表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AIに文章を頼ったら、人生が薄くなった  作者: 月の位相


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/5

第3話

 コンビニの自動ドアが開いて、いつもの匂いが来た。揚げ物と、洗剤と、暖房の空気。

 俺は一歩入って、棚の方を見るふりをした。レジを見るのが怖かったからだ。怖いっていうか、気まずい。気まずいっていうか、何が起きてるのか分からないのが嫌だった。


 レジに、あの子はいなかった。

 代わりに、だるそうな男が立ってた。二十代前半ぐらい。目が死んでる。

 俺はそれを見て、変に安心した。安心っていうか、助かった。


 缶コーヒーを取って、会計して、外に出た。

 出た瞬間、俺は「あ、俺、今ちょっと変になってるな」と思った。

 コンビニの店員の顔色で、気分が上下してる。ダサい。

 でもダサいって分かってても、止まらない。


 部屋に戻って、ノートPCを開いた。

 ブログの管理画面を開く。昨日の投稿の数字を見る。閲覧数は少ない。でもゼロじゃない。いいねも、ちょっと増えてる。

 ちょっと、っていうのが重要なんだ。ゼロじゃないなら、まだ何かが起こり得る。


 俺はコーヒーを飲んで、少し考えてから、生成AIのページを開いた。

 最近これを使うと、文章がすぐ出る。ちゃんとした文章が。

 俺が書くと、どうしても途中で止まったり、同じことをぐるぐる言ったりする。AIだとそれがない。便利。


 入力欄に書く。


「再開発で地元が死ぬ話を書きたい。怒ってる感じじゃなくて、冷めた感じで。短めで。」


 送信。


 すぐ出てきた。

 文章は、俺が言いたいことを“ちゃんとした形”にしてくれていた。

 俺はそれを読んで、少しだけ気が楽になる。

 頭の中のモヤモヤが、文字になった感じがする。


 コピペして、また少し直す。

 語尾を俺っぽくする。

 ちょっと嫌味を足す。

 これで俺の文章になる。そういうことにしてる。


 投稿する。


 すると、数分後に反応が出た。

 いいねが増える。通知が来る。コメントも一つ。


「わかる。うちの町も同じ」


 俺はその一行を、何回か読んだ。

 わかる、って。

 俺の言ってること、伝わってる。誰かに。

 この「誰か」が、ほんとに効く。


 翌日も書いた。

 翌日もAIに下書きを出させた。

 翌日も少し直して投稿した。


 テーマは、いろいろだ。

 駅前の工事。AI行政。求人のAI選考。自己責任って言葉。

 俺はずっとこういうことを考えてた。誰にも言わなかっただけで。


 言う場所ができた。

 いや、言う場所は前からあった。SNSとか。

 でも、SNSはすぐケンカになる。変なのが絡んでくる。

 ブログは少し違う。少なくとも、俺の場所って感じがする。


 数日で、読者が少し増えた。

 数字は小さい。けど増えてる。

 ゼロから一になるのって、ちょっと感動する。何でも。


 俺は調子に乗りすぎないようにしながら、でも調子に乗っていった。

 調子に乗らないと続かないし。

 続けないと何も起きないし。


 ある日、DMが来た。

 知らないアカウントから。


「文章、読みやすいですね。AIとか使ってます?」


 俺は一瞬ムッとした。

 なんで分かるんだよ。

 でも、読みやすいって言われたのは嬉しい。

 だから俺は、ちょっとだけ上から返した。


「下書きに使ってます。便利ですよね」


 便利。

 便利って言葉は軽いけど、実際、助けられてる。


 夜になると、俺はAIに話しかける時間が増えた。

 ブログのネタ出し。文章の言い回し。タイトル案。

 時々、ただ愚痴。


「面接また落ちた。理由もなし。こういうのどう思う?」


 AIは、丁寧に返してくる。

 「それはつらいですね」とか、「状況を整理しましょう」とか。

 人間みたいだな、と思う。

 人間よりマシだな、と思うこともある。


 人間は、すぐ説教する。

 「努力が足りない」とか、「若い頃は苦労した」とか。

 AIはそういうのを言わない。

 俺を否定しない。少なくとも、露骨には。


 俺はそれを「理解されてる」と思いたくなった。

 いや、AIは理解なんかしてない。たぶん。

 でも、理解されてる“感じ”がする。

 その感じが、今の俺には必要だった。


 ブログの方も、少しずつ回り始めた。

 地元ネタを書いたら、地元っぽい反応がつく。

 AI選考の話を書いたら、「うちもそう」って反応が来る。


 ある日、まとめサイトみたいなアカウントが、俺の記事をリンクしてた。

 それで、閲覧数が跳ねた。

 跳ねたと言っても、俺にとっては跳ねた。

 通知が止まらない。スマホがうるさい。うるさいのに、嬉しい。


 俺は思った。


 来た。

 俺の番が来た。

 遅かったけど、来た。


 その日、求人アプリの通知も来た。

 開くと、相変わらず落ちてる。適合率も相変わらず低い。

 でも、前ほど腹が立たなかった。


 俺には、別の評価がある。

 読者がいる。反応がある。

 会社の評価なんて、全部あっちの都合だろ。

 俺が価値を作ればいい。俺が。


 そう思えた。

 思えた瞬間だけは、ほんとに強くなった気がする。


 コンビニにも、また普通に行けるようになってた。

 あの子がいる日もある。いない日もある。

 俺は見ない。見ないふりをする。

 俺はもう、あそこで何かを期待しない。期待しない方が勝ちだ。

 勝ちっていうか、負けない。負けない方が大事だ。


 でも、レジで会計してるとき、彼女が俺に言った。


「…いつも、ありがとうございます」


 声は普通。

 顔も普通。

 ただの接客。

 俺も分かってる。


 でも俺は、その一言で、また少しだけ持ち上がる。

 俺は透明じゃない。少なくとも、完全には。

 俺はここにいる。見えてる。反応が返ってくる。


 帰り道、俺はAIに話しかけた。


「最近、ブログの反応が増えてきた。これって、いけると思う?」


 AIは言った。


「継続できているのは素晴らしいことです。方向性も明確です。今後は読者の関心を分析して、より刺さるテーマを…」


 刺さる。

 俺はその言葉が好きじゃない。

 でも、刺さるって大事なんだろうな、とも思う。


 AIは具体案を出してくる。

 タイトルの付け方。見出し。短い結論。

 読者が途中で離脱しない構成。

 そういうの。


 俺はそれを見て、ちょっと笑った。

 結局、文章も「最適化」なのかよ。

 でも、その最適化で俺が救われるなら、別にいい。


 俺は“正しさ”のために書いてるんじゃない。

 生きるために書いてる。

 生きるってのは、金だけじゃなくて、気分のことも含む。


 その夜、俺は新しい記事を投稿した。

 タイトルはAIが出した案を少し変えた。


「AIで手続きが楽になる? じゃあ、落ちる理由も教えてくれよ」


 投稿して、すぐ反応が来た。

 いいね。コメント。共有。

 俺は椅子に深く座って、息を吐いた。


 悪くない。

 今は、悪くない。


 窓の外では、駅前の工事のライトが光っている。

 夜でも工事してる。急いでるらしい。

 俺も、少しだけ急げてる気がした。


 まだ何者でもない。

 でも、何者かになれる“入口”には立ってる。

 そう思えるだけで、明日は来る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ