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001:何時も走ってる。

 俺が今いる世界ゲーム、〈エターナルロード〉はスキル性のゲームだ。

 よくある《レベル》は存在せず、スキルを使用するとその熟練度が上がるだけだ。HPヒットポイントMPマナポイントも基本は変わらない。もし上がるとすれば、スキルによる補正以外の方法を俺は知らない。


 しかし、だからと言って能力値ステータスが無いわけではない。

 隠れているだけで、確かに上昇しているのだ。例えば、〈片手剣〉のスキルの熟練度を上昇させれば、腕力が上がり、〈移動速度上昇〉のスキルの熟練度を上昇させれば、脚力が上がる。そして、〈〇〇魔法〉とかの魔法系だと、魔力や精神力と言ったものが上がる。

 これらは物理攻撃や魔法攻撃の威力、回復魔法の回復量や防御力などに関わってくるのだ。



 そして、そのスキルの習得には二種類の方法がある。


 一つ目は、NPCノンプレイヤーキャラクターに教えてもらう方法だ。これは、NPCが出す〈スキル習得クエスト〉をクリアすることで、習得することができる。


 二つ目は、他のスキルを完全習得マスター(熟練度を1000にする)状態にすることで習得する方法だ。一つのスキルをマスターすれば習得できるスキルもあれば、二つや三つのスキルをマスターしないと習得できないスキルもあるらしい。


 

 また、その他に武器の技術や魔法……などの扱い方もNPCが教えてくれる。その場合はスキルとは違い、“技”と称されている。代表的なものだと、全ての剣の共通の技の《スラッシュ》、火魔法の《ファイアボール》辺りだ。これは、PCプレイヤーキャラクターからも教わることができる。



 それと、出現条件は詳しくは解明されていないが、《アビリィティ》というものがある。これは、スキルとは違い、熟練度は存在しない。持っているだけで効果が発揮されるらしい。

 一番有力な説としては、ある特定のスキルを七つ以上マスターする必要があるそうだ。


  

 スキルは全部で十五個まで習得できる。


 ちなみに俺が習得しているスキルは、移動速度上昇Lv1、移動速度上昇Lv2、移動速度上昇Lv3、移動速度上昇Lv4、移動速度上昇Lv5、移動時消費体力減少Lv1、移動時消費体力減少Lv2、 移動時消費体力減少Lv3、移動時消費体力減少Lv4、移動時消費体力減少Lv5、片手剣、軽鎧装備、索敵、隠蔽、足技の十五個だ。

 

 移動速度上昇Lv1はその名の通り、移動する速度が+100%されるものだ。Lv2も+100%、Lv3も+100%、Lv4も+100%、Lv5も+100%合計+500%も上がる。Lv1を完全習得マスターするとLv2が、Lv2を完全習得マスターするとLv3が、Lv3を完全習得マスターするとLv4が、Lv4を完全習得マスターすればLv5が習得できるので、Lv5以外はすべて完全習得マスターしている。


 移動時消費体力減少Lv1は移動しているときの消費体力を-100%してくれるスキルだ。これも移動速度上昇と同じく、合計で-500%。そしてLv5以外は完全習得マスターしている。



 片手剣と軽鎧装備は、一応完全習得(マスター)している。索敵、隠蔽のスキルも900終盤までいっている。しかし、移動速度上昇、移動時消費体力減少がLv3になった時に習得した足技に関してはあまり力を入れて育てていなかったので(と言うかほとんど育てていなかったので)、熟練度は100とちょっとで止まっている。これもがんばった方だ。

 こんなに遅いのは俺だけかもしれない。最近はカンスト(スキルを全て完全習得マスターすること)したやつもいると噂で聞いたことがある。俺も少しがんばるべきかもしれない。


 

 そして今、俺は日課の走りこみのために始まりの町〈ユーレシア〉の外れに来ている。


 この走りこみは、スキルの移動速度上昇と移動時消費体力減少の熟練度をあげるのに最も効果的なので、毎日五~六時間ほど周辺のフィールドを全速力で走りまわっているのだ。

 五~六時間も全速力のノンストップで走るなど現実ではまず不可能だろうが、スキルのおかげで特に息切れを起こすこと無くこなすことができる。



 そんなわけで俺の走りこみがスタートする。




   ◆◆◆




 六時間たったので今日の走りこみを終わりにする。


 スキルウィンドウを確認すると、移動速度上昇Lv5、移動時消費体力減少Lv5ともに熟練度が998から999になっていた。完全習得マスターまであと熟練度1。推測だが、明後日かその次くらいには完全習得マスターできることだろう。  

 

 走り込みが終わると大体3時くらいで、昼も抜いているため、胃が空腹を訴えている。


 不思議なことだが、この世界にも食事がある。睡眠も必要だ。(幸いなことに〈?〉排泄は必要ない)これもこの仮想世界ゲーム現実世界リアルに近づけるための仕様なのかも知れない。


 ともかく、あまりの空腹に死にそうだったので、友人の運営する行きつけの店へと足を動かし始めた。





   ◆◆◆




「お、やっと来たのかイル」


「おう。カーク、いつもの頼む」


「あいよー」


 こいつの名はカーク。

 身長は俺より少し高い中肉中背の青年。短い茶髪をツンツンと立たせてるのが特徴だ。

 カークとは初期の頃、パーティーを組んで狩りををしたことがあるのだが、その途中、唐突にカイルが「料理がしたい」とか言い出して今に至る。今ではすっかり俺も常連客だ。


 俺の名前は本当は『ゲイル』なのだが、親しい奴はだいたい俺のことを『イル』と呼ぶ。あまり変える意味がないと思うのは俺だけか? ちなみにこの名前は、現実の俺の名前、『ハヤテ』から適当に連想してつけた名前だ。

 

「おまたせ」


「やっとできたかっ」


 俺は差し出されたパンとスープ、付け合わせのサラダの乗ったトレーを受け取ると、それと交換するようにアイテムウィンドウから実体化させておいた700Gを差し出した。


「まいどありー。今日も夜来るのか?」


「おう、たぶんいつもより少し遅くなるかな」


「あいよ、んじゃ少し残しておくから絶対来いよ」


「わかった。ありがとう」


「これ位はいいってことよ」


 カークの心づかいに感謝しつつ、俺は今にも腹と背中がくっつきそうだったので、一度椅子に座りなおしてから、「いただきますっ」と一声あげて、がつがつとパンやスープを食べ始めた。


「それにしても、いつみてもいい食べっぷりだよなぁ…… 作る側としてはこれほど嬉しいことはねぇや」


「ふぉおか? ふぉれおいひいひ、みんあふぉんなんじゃふぁいのか?」


「口に物入れたまましゃべんな。何言ってるかわからんだろうが」


「…モシャモシャ………ゴクリ。そうか? これおいしいし、皆こんなんじゃないのか?」


「さすがにイルほどうまそうには食ってくれねぇよ」


「そういうもんか?」


「そういうもんだ」


 そういうもんなのだろうか? カークの料理は最初こそ不味かったが、今は一流レストランでも働けそうな腕前だと思う。正直、700Gじゃ足りない気がする。

 

「ごちそうさま。それじゃ、また夜に」


「おう、死なねぇで絶対来いよ。食材が無駄になるからな」


 軽口を叩いているものの、カークの表情は真剣そのものだった。こっちの身を心配してくれているのが分かって少し嬉しくなった。


「おう、また夜にお前の飯食いに来るから待っとけよ」


 そう言葉を残して、俺は屋台を後にした。



   ◆◆◆



 俺は今、走っている。


 走り込みではなく、移動のためだ。本来、街にはゲートクリスタルと呼ばれるワープ装置があるので、走って移動するのは大概はフィールドの中だけなのだが、俺は熟練度を上げるために街と街の間の移動も走りで行っている。大概のフィールドなら一分か二分くらいで駆け抜けられるので、それほど時間は掛からない。


 そんなことを考えている間に目的地に到着。



 ここはダンジョン【骨鬼の神殿】。



 このダンジョンが見つかった当初は新ダンジョンとして人でごった返していたのだが、ここにいる骨鬼系のモンスター(角の生えた血のような色の真っ赤な骸骨)は、それなりに稼げるが、それ以上に一体一体がプレイヤー並みのAIを持っていてすこぶる強いため割に合わない(PTを組んでいないとき限定で、戦うほどに少しづつ強くなるから、尚たちが悪い。しかも、ダンジョンを出たところで最初から(リセット)にならず続きから(コンテニュー)になるのだから、もう地獄と言っていいかもしれない)、という理由で今ここは人がまったくいない。

 

 ソロ専門の、出来るだけ人と関わりたくない俺にとって、まことに都合のいい場所だった。


 何故俺が人と関わるのを避けようとするのかというと、ただ嫌な種類の人間と出くわしたくないからだ。特に対人恐怖症とか、そういう訳でもない。



 ―――とにかく、俺はアレみたいな“出来事ナンパ”に遭いたくないのだ。




 どこに光源体があるのか謎だが、禍々しく輝く神殿の通路を数歩進んだだけで、最初のモンスター〈剣骨鬼〉がニ体姿を現す。〈剣骨鬼〉は文字通り普通の〈骨鬼〉が両手剣をもった奴で、意外と強い。ニ体相手となると最初の方はそれなりにキツかったが、今はなれたので特に問題は無い。

 

 さあ、今日の戦闘の幕開けだ。


 


   ◆◆◆




「あぁー……疲れた……」


「おつかれさん。ほら出来たぞ」


「おぉ!」


 俺はダンジョンでの戦闘を終え、再びカークの店に戻ってきている。周りにある他の店も随分と賑わってきたみたいだ。昼飯のときは時間が外れていたのであまり人がいなかったが。


 俺はカークに出された『いつもの・夜バージョン』を受け取り、1200Gを渡す。

 受け取ったトレイの上には狂い牛のステーキと材料はよく知らないポテトフライとサラダ、それに大盛りの白米だ(本当に白米かは知らない。見た目と味は白米のはず)。


 戦闘の疲れに参っていた俺は、その料理を見た時には「いただきますっ」と声を上げ、喰らいつき始めていた。




   ◆◆◆




「ふぅ……食った食った」


「ほんとよく食うよな、お前」


「ま、一日中走ったり戦ったりしてるから腹も減るんだろ」


「そうなんか。……最近は料理ばっかだからなぁ…… あとで狩りにでも出かけるかな」


「ふーん、どうでもいいが、死ぬなよ? 俺の―――――」


「死なねぇよ」


「―――――食糧」


「ちょっと待て、なぜ俺が食糧なんだ!?」


「別にお前を食うとは言ってないだろ」


「いや、まあそうか……」


「ま、いざとなったらお前でも食うけどな」


「怖えぇよ!」


 こいつのツッコミは今一なのだが、なにも反応がないよりはいい。

 ついついこんなやり取りが繰り広げてしまう。


 …………少し控えるべきか?




   ◆◆◆




「そんじゃ帰るよ。またな」


「おうよ、また来いよ~」


 カークと短い別れのあいさつを交わし、店を出た。

 宿屋に帰ろうと足を動かし始めるのだが、ふとそこで足を止め、空を仰いだ。

 そこには現実の世界なんかよりも広い気がする闇と、いつまでも煌びやかに輝く星々があった。



「………本当にここはゲームなのか?」



 俺は不意に頭をかすめた疑問を夜空にぶつけてみた。



 もちろん、闇色に輝く空からの返事はない。




 俺のその言葉はただただ夜空に溶けていった………








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