第1話:竜殺し(自称・冷え性)と、過保護な黒い騎士
「……あらあら、まあまあ」
それが、私がこの世界で最初に発した言葉でした。
目の前には、絵本で見たよりもずっと大きな、山のような黒いトカゲさん——いえ、ドラゴンさんがいらっしゃいます。
「グルル……ついに来たか、宿命の天敵『竜殺し(ドラゴンスレイヤー)』ジャンヌよ! その不敵な笑み、貴様の余裕もここまでだ!」
ドラゴンさんは何やら難しい言葉で叫んでいますが、私はそれどころではありません。
だって、自分の格好が……。
「きゃっ! ……あの、すみません。どなたか存じませんが、あまりジロジロ見ないでいただけますか? この格好、とってもスースーして恥ずかしいんです」
鉄でできたビキニのような……いえ、これ、ほとんど下着ですよね?
おまけに腰には、私の身長よりも大きな、鉄の塊のような剣。
「重いですねぇ……」と、私はよろりとよろけて、その剣を杖がわりに地面に突き立てました。
――ドゴォォォォン!!
「……ひゃんっ!?」
軽く置いたつもりが、地面がクモの巣のようにバキバキと割れ、ドラゴンさんの足元まで地割れが走りました。
ドラゴンさんは「ひっ!?」と短い悲鳴を上げて、飛び退きます。
「……ま、待て。今のは挨拶代わりの一撃か? 地形を変えるほどの魔力を込めるとは……恐ろしい女だ」
「いえ、ただ重かっただけで……。あ、そんなに睨まないでください。目が真っ赤ですよ? 寝不足でしょうか?」
「…………は?」
ドラゴンさんはポカンと口を開けました。
私は、お腹のあたりに当たる冷たい風を避けるため、一歩、ドラゴンさんに歩み寄ります。
「あの、もしよろしければ、何か羽織るものを持っていませんか? その大きな翼を、少しだけ貸してくださると助かるのですが……。風邪をひいてしまいそうで」
「……なっ!? 俺の、誇り高き漆黒の翼を……防寒具にしろと!? 貴様、この俺を……伝説の黒竜を、そこまで愚弄するか!」
ドラゴンさんは顔を真っ赤にして叫びましたが、私が「ダメ……でしょうか……?」と首をかしげて見つめると、なぜか急に黙り込んでしまいました。
「…………。……チッ、分かった。そんな情けない顔をするな。貴様が倒れては、俺の名誉に関わる」
眩い光が溢れ、ドラゴンさんの巨体が収束していきます。
光が止んだそこに立っていたのは、夜の闇のような黒いコートを纏った、それはそれは綺麗な顔立ちの男の人でした。
「ほら、これでも着ていろ」
彼は自分のコートを脱ぐと、私の肩にふわりとかけてくれました。
「わぁ……あったかいですねぇ。ありがとうございます、ドラゴンさん」
「……ドラゴンではない。ロンだ。……ジャンヌ、貴様のような危なっかしい女、俺が側についていなくては別の意味で世界が滅びそうだ」
ロンさんはそう言うと、私の巨大な剣をひょいと肩に担ぎ、そのまま私を横抱きにしました。いわゆる、お姫様抱っこです。
「わぁ……高いですねぇ。ロンさん、力持ちで助かります〜」
「……黙っていろ。まずはその、恥ずかしい格好をなんとかしに街へ行くぞ」
こうして、私とロンさんの奇妙な旅が始まったのです。
……あ、でもロンさん。そのコートの下、ロンさんも少しスースーしていませんか?




