第4話:はじめてのステーキ。ロンさん、あーんしてあげますね?
ギルドの厨房が、かつてないほどの本気を出しました。
運ばれてきたのは、厚さ5センチはあろうかという、湯気の立ち上る特大の牛ステーキ。
ガーリックとバターの香りが、ギルド中に広がります。
「わぁ……とっても美味しそうですねぇ、ロンさん。ほら、そんなに眉間にシワを寄せないで」
「……ジャンヌ、貴様はこれを食うのか? 焼けた肉など、生で食らうのと何が違うというのだ」
ロンさんは、目の前の肉料理をまるで「未知の兵器」でも見るかのような目で見つめています。
ドラゴンさんは火を吹きますけれど、意外とお料理されたものには馴染みがないのでしょうか。
「ふふっ。まずは一口、食べてみてくださいな。はい、切りますから待っていてくださいね」
私は慣れない手つきで……いえ、元の世界の記憶を頼りに、フォークとナイフを持ちました。
おっとり、ゆっくり。でも、「竜殺し」の力加減が少し混ざってしまったのか、お皿が「ミシッ」と悲鳴を上げましたが、なんとか一口サイズに切り分けました。
「はい、ロンさん。あーん、ですよ?」
私がフォークを差し出すと、ギルド中の冒険者たちが「ええええっ!?」と、声を殺して仰天しました。
あの殺気を振りまく死神のような男に、あーん、だなんて!
ロンさんは一瞬、耳まで真っ赤にして固まりました。
「……き、貴様。……皆が見ている前で、何を……」
「あら、嫌でしたか? 腕、お疲れかなぁと思ったのですが……」
私が少し悲しそうに首をかしげると、ロンさんは「くっ……!」と短く唸り、観念したように小さな口を開けました。
ぱくり。
「……ッ!!」
「どうですか? お口に合いましたか?」
「……なんだ、これは。……柔らかい。それに、このソースというやつ、舌がとろけそうだ。……人間、意外とやるではないか」
ロンさんの瞳が、驚きと感動でキラキラと輝き始めました。
どうやら、元ドラゴンの最強従者さんは、人間の味覚という新しい扉を開けてしまったようです。
「よかった。じゃあ、次も……はい、あーん」
「……。……もう一口だけだぞ。……あー……ん」
最強の竜を餌付け(?)する、平和すぎる光景。
気絶から覚めたギルドマスターが、その光景を再び目にして、「俺は……夢を見ているのか……?」とまたしても記憶を飛ばしてしまったのは、言うまでもありません。
「ロンさん、美味しいお顔もとっても素敵ですよぉ」
「……黙れ。……ほら、次だ。早くしろ」
最後には、ロンさんの方から催促してくるようになって、私はとっても嬉しくなってしまったのでした。




