表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
AIに文章を頼ったら、人生が薄くなった  作者: 月の位相


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/5

第1話

 駅前の工事、まだやってる。ずっとやってる。フェンスの絵だけは立派で、ガラスの高いビルが青空に刺さってる。実物は土と鉄骨と、なんかよく分からん配線。空は曇ってる。寒い。


 ベンチに座ってスマホを見る。求人アプリ。昨日も見たやつ。今日も見る。落ちた通知が並んでる。


「選考の結果、ご希望に添えませんでした」

「理由はお伝えできません」


 理由を言わないのは、ずるいと思う。

 俺が悪いのか、会社が悪いのか、AIが悪いのか、分からない。分からないまま「終わり」だけ置いていく。腹が立つけど、文句を言う場所がない。


 右上の数字が出てる。


「適合率 43%」


 何に適合しろってんだよ。

 でも、その数字を見ると、ちょっとだけ「点数つけられてる」感じがする。点数つけられてるってことは、まだ“試合中”ってことだ。終わってない。俺の中では。


 高校生が横を通って、イヤホンの音が漏れてた。うるさいけど、言わない。俺はもう、そういうことで喧嘩する年じゃない。喧嘩しても勝てないし。


 SNSの通知が来る。つい開いちゃう。昨夜、予約投稿したやつが流れてる。


「努力すれば報われるって言う人、だいたい運が良いだけ。

社会は才能と運とコネで回ってる」


 まあ、これは事実だと思う。誰だって薄々分かってる。口にしないだけだ。


 でも反応は少ない。いいね数は小さい。見てるやつ、いるのか?

 引用が一件ついてた。


「被害者意識すごい」


 ムカつく。

 だけど返信はしない。返信したら、相手の土俵に乗る。相手はたぶん暇なんだろう。俺は暇じゃない。暇だけど。いや、暇じゃないってことにしておく。


 時計を見る。十時すぎ。

 今日は面接はない。何もない。だからこそ、何かしないといけない気がする。何もしないと、一日がそのまま終わってしまう。終わると、怖い。終わると、何も残らない。


 とりあえずコンビニに行く。駅前のいつもの店。自動ドアが開いて、暖かい空気と揚げ物の匂いが来る。あれ、食べたくなる匂いだよな。買わないけど。


「いらっしゃいませー」


 レジに若い女の店員がいる。名札。髪まとめてる。疲れてる顔はしてない。無表情ってほどでもない。普通の顔。俺に向けて笑ってるというより、誰にでもやってる顔。


 缶コーヒーと菓子パンを取る。安いやつ。

 レジに並ぶ。前の客が電子マネーでモタモタしてる。俺は見ないふりをする。急いでない。急いでないけど、こういうのを見ると、自分が「待つ側」な感じがして嫌だ。


「ポイントカードはお持ちですか?」


「いや、いいです」


 俺はポイントとか、あんまりやらない。

 やると「この店の客」って感じになる。別に俺は客なんだけど、なんか嫌なんだよ。言葉にするとくだらないけど、嫌なものは嫌。


 会計が終わって袋を渡される。

「ありがとうございましたー」

 声は軽い。俺に向けて軽いというより、レジの仕事として軽い。


 外に出る。寒い。缶コーヒーを開けて飲む。苦い。これは分かる。数字じゃない。43%でも41%でもない。苦いのは苦い。


 帰り道、駅前のモニターで市の宣伝が流れてた。


「手続きはAIで簡単に。窓口に並ぶ必要はありません」


 窓口に並ばなくていい。

 つまり、窓口で「すみません、これってどういう意味ですか」って聞く場所がないってことだ。

 AIって言えば聞こえはいいけど、実際は「人がいなくなる」ってだけだろ。


 アパートに戻る。古い。階段の鉄が冷たい。郵便受けはチラシがたまってる。買取とか、投資セミナーとか、英会話とか。みんな景気がいい。俺のところに来るのは紙だけだ。


 部屋は寒い。暖房をつけるのがもったいない気がして、そのままにする。

 ノートPCを開く。ニュースとトレンドが並ぶ。何が流行ってるとか、誰が炎上したとか。みんな忙しいなと思う。いや、みんな暇だから見てるのか。


 ブログの管理画面を開く。タイトルが空欄。本文も空欄。

 書こうと思えば書ける。でも、書いたところで誰が読むんだ、って気持ちが邪魔をする。読まれないと意味がないわけじゃない。ないけど、読まれないと、俺は何をしてるんだってなる。


 そこで、別タブを開く。生成AI。

 最近これを使うと、文章がすぐ出てくる。便利だ。便利すぎて少し怖いけど、便利は便利。


 入力欄に打つ。


「地方都市の再開発とAI行政について、ちょっと皮肉っぽい文章書いて。堅すぎないやつ。」


 送信。


 すぐ文章が出てくる。読みやすい。ちゃんとしてる。

 俺が言いたいことに近い。

 だから、俺は「やっぱり俺は間違ってない」と思える。AIがそう言ってくれた気がする。実際は言ってないんだろうけど。


 文章をコピペして、少しだけ手直しする。語尾を変える。余計な丁寧語を削る。自分の言葉っぽくする。

 これで俺の文章になる。そういうことにしてる。


 投稿ボタンの上で、手が止まる。

 また求人アプリの通知が来た。


「選考結果のお知らせ」

「適合率 41%」

「見送り」


 またかよ。

 43が41になってる。二点落ちた。何もしてないのに。

 何もしてないから落ちたのか? そんなことある?

 あるんだろうな。そういう仕組みなんだろ。


 俺はスマホを裏返して机に置く。見てるとイライラする。

 ブログの投稿ボタンを押す。投稿完了。短い通知が出る。おめでとうも、何もない。


 椅子にもたれて、天井を見る。

 俺は今、何やってんだろうな。

 でも、少なくとも何もしてないわけじゃない。文章を書いた。出した。世の中に投げた。どこかに届くかもしれない。


 スマホが震えた。

 ブログに「いいね」が一つついた。

 たった一つ。でもゼロじゃない。ゼロじゃないなら、俺はまだ終わってない。終わってないなら、まだいける。


 外で工事の音が遠くで鳴ってる。

 ビルはまだできてない。

 俺も、まだできてない。

 できてないだけだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ