第9話 メイドコボルト、街を行く
翌日、ククルはジャックに連れられて街へと繰り出していた。
外套のフードも外し、ククルはその姿をしっかりと見せていた。それだけ、ジャックのことを信用しているということなのだろう。
ただ、本来であれば人間と魔族という敵対する関係になる二人だ。そこは助けてもらったことに対する感謝ということがあるからなのだろう。ジャックに対するククルの感情はとてもよいものようだった。
二人が街を歩く姿は、街の人たちからはとても注目を集めている。
「ククル、どこから行きたい?」
「そうですね。冒険者ギルドに行かせてもらってもいいでしょうかね」
「うーん、それはやめておいた方がいいだろうな」
ククルはジャックが寄ってきたということもあって、冒険者ギルドに興味を持っているようだ。
ところが、ジャックの方はいい表情を見せていない。一体どういうことなのだろうか。
「どうしてですか?」
当然ながら、ククルは疑問を投げかけている。
「そりゃなぁ。ククルは全身が毛だらけで、獣人というよりはコボルトに見えるからだよ。魔物を狩るだけしか興味のない冒険者に絡まれたら厄介だからな」
「そ、そうですか……」
冒険者ギルドに寄れないとあって、ククルはちょっと残念そうにしている。
「それに、もうひとつ問題がある」
「もうひとつですか?」
「ああ、ククルが背負っているその剣が問題だ」
「剣ですか?」
あれこれ指摘が出てきて、ククルはびっくりしっぱなしだ。一体どういうことなのか、ジャックの顔をまじまじと見つめている。
「普通のメイドはそんな大層な剣を持ってはいない。冒険者と勘違いされて、ギルドに登録させられちまうぞ」
「あー、そうなんですね。それじゃ冒険者ギルドは諦めます」
ククルは自分の背中に目を向けながら、本当に残念そうな表情をしていた。
『我のせいにするな。ぐぬぬぬ……。我の気配を消す能力が人間に通じないから仕方がないが、これでは主の負担にしかならぬではないか』
ククルの背中で、聖剣は文句を言い続けている。これにはククルも声のかけようがなかった。
「せっかくだし、領主にだけは挨拶をしていこうか」
「領主様でございますか?」
「ああ、俺が世話になっている人でな。誰にでも優しい人だから、ククルのこともきっと受け入れて下さるだろう」
「うーん」
ジャックの話を聞いて、ククルは考え込んでいる。
(この街のことを調べてくるように言われておりますので、それなら、この話は受けた方がいいでしょうね)
いろいろ考えた結果、ククルはジャックの申し出を受け入れることにした。
そうして、ククルはジャックについて領主邸までやって来た。
「うわぁ。結構立派な建物ですね」
「まあな。一応この辺りを治められる領主様のお屋敷だからな。俺が話をしてくるから、ちょっと待っててくれ」
「はい」
ジャックが領主邸の門番に近付いて話をつけてくるようだ。
ククルはその様子を、ちょっと離れた位置でじっと見守っている。
しばらくすると、ジャックが手招きをしてくる。
「中に入れるから、こっちにおいで」
「はい」
ジャックに呼ばれたので、ククルは返事をしてジャックのところへと走っていく。
「本当に全身毛むくじゃらなんだな。コボルトじゃないのか?」
ククルの姿を見た門番がストレートに感想を話している。
この反応を聞いて、ククルはドキッとしてしまう。なにせ本当にコボルトなのだから。
「まあ、ククルはコボルトかもしれないけど、これだけきちんとやり取りができるんだ。コボルトじゃなくて獣人だろう」
「そうなのか?」
ジャックが擁護をするものの、門番は疑ってかかっているようだ。
「あの、私は疑わしいのでしょうか」
「ああ、獣人でこれだけ毛だらけなやつはまず見ないからな。コボルトなら納得ができる」
門番はあごを擦りながら、ククルにはっきりと言いきっていた。
「そうですか。でしたら、私がコボルトだとしたら、どうなさるおつもりなのでしょうか」
「魔族だから、討伐だな」
「でも、こいつはちゃんと受け答えをしているぞ。コボルトだとこうはいかないから、毛深い獣人で間違いないんじゃないのか?」
門番は片方疑っているが、もう一人はジャックと同じような感想になったようだ。
こういわれてしまえば、疑っている門番も唸り始めている。
「まあ、疑わしいのは疑わしいだが、ここはジャックの顔を立てることにするか。通してやるが、妙な真似はするんじゃないぞ」
「はい、ありがとうございます。決して妙な真似はしません。ジャックさんに恩をあだで返せませんから」
「うむ、殊勝な心構えだな。それじゃ、通ってよし」
ククルの態度を見て、門番は二人ともククルの入場を認めたようである。
こうして、どうにか領主と会うことになったククルだが、ジャックが慕っているという領主とはどんな人物なのか、それがかなり気になっているようだった。
街の情報を集めるためにも、ククルは気を引き締めて領主邸へと足を踏み入れていくのだった。




