプレイヤーキラーに聞かれたらターゲットにされかねない。


「ええ、いいですよ。俺のスキルは、〈移動速度上昇Lv1、2、3、4、5〉と、〈移動時消費体力減少Lv1、2、3、4、5〉と、〈片手剣〉、〈軽鎧装備〉、〈索敵〉、〈隠蔽〉、〈足技〉です」


 そのあとすぐ「ああ、そうだ。〈移動速度上昇〉と〈移動時消費体力減少〉は全部。それに〈片手剣〉と〈軽鎧装備〉は一応、完全習得マスターしてます」と付け加えた。


「え、ええ!? 移動系スキルに三分の二もスキル欄裂いてるの!?」


「しかも攻撃系のスキルがほとんど無いのね……」


「え? 俺にとってはこれだけあれば十分なんですが、違うんですか?」


回復役ヒーラーとかは別だけど、だいたいは七、八個あるのが普通だよ」


「ともかく、アビリティの発現はたぶんその〈移動速度上昇〉と〈移動時体力減少〉を全て完全習得マスターしたからでしょうね。どうやったらそんなにたくさん完全習得マスターできるわけ?」


 シリルにそう聞かれたので、何時もの過ごし方を答えてみた。


「そうですね……。毎日六時間くらいフィールドを走り込みして、そのあとはダンジョンに籠ってますかね、大体は」


「ろ、六時間!? 毎日そんなに走った後にダンジョンにも籠るの!?」


 こくん、と頷いておいた。ユキさんとシリルは相当驚愕したようだ。ユゥさんは基本的にフィールドには出ないので、そこまでよくわかってないっぽい。


 ……そんなに驚愕するような時間か……? 走っていると時間がすぐ来てしまうから、今一実感がわかない。


「ねえ、聞いていい? 何で攻撃系スキル捨ててまで、移動系スキルを取ったの?」


 ユキさんが真剣な顔でそう聞いてきた。俺は、固まりきってはいない、ただ思っていた事をそのまま答えた。


「そりゃあ……、走りたいからですよ」


「走りたいから?」


「そうです。俺……これは言ってもいいのか分からないんですけど、現実リアルでは足が無いんですよ」


 皆絶句した様子だった。無理もない、いきなりこんな話をされても困るだろう。だが俺は続けた。


「ちょっと事故に巻き込まれちゃいましてね、そのとき足をグシャグシャにされちゃって、しょうがなく切ったんです。足を切った事を知った時はそれはもう大変でした。一ヶ月は放心状態でしたよ」


 苦笑いをしながら続ける俺を見て、三人は何も喋らない。俺は、続ける。


「走る事は唯一の俺の楽しみだ、って言っても過言じゃなかったんです。それくらい俺は走るのが好きで、ずっとずっと走っていたいくらい大好きでした」


 やはり三人は喋らない。俺はさらに続ける。


「でも、走れない、それ以前に立てもしない、って言うのはやっぱり絶望的だったんです。そんな時両親が〈エターナルロード〉持ってきてくれて。それでもう一度走れると聞いた時はすごく喜んでました。……だから、走るためのスキルとって思いきり走ってやろう! と決めてたんです」


 今度の俺は笑って続けた。


「それで、ここで初めて走った時はやっぱり気持がよくて! ここがデスゲームっていうことを忘れるくらいに! ……だから、これが俺の理由です」


 最後はこう続けた。


「まあ、結局はこんなくだらない理由なんですけどね」


 そのあと、俺のそれを聞いて笑った人は一人もいなかった。

 それだけが唯一の救いだ。


 ……言った後、これまでに無いくらい恥ずかしくなってその場から(と言うかその場の空気から)即効離脱しそうになったのは内緒だ。

 



   ◆◆◆



 

「あ、そうだ。一つ聞いてもいいですか?」


 あの変な空気から普通の空気に戻った数分後、俺は気になっていた事を聞いてみた。


「? どうしたの?」


「“特殊ジョブ”って何だか知ってます?」


「え? 逆にどうして知らないの?」


「イルくん。特殊ジョブっていうのは、アビリティを二つ以上発現した人が貰える称号で、アビリティ一つで貰える“ジョブ”の派生版みたいなものなの。特殊ジョブの方は貰えるのが一人だけって言うのも大きな特徴ね」


「有名なところでは《ブルーナイト・ナイツ》のギルドマスターさんとか、《紅海賊団くれないかいぞくだん》のギルドマスターさんとかだよねー。あ、あと私」


「へぇーそうなんですか。……って、え? ユゥさん持ってるんですか!?」


「うん。[創作王(クラフトキング)]って言うの。私、女なのに『キング』とか失礼しちゃうよねー」


「そこは置いておきなさい! 何でそれ言わなかったのっ!?」


「だってゲットしたの昨日だし、あんまり言わない方がいいかなーって」


「じゃあアビリティは?」


「ふっふっふー♪ 秘密ー」


 ユゥさんが楽しそうに笑う。こんな近くに俺と同じ特殊ジョブ持ちがいたとは……気がつかなかった。


「それより、知らなかったのにそんなこと聞くってことはイル君も特殊ジョブゲットしたのー?」


「あ、はい。アビリティと一緒に」


「え? なになに! どういうやつ!?」


「[独走者(ランナー)]って言うのです。まあ、このスキルやアビリティ見れば納得ですよね」


「……うん。確かに納得ね」


「……すごいね。いつの間にかトップレベルのプレイヤーになってる」


「え? トップレベルのプレイヤー? 誰が?」


「イルくんが、だよ。あのスティールを後半からだけど一方的に倒して、しかも特殊ジョブまで手に入れちゃってるしね」


「そんなに言われても、実感が無いですよ」


「ふふっ。今度街に出てみたら嫌というほど分かるよ」


「そんなもんですかねぇ……」


 うーむ……、と考えこむ俺を見て他の三人が笑っていた。そのあとは俺もつられて笑ってしまったが。 

 ……あれ? これは遠まわしに自分で自分の事を笑っているのか? と疑問に思ったが、めんどくさいから考えるのをやめた。


 そのあとは時間も結構たっていたので解散となった。


 帰り際に、何故か知らないけどユキさんが「あ、あのね…………こ、これからは敬語はやめてねっ。あと呼び捨てでいいからっ」って早口で俺に言って、頬を赤くして一番最後に部屋を出ていった……。


 ―――……何ていう出来事があって、一人になった部屋で「これは少し距離が近づいたということかっ!?」と一人ガッツポーズをしたのは男として仕方がないと思う。



 …………そしてあの時のユキさんの―――いや、ユキの可愛いらしさは今まで見てきた物の中で他の追随を許すことなく一番となった。





   ◆◆◆




 ちなみに夕食は、昼飯を食い損ねたおかげで物凄い勢いで腹が減っていたので、カークに食事の宅配を頼んだ。今後二日間くらいは頼むとしよう。

 そのときにカークにユキたち同じ説明をさせられたのは本当に疲れた(その料金として料理代は半額にしてもらった)。


 カークの話では、今は「新たなアビリティが見つかった!」という噂で持ちきりらしい。その上「その使い手は女の子だ!」何て言う噂も流れてるそうだ。


 …………お、おかしい。ちゃんと否定したはずなのに……


 

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