000:プロローグ
あらすじにも書きましたが、この作品を読む上で注意です。
※文才は基本皆無。ご都合主義・矛盾点あります。他作品の影響を受けているところがあります。だいぶ前に暇つぶしに書いていたものですので、酷評はできれば控えて欲しいです。心が弱いので。
※この作品は、ある意味『と、いうかただの走りたがり』のプロトタイプです。若干の用語や設定にカブリがある可能性がありますが、それについてはご了承ください。
※受験勉強が佳境に差し掛かり、『と、いうかただの走りたがり』の更新が難しくなったので、代わりと言ってはなんですがコチラを投稿します。――しかし、唐突に終わる可能性あり。
――――こんなものでも構わないよ、という寛大な心をもっている方でしたら、どうぞお進みください――――。
窓から入る朝日が俺を照らしている。
まだ重たい瞼を開き、部屋の中を見渡す。
そこあるのは長年過ごしてきたモノトーンで固められた俺の部屋……ではなく、始まりの街〈ユーレシア〉にある宿屋の一室。二年もの間、使い続けている部屋だ。
こんな状況になっているのは、あの日、あの忌々しい出来事が起こったからだ。
その、出来事とは………
◆◆◆
「ああ、やっぱりそうだよな……」
俺は両側から迫りくる二つの巨大な鉄の塊を見てそう呟いていた。
ここ一カ月は幸福すぎた。この世に生れて十五年、ずっと不幸体質だったのに、二週間前から不幸と呼べる出来事は激減し、代わりに幸福な出来事が水が湧き出るように現れ始めた。
最初の一週間くらいは歓喜乱舞したものだ。いつもいつも悩まされ続けたあのよくわからない嫌がらせも、意味のわからない男子からの告白もその期間だけはなぜか無かった。だが、時間が経つにつれ、俺はこの状況を疑うようになった。
――――――これはもうすぐ起きる人生最大の不幸の前兆なのでは、と。
その予想は当たっていた。
それは友人の家への道を、ランニングがてら走っていた時。
俺の目の前を白と黒のサッカーボールと、五歳くらいの小さな男の子が横切った。
その男の子はその体躯に対して大きすぎるサッカーボールを追いかけ、真っ赤な信号が光る横断歩道の中央へと走っていった。
そこへ、男の子に体当たりするためだけに生れ出たかのように、黒々と鈍い輝きを放つ乗用車が飛び出してきた。ここから見るに、その車を運転している男は、顔全体が真っ赤に染まっており、表情もだらしなく崩れている。たぶん……いや、確実に飲酒運転だど思う。
それを見ていたまわりの大人たちは、悲鳴こそあげるが、誰も助けようとはしない。男の子も動けない。まだ十分に助けられる距離にいるというのに。
そこまで考えた時、俺の体はもう、勝手に動き出していた。
今出せる最高速度で走り、男の子のところにたどりついたときには、目測約二メートルまで迫ってきている黒い乗用車から逃がすように、俺は男の子を軽く突き飛ばした。
その作業の途中、にわかに信じたくない光景を視界の端で目撃してしまった。その光景とは、『居眠りしたおっさんが思い切りハンドルにつっぷしながら運転するトラックが、ものすごい速さで黒い乗用車の反対側からこちらに向かってくる』……そういうものだった。
正直、たった二週間の幸福の反動がここまでだとは思わなかった。
……が、覚悟をしていなかったわけでもない。
俺はため息とともに、この大きすぎる不幸を受け止めることを決めた。
人生に悔いがない……、と言えば嘘になる。
俺は走るのが好きだった。全力で走るときの爽快さが、体を包む風が、たまらなく好きだった。体力が続くのなら、一生走り続けていたい、これからもずっと走り続けたい、そう思っていた。
……だけどきっとこれからも不幸な出来事が続いていくはず……。そんな人生はつまらないに決まっている。だから、もういい。終わりにしたい。
ここまで考えて、俺は何時の間にか自分の人生に絶望していた事を初めて知った。
俺は両側から迫りくる二つの巨大な鉄の塊を見て、それを受け止めるかのごとく瞳を閉じた。
その刹那、たくさんの悲鳴と、轟音。その音とともに体を激痛が駆け巡る。だが、その激痛も感覚のスイッチを切ったかのようにすぐ消えた。俺はそこで意識が無に消えるのを感じた。
◇◇◇
俺はゆっくりと、弱々しく、瞼を押し上げた。
視界に映るのは眩過ぎる真っ白な照明と、テレビでしか見たことのない手術衣を身に纏ったたくさんの人々。
体は……、動かない。それ以前に感覚がない。
微かに機能が残っていた嗅覚は、薬と血の匂いを認識した時点でその機能を失った。
聴覚は、人々の会話を、途切れ途切れながらにも何とか聴き取った。
「……足…………切………了し……」
「………次…………業……移る…………」
それだけ聞いた後、俺の意識は再び闇へと沈んでいった。
◇◇◇
俺は唐突に覚醒する。
視線の先には青白い光を放つ蛍光灯。
鼻孔を撫でるのは薬と汗の匂い。
耳が聞き取ったのは時計の秒針の音。
口の中は強烈な渇きに満ちている。
体の感覚がある。……なのに、太股の途中あたりから感覚だけが無い。
俺は力の上手く入らない体を無理矢理起こす。
見渡すと真っ白な病室。今俺が寝ているベットに視線を落とす。そこには、有るはずのものが無い状態で俺に掛けられている薄手の掛け布団。
「う…そ……だ、ろ?」
俺は恐る恐る、震える手で、掛けてある布団とはぎ取る。
――――――そこに足と呼べるものは存在しなかった。
「ぅうぁ………あ…あ……あ、あ……ああ…あアアあああああぁぁアぁぁァぁァァぁぁァぁぁァぁ…ァぁぁぁァぁァァアああアぁああアアぁアぁぁああアァァぁァ……ああ…ぁ、あ、ぁ、あぁぁああ、あァァアあ……ぁあぁぁ……ぁ、あ、あ、あ…あぁ………」
そのまま俺は、覚醒に気がついた看護師が来るまで、呻き、叫んでいた。
◇◇◇
それから一ヶ月の間、俺はずっとそんな感じだった。
真っ白な病室で一ヶ月を過ごし、徐々に落ち着きを取り戻した後、医者に詳しいことを聞き、絶句した。
俺は乗用車とトラックに挟まれるように轢かれたが、奇跡的に、―――それこそ有り得ない位に―――一命を取り留めることが出来たらしい。だが、轢かれた際に両足は完全に潰され、原形をとどめていなかった。仕方がなく両足を切断。手術は成功したが、俺はそのまま寝ざめることなく丁度半年。ずっとずっと、眠っていたそうだ。
―――――まったく、笑えない。
これでもう俺は走れない。それはおろか歩くことも、立つことも出来ない。
これならずっと目覚めない方が良かった。死んだ方が良かった。
それからの俺は見ていられないようだった……と思う。
俺からみれば世界はすべて色あせ、視界に移るのはすべて灰色に見えた気がした。
何をすることもなく、ただただ無感動に日々を過ごしていた。必要な食事や検査などだけをする生活。ただ、それだけ。
そんな日々を送っていたある日、俺の病室に父さんと母さんがあるものを持ってきた。
見たこともない、中世の兜を現代の機械でアレンジしたかのようなもの。それと知らないゲームソフトのパッケージ。
俺は特に興味を示すことなく、話し続ける父さんと母さんの言葉を聞き流すように耳を傾けていた。
そのとき、
「―――――――――ここならまた走れる」
そんな言葉を聞いて気がして、あわてて再び説明してくれと懇願した。
俺は話をすべて聞き終わったとき、目覚めてから初めて心の底から喜んだ。
あの兜の様な機械は〈ワールド・ダイバー〉と言うらしい。
俺が眠っていた一年と一ヶ月の間に開発されたもので、今まで俺たちが使っていた機械たちとは根本的な部分で違うそうだ。
〈ワールド・ダイバー〉はその形状どおり頭にかぶり、内側から発せられる信号で脳と直接接続し、本来体の器官が受け取るであろう視覚や聴覚、触覚などを外部から完全にシャットアウトし、〈ワールド・ダイバー〉が直接脳の視覚野や聴覚野、触覚野などへ情報を送り、電脳空間へと……〈仮想世界〉へと脳をつなげる。
……これは今の俺に最高の物だった。現実世界に足は無くとも、仮想世界になら存在する。だから、走れる。
持っていたゲームの名前は〈エターナルロード〉というらしい。
父さんによれば、今日発売されたVRMMORPGというジャンルのゲームで、まさに第二の現実と呼ぶにふさわしい圧倒的なグラフィックと、自由なキャラクリエイトが売りのゲームだそうだ。
どうせやるなら楽しいを方がいいだろう。ということでこれを買ってきてくれたらしい。
俺は目覚めてから初めて父さんと母さんに礼を言ったと思う。灰色に霞んだ視界も、鮮やかな色を取り戻していくようだった。
正式なサービスの開始は二日後の正午かららしい。そう聞いた俺は、嬉々とした表情でゲームについていた説明書を読み、〈エターナルロード〉についての情報をインターネットで検索し、時間を過ごしていった………。
◇◇◇
そしてついに、この時が来た。
今の時間は昼の11時59分。
〈エターナルロード〉のサービス開始まであと一分。
俺は〈ワールド・ダイバー〉を頭に装着したまま、病室のベットに寝転がっている。
〈エターナルロード〉についての知識はばっちりだ。これなら最初のチュートリアルも早急にこなすことができるだろう。その理由はもちろん、早く走り回りたいから。
PiPiPiPiPiPiPiPi
12時を告げるアラーム。
俺はそれを聞くと同時に、「《ワールドリンク》!」と声を上げた。
突如襲ってくる暗闇に意識を乗せ、俺は仮想世界へと旅立った。
◇◇◇
キャラクターの名前や外見、などをさっさと決め、俺は〈エターナルロード〉の世界へと降り立った。
その感想は………俺の予想を超えていた。
インターネットには、仮想世界には独特のカクカクとしたポリゴンの様な感じが少なからず残る、と書いてあったのだが、ここにはそんなもの存在しなかった。
そこにあるのは完全な四肢を備えた体。
俺が最も望んだものが、そこにあった。
「………足が、あるっ!!」
周りには俺と同じチュートリアルを受けている人がたくさんいたが、構わず俺は屈みこみ、自分の足をさすった。
―――ふと、そこであることに気がついた。
俺が今さすっている足は、手術で切断される前の俺の足だ。俺が決めた、この世界での足じゃない。
そこまで考えた時、チュートリアルを受けるために来た〈小さな小さな森の小屋〉の窓に、俺の顔が写っているのが目に入った。
―――……そこには、キャラメイクで設定した爽やかな顔立ちを持つ青年の顔ではなく、黒瞳の、寝たきり生活故肩甲骨あたりまで伸びてしまっている黒髪の、―――要は現実世界で事故に会う前には街に出れば必ず女の子に間違えられる相当な女顔があった。
そこに写る体も、設定した、細身ながらもがっしりとした印象を持つ体ではなく、長い寝たきり生活故の、スラリと細い現実世界の俺の身体があった。
「……え? なん、で……?」
その声と俺の様子を見ていた周りの人たちが今の状況をようやく理解したらしく、がやがやと騒ぎ始めた。
「なんだこれ!?」
「あれっ? これ、わたし?」
「どうなってるんだ!?」
「おい! ゲームマスター! 返事しろ!」
誰かがそう叫んだ時、俺を含む人々の目の前にシステムウィンドウが表れた。そこには……、
『皆さん、こんにちは。
ここで一つお知らせです。このゲームはもはやゲームではありません。ここはもう一つの現実です。
その証拠が皆さんのその姿。このゲームはもう一つの現実ゆえにログアウトできません。死亡すれば復活することはないでしょう。
もしもこのゲームから出たいのでしたら〈グランドクエスト〉を達成してください。それがログアウトの条件です。
御健闘を祈ります』
そのあまりにも簡素で理不尽な言葉を見た時、何が何だか分からなくなった。周りは叫びに、嘆きに、怒号に、罵声に、懇願に、満ちている。
だが、その中にもわかったことが一つある。
『ログアウトできない』これはつまり、ゲームの中で生活するということだろうか? しかし、俺はそれでもいいと思った。――――――どうせあっちの世界には足がないのだから。
徐々に整理がついてきた時『死亡しても復活しない』という言葉が深く胸に刺さった気がした。その言葉が、このゲームを一つの現実にしているのだと確信する。
そこから俺の……いや、五万人もいる〈エターナルロード〉の全プレイヤーのよるデスゲームが幕を開いた。
◆◆◆
今俺が座っているのは、ずっと使っていた宿屋のベット。
あのデスゲームが始まってから一ヶ月で一万人弱が死んだ。やはり説明どうり復活することはなく、始まりの町〈ユーレシア〉の教会に数ある十字架の一つ一つに、名前が刻まれただけだった。
だが人間とはこんな特異な環境でも慣れてゆくものだ。本当、恐ろしい。
それから死者は数を減らし、さらに一ヶ月経つ頃には死者もほとんど出なくなった。
通常のクエストも少しづつではあるがクリアされていき、グランドクエストも攻略が始まった。
そして今の〈エターナルロード〉……、それは生存者約三万五千人、攻略は一時的に停滞中と言うところだった。