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002:裏・雪から見た疾風。

短いです。



 

 私は今、闇夜に包まれた街の中を歩いていた。


 隣には金髪に碧眼でわたしの胸辺りまでしか伸長の無い、まるで童話の中から飛び出してきたお人形のような可愛らしい美少女がいる。

 彼女の名はシリル。よく二人でダンジョンの攻略などをやったりする、ギルドメンバーであり、信頼できるパートナー。

 

 そのシリルと、今あるお店を探している。 


「もうすぐだと思うんだけど……」


 私は小さな呟きを漏らした。辺りを見回すが、今のところそれらしいものは無い。


「あ、……あれじゃない?」


「え? どれ?」


 隣にいるシリルが指をさした方を見ると、少しボロッとした建物があった。

 その扉の上には、これまたボロッとした看板がある。そこには、簡単に『カーク食堂』とあった。


「うーん……名前はそうだから、そうなのかな?」


「とにかく行ってみればわかるわよ!」


 そう言ってシリルは私の横から走りだしてしまった。私はそれを追うように小さくかけ足をする。そしてすぐに追いつく。追いついた時にはシリルがカラカラと音を立てながら扉を開けているところだった。


「あれ? ここってまだやってるよね?」


「いや、シリル。この時間だし明かりも付いてるんだからやってるんじゃない?」


 扉を開けてからそんな事を問うシリルに、呆れにも似た返事を返すと、店内を見回した。

 中には先客として私たちにこのお店を紹介してくれたユゥと、私の知らない、年齢的には私と同じくらいであろう少女がいた(少女、と呼ぶには少し背が高いかもしれないが、この際気にしない)。


 その少女を見た時、私は思わず息をのんだ。


 光を全て吸い込んでしまいそうな闇色の髪を肩甲骨のあたりまで無造作になびかせ、漆黒の黒曜石をくりぬいてはめたような、妖しげな煌めきを放つ瞳をこちらに向けている。

 その身体は病的にまで細く、そして儚い。触れれば消えてしまいそうな―――そんな存在に、私には感じた。


 その少女にジッと見つめられているのが分かると、不思議と胸がドキンとはねる。

 それが顔に出てしまいそうになったが、何とか抑えておく事が出来た。


「あ、シリルちゃんにユキじゃない。どうしたの?」


 ユゥの疑問に、出来るだけ自然に、胸の内を悟られないように平然と答えた。


「どうしたって、ユゥに勧められたから来たんじゃない。忘れたの?」


「……ユゥ。なんでわたしは“ちゃん”づけなのよ?」


「そうだったね~。すっかり忘れてたよ」


「私の指摘は無視!?」


 いつもと同じやり取りが繰り広げられる中、私に意識はほとんどユゥの隣に座る少女の方に向いていた。

 私は出来るだけさり気無く(本当にさり気無くなっているかどうかはわからないのだが、出来るだけなっているように祈るしか私は出来ない)、話の流れに乗せてユゥに少女の事を聞いた。


「それよりユゥが誰かと食べに来るなんて珍しいのね。紹介してくれると嬉しいな」


「あ、そうだね。こっちは初対面なんだっけ」


 そう言ってユゥは少女の方に向き直り、紹介を始めた。


「こちらはイル君。私の初めてのお客さんにして常連さん」


「いや、ユゥさん本当は『ゲイル』なんだけど…………。ま、いいか。えっと、ゲイルです。よろしくお願いします。まあ、適当に『イル』って呼んでください」


 女の子にしては少しハスキーな声で少女―――イルちゃんは自己紹介をした。

 その時私は、自分がドキドキしている事に混乱していた。


(わ、私って女の子にドキドキするような人だったの―――――っ!?)


 というか心の中で叫んでしまっていた。 


「そしてこっちは《ブルーナイト・ナイツ》所属のシリルちゃんとユキ。いつも贔屓にしてもらってるんだよね~」


「シリルよ。ちゃんづけだけは、ぜっっっったいやめてね! お願いだから!」


「ユキです。呼び方は別になんでもいいけど……、よろしく」


 心の内を悟られないようにと、少しそっけないものになってしまった。


(うわ―――――っ。もしかしてやっちゃたかな!?)


 私はまたも心の中で叫んでいた。何をやってしまったのかは自分でもイマイチわからないが、とにかく私は心の中で叫んでいた。

 自己紹介が終わると、私は早く違う話題にしてしまおうと話し始めた。


「それにしても、ユゥに食事を一緒に食べるほどの仲の友人がいたなんて……。驚きね」


「そうね~ しかも、相当な美少女だし」


「ねぇねぇ、それって何気にひどくない?」

 

 と、そこまで話した時、焦ったような声でイルちゃんが話に入って来た。


「ちょ、ちょっと待ってください。二人とも、もしかして俺のこと女だと思ってるんですか?」


「え? 違うの?」


「女の子じゃないの?」


「ち、違いますよ! 俺は男ですから! 間違えないでください!!」


(う、うそでしょ――――――っ!? こんな可愛い子が男!?)


 私はそれを信じる事が出来なくて、困惑した。

 ためしに何故髪が長いのか聞いてみると、少し困った顔で彼女―――じゃない、彼は「こっ、これは切っていなかったんで……」と言った。このゲームは眼の色とか髪の色とか、髪型とかは変えられるのだから、変えればもう少し誤解を防げたと思うのだけれど……。

 と少し思ったけれど、結局は短くてもそんな女の子だろうと誤解していたはずだと、私は思いなおしていた。


(……でも、よかった)


 私は困惑と同時に、安堵もしていた。

 それはもちろん、自分が女の子にドキドキするような変な人とかじゃないってことがわかった事。

 

 更に私は、もしかして男の子にドキドキしたのなんて、もしかしてこれが初めてなのかな……? と、そんな種類の困惑もしていた。胸がいつもより必要以上に高鳴って、少し苦しいくらい。

 私がそれを表情に出さないように必死に格闘をしていると、店の奥から料理を両手に持った、店主らしき青年が出てきた。


「イルとユゥさんお待ちどう様ー、できたぞー。――――――――って、あれ!? なんでさっきより美少女が二人も増えてんだ!?」


 その青年――店の名前からするとたぶんカークさん(?)はそんな素っ頓狂な声を出して、顔をブンブンと振りながら私とシリルの方を交互に見た。

 私はそんな光景に耐えられなくて、気がつけば笑いだしていた。


「ちょっ……笑ってないで説明してくれよ!」



 そんな時、彼―――イルくんの方を見ると、やんちゃな少年のような笑顔で、やはり彼も笑っていた。

 私はそんな彼を見て、今度は胸が絞め付けられたようにきゅーっとなった。


 苦しいけど―――、嫌では無い感じ。


 むしろ、幸せに浸っているような気分。



 今まで味わった事無いその感覚に酔いしれながらも、私も笑っていた。








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