第3話:ギルドマスター、伝説の竜(イケメン)を見て記憶を飛ばす
「あらあら……皆さん、とっても慌てていらっしゃいますねぇ」
私がロンさんに(またしても)お姫様抱っこをされながら冒険者ギルドの扉をくぐると、そこはまさに戦場のような騒ぎでした。
「おい、ジャンヌ様だ! 竜殺しの姐さんが帰還されたぞ!」
「……えっ、あの腕の中にいる、お花みたいな格好をした可愛いお嬢様が……姐さん!?」
「それより、あの抱えてる男は何者だ!? 魔圧が……魔圧が強すぎて、空気がピリピリするぞ!」
ギルドの皆さんが、ざわざわと波が引くように道を開けてくれます。
一番奥のカウンターから、泡を食って飛び出してきたのは、筋骨隆々のギルドマスターでした。
「お、おいジャンヌ! 無事だったか! ……いや、そんなことより例の『黒竜』はどうした!? 街へ向かったという報告を受けて、騎士団まで出動する騒ぎに……」
そこでギルドマスターの言葉が止まりました。
彼の視線は、私を抱いているロンさんの、氷のように冷たく、それでいて黄金に輝く鋭い瞳に釘付けになったのです。
「……ロンさん、あの、ギルドマスターが固まってしまいました。首が、カカカッて変な音を立ててますよ?」
私が心配して声をかけると、ロンさんは鼻で笑って、私をカウンターの椅子にそっと降ろしました。
「フン。おい、筋肉の塊。この女……ジャンヌなら無事だ。黒竜なら、もうこの世にはいない。……俺が、『処理』したからな」
「……しょ、処理……!? あ、あの伝説の、国を滅ぼすと言われた黒竜を、お前一人が……!?」
ギルドマスターの顔が、みるみるうちに青ざめていきます。
無理もありません。ロンさんの言葉は嘘ではありませんが、事実は「処理」ではなく「胃袋を掴まれて従者になった」だけなのですから。
「あ、ギルドマスター。ロンさんはとってもお優しいんですよ? さっきも、私が風邪をひかないようにって、素敵なマントをたくさん買ってくださって……」
私がニコニコとロンさんの腕に触れると、ギルドの中の空気が一瞬で凍りつきました。
「あの死神のような男に、笑顔で触れるなんて……!」「やっぱり竜殺しは格が違う……」と、あらぬ方向に尊敬が集まっていきます。
「……ジャンヌ。あまりこいつらに愛想を振りまくな。……それより、さっきから腹が鳴っているぞ。黒竜の肉を食い損ねたのだ、人間の飯というやつを持ってこい」
ロンさんが不遜な態度で命じると、ギルドマスターはガクガクと震えながら、絞り出すような声で言いました。
「わ、わかった……。今すぐ最高級の肉料理を……。……あの、お名前を伺ってもよろしいでしょうか、ジャンヌ様の騎士殿……」
「ロンだ。ジャンヌの……そうだな、所有物とでも言っておけ」
「しょ、所有物ぉぉぉ!?」
ギルドマスターは、ついに許容量を超えたのか、白目を剥いてその場にひっくり返ってしまいました。
「あらら、マスター……。お疲れなのでしょうか。ロンさん、後で肩を叩いてあげましょうか?」
「……ジャンヌ、貴様は少し黙っていろ」




