第1話
駅前の工事、まだやってる。ずっとやってる。フェンスの絵だけは立派で、ガラスの高いビルが青空に刺さってる。実物は土と鉄骨と、なんかよく分からん配線。空は曇ってる。寒い。
ベンチに座ってスマホを見る。求人アプリ。昨日も見たやつ。今日も見る。落ちた通知が並んでる。
「選考の結果、ご希望に添えませんでした」
「理由はお伝えできません」
理由を言わないのは、ずるいと思う。
俺が悪いのか、会社が悪いのか、AIが悪いのか、分からない。分からないまま「終わり」だけ置いていく。腹が立つけど、文句を言う場所がない。
右上の数字が出てる。
「適合率 43%」
何に適合しろってんだよ。
でも、その数字を見ると、ちょっとだけ「点数つけられてる」感じがする。点数つけられてるってことは、まだ“試合中”ってことだ。終わってない。俺の中では。
高校生が横を通って、イヤホンの音が漏れてた。うるさいけど、言わない。俺はもう、そういうことで喧嘩する年じゃない。喧嘩しても勝てないし。
SNSの通知が来る。つい開いちゃう。昨夜、予約投稿したやつが流れてる。
「努力すれば報われるって言う人、だいたい運が良いだけ。
社会は才能と運とコネで回ってる」
まあ、これは事実だと思う。誰だって薄々分かってる。口にしないだけだ。
でも反応は少ない。いいね数は小さい。見てるやつ、いるのか?
引用が一件ついてた。
「被害者意識すごい」
ムカつく。
だけど返信はしない。返信したら、相手の土俵に乗る。相手はたぶん暇なんだろう。俺は暇じゃない。暇だけど。いや、暇じゃないってことにしておく。
時計を見る。十時すぎ。
今日は面接はない。何もない。だからこそ、何かしないといけない気がする。何もしないと、一日がそのまま終わってしまう。終わると、怖い。終わると、何も残らない。
とりあえずコンビニに行く。駅前のいつもの店。自動ドアが開いて、暖かい空気と揚げ物の匂いが来る。あれ、食べたくなる匂いだよな。買わないけど。
「いらっしゃいませー」
レジに若い女の店員がいる。名札。髪まとめてる。疲れてる顔はしてない。無表情ってほどでもない。普通の顔。俺に向けて笑ってるというより、誰にでもやってる顔。
缶コーヒーと菓子パンを取る。安いやつ。
レジに並ぶ。前の客が電子マネーでモタモタしてる。俺は見ないふりをする。急いでない。急いでないけど、こういうのを見ると、自分が「待つ側」な感じがして嫌だ。
「ポイントカードはお持ちですか?」
「いや、いいです」
俺はポイントとか、あんまりやらない。
やると「この店の客」って感じになる。別に俺は客なんだけど、なんか嫌なんだよ。言葉にするとくだらないけど、嫌なものは嫌。
会計が終わって袋を渡される。
「ありがとうございましたー」
声は軽い。俺に向けて軽いというより、レジの仕事として軽い。
外に出る。寒い。缶コーヒーを開けて飲む。苦い。これは分かる。数字じゃない。43%でも41%でもない。苦いのは苦い。
帰り道、駅前のモニターで市の宣伝が流れてた。
「手続きはAIで簡単に。窓口に並ぶ必要はありません」
窓口に並ばなくていい。
つまり、窓口で「すみません、これってどういう意味ですか」って聞く場所がないってことだ。
AIって言えば聞こえはいいけど、実際は「人がいなくなる」ってだけだろ。
アパートに戻る。古い。階段の鉄が冷たい。郵便受けはチラシがたまってる。買取とか、投資セミナーとか、英会話とか。みんな景気がいい。俺のところに来るのは紙だけだ。
部屋は寒い。暖房をつけるのがもったいない気がして、そのままにする。
ノートPCを開く。ニュースとトレンドが並ぶ。何が流行ってるとか、誰が炎上したとか。みんな忙しいなと思う。いや、みんな暇だから見てるのか。
ブログの管理画面を開く。タイトルが空欄。本文も空欄。
書こうと思えば書ける。でも、書いたところで誰が読むんだ、って気持ちが邪魔をする。読まれないと意味がないわけじゃない。ないけど、読まれないと、俺は何をしてるんだってなる。
そこで、別タブを開く。生成AI。
最近これを使うと、文章がすぐ出てくる。便利だ。便利すぎて少し怖いけど、便利は便利。
入力欄に打つ。
「地方都市の再開発とAI行政について、ちょっと皮肉っぽい文章書いて。堅すぎないやつ。」
送信。
すぐ文章が出てくる。読みやすい。ちゃんとしてる。
俺が言いたいことに近い。
だから、俺は「やっぱり俺は間違ってない」と思える。AIがそう言ってくれた気がする。実際は言ってないんだろうけど。
文章をコピペして、少しだけ手直しする。語尾を変える。余計な丁寧語を削る。自分の言葉っぽくする。
これで俺の文章になる。そういうことにしてる。
投稿ボタンの上で、手が止まる。
また求人アプリの通知が来た。
「選考結果のお知らせ」
「適合率 41%」
「見送り」
またかよ。
43が41になってる。二点落ちた。何もしてないのに。
何もしてないから落ちたのか? そんなことある?
あるんだろうな。そういう仕組みなんだろ。
俺はスマホを裏返して机に置く。見てるとイライラする。
ブログの投稿ボタンを押す。投稿完了。短い通知が出る。おめでとうも、何もない。
椅子にもたれて、天井を見る。
俺は今、何やってんだろうな。
でも、少なくとも何もしてないわけじゃない。文章を書いた。出した。世の中に投げた。どこかに届くかもしれない。
スマホが震えた。
ブログに「いいね」が一つついた。
たった一つ。でもゼロじゃない。ゼロじゃないなら、俺はまだ終わってない。終わってないなら、まだいける。
外で工事の音が遠くで鳴ってる。
ビルはまだできてない。
俺も、まだできてない。
できてないだけだ。




